「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」作品集

子どもたちへの手紙

わが家の絆、三本の桜

井尻 茂子さん(82歳) 兵庫県神戸市

あなた、今年も桜の美しい季節になりました。わが家の「三本の桜」は今も見事な花を見せてくれています。

長男が生まれた時、あなたは喜んで庭に桜の苗木を植えてくれました。翌年、次男が誕生した時も並んで苗を植えましたね。
二本の桜はスクスク育ち、やがて二、三輪の可愛い花をつけるようになりました。

少し離れて長女が生まれた時は、あなたは仕事が忙しく、私は子育てで手が一杯で、桜の苗を植えることなどスッカリ忘れてしまっていました。
娘が一年八ヵ月の時、あなたは思いもかけぬ突然の事故で、「あっ」と言う間に天国へ行ってしまいました。
その後、娘は物心が付くと、お父さんが植えた兄たちの桜のことを聞き、「どうして私の桜は無いの?」と尋ねるようになりました。私はその度、言い分けをしなくてはなりませんでした。

あなたが亡くなって数年後、不思議なことに、二本の桜の間から枝分かれするように細い幹が出て、それは見る見るうちに伸び、まるで二人の兄の間で手をつなぐ妹のように、三本の桜の木のように見えて、可憐な花を咲かせるようになりました。きっと、あなたが長女のために植えてくださったのですね。
あなたのお顔を覚えていない娘も「お父さんにもらった私の桜」と言って、大切にしていました。

今では三本の桜も立派な大木になり、毎年、見事な花を咲かせています。満開のころには結婚して家を離れた子供や孫たちも集まり、賑やかに「お花見」を楽しんでいます。
あなたが植えてくださった桜が、五十年以上も経った今も、家族を結ぶ大切な絆となっていることを、とてもうれしく思っています。
あなたもきっと、喜んで見守ってくださっていることでしょう。
私が、そちらへ行く時には、「三本の桜」の写真を持って行きたいと思っています。

【受賞後のお便りより】
前略、此の度は私の拙い文章を評価していただき、入賞できましたこと、誠に嬉しく思って居ります。
賞状及び賞金、有難く頂戴致しました。
「今は亡き人」もきっと喜んでくれている事でしょう。
八十才を過ぎても、何事も挑戦すればこんな嬉しい事もあるのだと、改めて励みになりました。
写真は最近は撮っておりませんのでありませんが、一言御礼を申し上げます。


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