だれかのため、なにかのために命を散らした若者たち【辞世の句―幕末・維新編】


 死に直面したとき、あなたはどんな言葉を遺しますか? 最期の言葉として自分の死後も伝えられる「辞世の句」。

 たくさんの歴史上の人物や有名人が、辞世の句を遺しています。今回はその中でも「幕末・維新編」として、国の行く末を決める時代に奔走した若い志士たちの辞世の句をまとめてみました。(和歌、俳句の体裁を取っていないものもあります)

身はたとひ
武蔵の野辺に
朽ちぬとも
留め置まし
大和魂
       吉田松陰

絹本着色吉田松陰像(山口県文書館蔵)

 吉田松陰は長州藩(現在の山口県)の思想家で、松陰の松下村塾の門弟からは高杉晋作や伊藤博文など、幕末の志士がたくさん輩出されました。

 松陰は幕府の老中を暗殺する計画を立てたことで江戸・小伝馬町に投獄され、そこで処刑されることを知って遺書とでもいうべき「留魂録」を門弟のために書きます。この句はその冒頭に記されたもの。自身がたとえ処刑されても、自分たちの思想は死なないのだ、ということを伝えたかったのでしょう。

おもしろき
こともなき世を
おもしろく
        高杉晋作

松下村塾出身の倒幕の志士。

1867年没。死因は肺結核でした。看病していた野村望東尼が「すみなすものは心なりけり」という下の句をつけたと言われていますが、史実ではないという説もあります。また、「おもしろきこともなき世『』おもしろく」だったという説もありますが、晋作自身の自筆がないのでどちらが本当かはわかりません。

師であった吉田松陰、そして晋作自身も命を懸けた倒幕が決定的となったのを見届けて亡くなった晋作。やり遂げられたと思えたのか、もう少し生きて新政府のために働きたいという無念さがあったのか、さてどちらでしょう。

よしや身は
蝦夷が島辺に
朽ちぬとも
魂は東(あずま)の
君やまもらむ
     土方歳三

撮影:田本研造(国立国会図書館蔵)

 まるで吉田松陰の辞世の句に対応しているかのような、新選組副長の辞世の句。

 新選組は幕府方として最後まで剣を持って戦いました。土方歳三は箱館・五稜郭で銃弾を受けて戦死するまで、「鬼の副長」と呼ばれた人物です。

 辞世の句がいつ詠まれたかというのは諸説ありますが、「東の君」は徳川家のことだと思われます。

君が為
尽くす心は
水の泡
消えにし後ぞ
澄み渡るべし
     岡田以蔵

「人斬り以蔵」の名で知られる土佐郷士、岡田以蔵。もちろん手当たり次第人を斬っていたのではなく、「天誅」として、尊王攘夷に反対する勢力に対して制裁を加えていたのです。「人斬り以蔵」は司馬遼太郎の小説によるものです。

日本国のためといって人を斬ってきた岡田以蔵ですが、土佐を脱藩したのち京都における数々の暗殺事件に関与していたとして捕縛されます。その際拷問に耐え切れず泣きわめき、暗殺に関与した別の同志の名を自白したという逸話が残っています。

そのまま28歳の若さで打ち首、獄門となりました。この句は「主君のために尽くしたわたしはこうして処刑され消えてしまいますが、そのあともわたしの澄み切った心は残るでしょう」というような意味ですが、この「君」は「天皇」であるか、指導者であった武市瑞山のことか、解釈がわかれるところです。

ただ皇天后土の
わが心を知るのみ
     江藤新平

 明治維新の立役者で、明治新政府では官吏として働いた江藤新平。

 新政府になってから江藤新平は佐賀に戻って挙兵するのですが、その後逃亡した際使われた「写真手配制度」(現在のように逃亡者を写真を使用して探す制度)も江藤本人が確立したもの。なんとも皮肉なことに、適用第一号は本人だったのです。

 江藤は写真手配のためにすぐ捕まり、ろくに裁判も受けさせてもらえずに打ち首になってしまいます。この句は、まさに処刑される直前に江藤が三度口にしたというもの。日本をよいものにしたいという思いは同じだったはず。何とも言えない悔しさが滲む最期の言葉です。

さつきやみ
あやめわかたぬ
浮世の中に
なくは私しと
ほととぎす
     桂小五郎(木戸孝允)

国立国会図書館蔵

 長州藩士として倒幕を成し遂げ、新政府では廃藩置県を実現した木戸孝允。西郷隆盛が起こした「西南戦争」のさなか、45歳で病死します。

 死に際して口にした最期の言葉は「西郷も大抵にせんか」だったそうですが、上記の句はまだ倒幕が成る前、京都で活動をしていた桂小五郎が死を覚悟した時に詠んだもの。

 「五月の(梅雨の)夜のように、正しいことと邪なこととの区別がつきにくいこの世の中で、声を上げ続けるのはわたしとほととぎすだけなのだ」

 

 

世の中が大きく動いているけれども、いったい何が正しいのか、その中にいる本人たちにも判断がつかなかったのかもしれません。ただ自分の信じるように行動していた志士たち。正しいかどうかはわからないけれど、自分の信じるものがきっと日本の未来のためになるという思いは倒幕派、幕府方、どちらの若者も変わらなかったのではないでしょうか。

 

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