「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」作品集

友への手紙

最後の相談

をじろう(北海道札幌市)35歳

「なあ、先生、ちょっと聞いてや」
君は時々そう言って、放課後に残った。
大阪。通天閣のすぐそばに、君が通い、僕が担任をしている、小さな学校があった。
「何だい?」僕がそう尋ねると、君ははにかみながら言った。
「うん、好きな人がおんねんけど、どうもうまく話せないんよ」

まだ小学生だった君。
大人が聞くと微笑ましく感じても、君にとっては真剣なものだった。
他にも「友達のこと」「将来の夢」「算数のこと」「速く走る方法」とテーマは多かった。
話が長引いて、下校時刻を過ぎてしまうこともあった。
そんな僕らは、いつしか親子のようだと言われた。○○ジュニアと呼ばれて、君もまんざらでもない顔をしていた。
学生気分が抜けきっていなかった僕も、君と話しているうちに、教師として、人としてどう接したらよいのか考える機会をたくさん得ることができた。

三月。卒業式で、君と写真を撮ることになった。
君は、少し高くなったけれどまだ届かない背を伸ばして、肩を組んできた。
肩に感じる重みが、五年生、六年生と過ごした二年間を物語っていた。
撮影した後、君は真面目な顔でこう言った。
「先生は、ずっと今みたいな先生でおってな」
君の最後の相談に、僕は即答した。
「うん、わかったよ」
僕らはそれからぎゅっと握手して、別れた。
手の温もりを胸に、僕は僕で、地元へと戻ることになっていた。

それから二年後の冬、君がまだ十四歳の若さで亡くなったと聞いた。
僕は雪のふりしきる中、人目もはばからず泣いた。
「あいつ、先生のこと携帯に『恩師』って、登録してましたんや」
君のお父さんの言葉に、君がどれほど僕を慕ってくれていたかを改めて知った。
喪失感に押しつぶされそうな日々の中で、君の思いに応えるすべを必死で探した。

あの日から幾年かが経った。
今、君の同級生たちは、あの頃君の夢見ていた「将来」に近づいている。保育士さんや看護師さんを目ざして勉強したり、野球留学したり。
残念ながら、君の時は止まったままだけれど。

僕もまた、一つの答えを見つけた。
何ということはない。
君と過ごしたあの頃のように、一人一人の子どもの声を聞いて一緒に悩むこと。
それこそ、僕にできることだと。

ともするとくじけそうな日々にも、君が叱咤激励してくれる声が、僕には確かに聞こえてくる。
この夏も、また君に会いに行くよ。通天閣が見えるあの街に。


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