「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」作品集

妻への手紙

5年目の桜

杉本 宜昭さん(51歳) 東京都墨田区

東京にも、桜の開花宣言が出ました。この季節が近づくと、毎年見に行っていた自宅近 くの隅田川沿いのお花見を思い出すね。でもカオルと桜を見に行ったのは結局2004年の春 が最後になってしまったけど。翌年はホスピス病棟のベッドの上だったから。  

ところでカオルはもちろん知らないけれど、亡くなってから僕は伴侶と死別した人たち の自助グループを立ち上げて、今は会の代表をしているんだよ。 会では毎回一つのテーマを設けて会員と語り合っていて、3月は「受容」。
難しい言葉だけれど、死の現実を受け入れることはできるのか、どのくらい経過した時点 で死別後の生活に慣れることができるのかといった意味合いです。
カオルの場合は、乳がんが見つかってから4年間の闘病期間があったので僕は 「いつか死んでしまうのかもしれない」という覚悟していた。でも48歳という若さ、その 無念さを思うと最期のときは想像を絶するほどの喪失感が全身を襲ってきた。
それでも不思議なことに告別式のとき、ほほえみかける遺影を前にお坊さんの読経を耳に すると『本当に、あちらの世界に逝ってしまったんだ』と、現実を受け入れることができ た。一生分を使いきってしまったのではないかと思うほどの涙を流していると、不思議と すっきりした気分になれた。

カオル。式場では、ハープを生演奏してくれたよ。やさしいメロディにつつまれながら、 葬儀社の方はとても丁寧に旅装束を着せてくれて、顔は元気なころのカオルのまま、とて もきれいだったよ。
喪主のあいさつでは僕は2人の出会いから楽しかった思い出まで、ところどころ声になら なかったけれど参列者の前で語らせてもらったよ。
帰宅してから当時中学1年だった甥の大二朗が「ぼく、葬儀会社の仕事をしたい」と言っ ていたのがおかしかったけれど、中学生の目から見てもその時の葬儀がとても感動的に印 象に残っていたんだろうね。  

今年の桜もまた、もうすぐ満開の芽を吹き出します。
僕たちの絆も繋がっていることを 感じています。


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