「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」作品集

父への手紙

ネクタイ

坂井 和代さん(45歳) 石川県石川郡

お父さんが亡くなって5年。
1月12日も今日みたい寒い日でしたね。

ネクタイ「中に一緒に入れる物をさがして下さい。生前大切にしていた物。燃える物がいいです。」とお通夜の準備のあわただしい中、母に聞くと「そのタンスの中にネクタイ入っている。」と。
リタイアしてから入退院をくり返し、必要となくなった物はネクタイだった。本当に大切な物、必要な物以外は処分されていたので数える程しかなかった。
「このネクタイ…。」タンスの前で時が止まった。

「父のプレゼントなんです。初給料の。」デパートのネクタイ売場。短大を卒業し就職。はじめてのお給料で父にネクタイをプレゼントしようと思った。「お父様はどんな方ですか。」とデパートの方。「50才を少しすぎたところ。背は172cm。ロマンスグレーです。」と。色も柄もありすぎて、初めて入ったネクタイ売場に困ってしまい売場の方に助けを求めた。
「これならどうでしょう。」とうすいピンクとむらさき色のストライプ。一本で給料の10分の1の値段だった。高くておどろいたが感謝の気持ちを伝えたかったので「お願いします。」と包んでもらった。

今日はランドセル忘れるなよ。」家から学校まで歩いて一時間。毎日父の車で通った。寒い吹雪の朝も車に乗るとふわりと暖かく、ラジオから流れる曲を聞きながら学校に行った。いつも車は暖かいものだと思っていた。大人になり免許を取ってからはじめて暖めていてくれる父がいたから暖かかったんだと知った。

「いつこのネクタイしてくれる?」と父にたずねると「もったいないから。」としてくれずじまいのネクタイが、20年も処分されずにタンスにかかっていた。こらえていた涙が流れた。バラの形にくるくると丸めて、中に入れた。

お父さん、あのネクタイしてくれていますか。

【受賞後のお便りより】
4月29日より横浜から船にのって北京へ、主人と12日間の船旅です。
今回の賞金が届いたのが4月24日、亡き父からの餞別のような気がしてなりません。
いただいた賞金を父の形見の小銭入れにいれました。
生前「万里の長城に行ってみたい。」と病床で言っていました。
小銭入れと共に一歩一歩のぼってきます。


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