「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」作品集

父への手紙

今は亡きお父さんへ

高橋 洋子(栃木県足利市)59歳

お父さんそちらの住み心地はいかがですか。
きっと懐かしい人たちにも逢えたことでしょう。
大正生まれのお父さんは頑固で気難しいのに寂しがりやの人だから、母がそばにいなくて大丈夫かしらと心配しています。
盛りだくさんの人生に幕を閉じて旅立ってから二年半になりますね。
子供の時に経験した関東大震災、成人になり、希望の地、満州に渡り、徴兵されて、その後ソ連での長い抑留生活を送りました。
人生の最後は穏やかに気仙沼の自宅で迎えるはずが、東日本大震災の津波で被災者となってしまったのだから、十分すぎるほどの厳しい人生でした。
その後、まさか九十三歳になって、私の住む栃木県で暮らすことになろうとは、お互い思ってもみませんでしたね。
家に帰りたいと強く願っていたけれど、復興には時間がかかりすぎました。
帰してあげることができなくてごめんなさい。
最後にお父さんに伝えたいことは、一番気がかりであろうお母さんの近況報告です。
現在は、気仙沼に戻り、兄さん夫婦と一緒に未だに仮設住宅で生活しています。
昨年九十四歳を迎えたけれど、持ち前の大らかさと前向きな性格のお蔭で、決して悲観することなく元気にしていますよ。
お父さん、「お母さんはのうてんきだなあ」なんて言ってるんじゃないかしら。
仮設の中でも一番の長寿で、元気なものですから、皆さんから目標にしたいなんて言われているようですよ。お父さんの分まで長生きして自宅に戻れる日を心待ちに暮らしています。
そんな訳で、申し訳ないけれど、お父さんのそばにはまだまだ行けそうにありません。
もうしばらく再会はお待ちくださいね。


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