「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」作品集

子どもたちへの手紙

あなたの遺影

田中 和子さん(57歳) 大阪府大阪市

あなたが逝って、今年の春で七年が経ちました。
私は最近ようやく、和室の小さな仏壇の前に座って、手を合わせることができるようになりました。押入れに仕舞いこんでいたあなたの遺影も箱から出して、長押(なげし) に飾りました。

それはこの春のお彼岸に、娘と二人で京都にあるあなたのお墓にお参りに行ったときから考えたことでした。墓参りの帰り、産寧坂の近くの茶店で、娘の口からあなたの死を未だに友人達に秘していると聞かされ、私は驚いて声が出ませんでした。気を取り直して、父親のことを聞かれたら何と答えているのかと尋ねると、まだ生きているように話しているというのです。私は愕然としながら、娘の心中を慮ると胸が痛みました。父親であるあなたを失った時、娘はまだ中学一年生でした。
「どうして?」と続けて訊くと、「だって、同情されたり哀れんだりされると鬱とうしいもん」と娘はつっけんどんに答えました。「母さんもそう思わへん?」と同意を求められて、私は答えに窮しました。その通りだったからです。
私も未だに同僚や友達にあなたが亡くなったことを言いたくありませんし、訊かれたくもありません。七年前、何の前触れもなく突然私たちの目の前から居なくなった、辛く苦しかった日のことを思い出してしまうからです。

娘が今なお固く心を閉ざしているのは母親の私のせいでした。私こそが未だに立ち直れてなかったのです。そんな私を見て、きっとあなたは心配でまだこの世とあの世を行き来していたのではありませんか。安心して天国に旅立つことが出来なかったのではないかと今になって悔いています。

ごめんなさい。私はようやくあなたの遺影に見守られて前を向いて歩いていくことが出来るようになりました。
いつか私がそばに行くその日まで、写真のままの若いあなたでいてくださいね。

【受賞後のお便りより】
銀賞の賞状・賞金、確かに拝受いたしました。
三日間東京に出張しておりまして、返信が遅れましたこと、まことに申し訳ございませんでした。
六月三十日、仕事から帰ってくると、留守電が入っているのに気づかず、娘と二人いつものように向かい合って食事をしていると、突然の電話。
田舎にいる兄に違いないと思い込んでいたら、担当の方のお声が仕事上お付き合いのある方にそっくりで、完全に勘違いしてしまいました。
電話の向こうでさぞや戸惑っていらっしゃたことでしょう。
早とちりでそそっかしくて、本当に申し訳ありませんでした。
手紙形式のものを書いたのは初めてで、まさか受賞するなど思ってもいなかったので、ただもうびっくり。賞金の三万円ありがたく頂戴いたします。
夏休みに娘と二人、何か美味しいものでも食べに行こうと考えております。
本当にありがとうございました。


夫への手紙一覧に戻る