家族など身内が亡くなった際、遺族が一定期間、喪に服することを忌服(きふく)、または服忌(ぶっき)ともいいます。この忌服の期間を喪中といい、この期間は故人の冥福を祈り、お祝い事など派手なことは控えて、つつましやかな生活を送るのが習わしです。服には、故人の死を悼み喪服に身を包むという意味があります。古くは、喪中の間は家庭の中でも喪服を着て外との接触を避け、家の中に閉じこもるなどしていました。
目次
喪中と忌中の違いとは?
社会から穢れを隔離する忌中
喪中としばしば混同されるのが、忌中です。
忌中というのは、身近に不幸があった人が死の穢れがある間は社会的な活動を控えるというものです。かつて死が穢れとされていたころの習わしの名残で、死がほかの人に伝染することの無いよう、人々の生活する共同体から隔離するという意味がありました。この期間は仏教では49日間(四十九日法要まで)、神道では50日間(五十日祭まで)とされています。
忌中の由来は、殯(もがり)の儀礼にまでさかのぼると考えられています。
日本の最も古い葬儀の様式ともいわれ、死者が出ると遺族は仮小屋を建て、その小屋の中で一定期間、故人と共に暮らしました。殯を行う理由については、死者の蘇生を願うものであったという説もあれば、一方で死者の祟りを防ぐためともいう説もあります。
殯の期間は、遺体が白骨化するまで行われたようで、故人の身分が高いほど長期にわたったといわれています。この期間、食事を作る際に煮炊きする火も穢れていると考えられたため、遺族は調理のための火種も普通の人とは分けられ、「別火生活」ともいわれていました。
自主的に行動をつつしんで故人の冥福を祈る喪中
このように忌中は死を忌み嫌う社会的な強制力が働いていたのに対し、喪に服するというのは、どちらかというと自主的な行為となります。生活をつつしんで、故人の冥福を祈るという意味があります。
門を閉ざし、家の中でも喪服を着て人との交わりを避ける。慶事や祝い事への出席は控えるなどしていました。
四十九日までが忌中、一周忌までが喪中
忌中と四十九日と満中陰
忌中は四十九日まで。喪中はおよそ一周忌までが一般的です
現在では、仏式の忌中の期間は、故人が亡くなってから四十九日法要までを指します。地域や宗派によっては三十五日という場合もあります。
仏教ではこの期間、次の生を受けるまでの期間とも考えられており、この期間を中陰(ちゅういん)または中有(ちゅうう)ともいいます。この中陰が終わる日を中陰の満ちる日と書いて、満中陰といいます。この期間を過ぎると忌が明けるとされ、忌明けの法要が営まれます。
喪中の期間はいつまで?
一方、喪中は忌が明けた後も続き、一般的には一周忌までの期間を指します。
喪中の期間がいつまでかということについては、特に決まりはありませんが、一周忌までを喪中とすることが多いようです。
あくまで本人の気持ち次第で、深い悲しみを感じるのならばより長い時間が必要になりますし、反対に立ち直りが早ければ短い期間で済むこともあります。
参考までに、明治7年に江戸時代の武家の忌服制度に基づいて発令された、太政官布告式家制服忌令をみると、忌日数と、服喪日数は次の通りです。父母と夫の服喪期間は13ヵ月とほぼ1年間となっています。
太政官布告式家制服忌令 | ||
故人 | 忌日数 | 服喪日数 |
---|---|---|
父母 | 50日 | 13ヵ月 |
養父母 | 30日 | 150日 |
夫 | 30日 | 13ヵ月 |
妻 | 20日 | 90日 |
嫡子(ちゃくし) | 20日 | 90日 |
養子 | 10日 | 30日 |
兄弟姉妹 | 20日 | 90日 |
異父母兄弟姉妹 | 10日 | 30日 |
祖父母 | 30日 | 150日 |
曾祖父母 | 20日 | 90日 |
孫 | 10日 | 30日 |
おじ・おば | 20日 | 90日 |
いとこ | 3日 | 7日 |
おい・めい | 3日 | 7日 |
忌中・喪中に避けること、遠慮すべきこと
忌中、喪中にある場合、故人の死を悼み、その冥福を祈ることから慶事などは避けるという考え方があります。これらのことは、必ずしもそうしなければならないというわけではありません。
一般的に避けた方がいいとされているのは、結婚式への出席などお祝い事、慶事とされることです。ただし、身内に不幸が起こる前からすでに決まっていたことについては、参加してもよいといわれています。また、遠方への旅行や豪遊など、贅沢にお金を使う行為も自重するのが一般的です。
ある意味、他の人から見たらどのように映るのか?どのように受け取られるか?ということによるといってもいいでしょう。常識の範疇を逸脱しない行動をこころがけ、その時々の状況に応じて対応するとよいでしょう。
喪中の年末年始、お正月の過ごし方
正月も新しい年を祝う慶事であるため、喪中の間はお正月の飾り付けや、初詣、年始の挨拶などの正月行事は避けた方が良いとされています。
お正月飾りはしてもいいの?
もともとお正月は、新しい年の歳神を迎える行事です。歳神を迎え入れる準備として、年末から大掃除を行って家の中を清め、しめ縄や門松を飾り、鏡餅をお供えしました。
地域によってもその迎え方はさまざまですが、仏教が日本に伝来する以前からあった信仰が基になっていると考えられています。死は穢れという考え方もあって、基本的に身内に不幸のあった家庭などでは、こうした神事には参加しないのが通例でした。こうした名残から忌中を過ぎた後も、喪中は正月行事も控えるというのが一般的です。
喪中のお正月ではおせち料理は食べていいの?
おせち料理の本来の意味は、季節の変わり目をお祝いする日、節日の料理という意味です。しかし近年は特にお正月を祝う料理をおせち料理というようになりました。
さて、このおせち料理を喪中のときに食べてもいいの?というと、食べない方がよいというのが通例です。縁起がよいとされている食材や料理がたくさん並んだおせち料理は、お祝いの料理です。喪に服し、お祝い事を避けている時期には控えた方がよいでしょう。
喪中にお年玉をあげてもいいの?
子どもたちが楽しみにしているお年玉は、もともとは賜物(たまもの)といって、神からのいただきものといった意味があったそうです。お正月に神様にお供えしたお餅を、皆で分けて食べました。
今では新年のお祝いごとの一環として、子どもたちなどにお金などをあげるようになりました。本来の意味から考えると、お祝い事なので喪中のときには控えた方がいいでしょう。しかし、子どもたちも楽しみにしていることでもあります。表書きに「あけましておめでとう」というように、お祝い事について書かれていないポチ袋を選んであげるということもあるようです。
喪中に初詣に行ってもいいの?
喪中の初詣は神社やお寺によって考え方が違います。喪中の初詣は、慶事という点では、一般的には避けた方が良いとされています。しかし、参拝という点では、神社とお寺によって考え方は異なります。
神社については、喪中であるおよそ1年間は参拝を避けるべきというところと、50日を過ぎていれば参拝をしても問題はないとするところもあるというように、それぞれの神社によっても考え方はまちまちのようです。
このように期間が神社の考え方によって異なるというのは、死を穢れととらえる神道特有の考え方があるようです。そのため、神道でいう50日の忌中を過ぎていれば、穢れもないので参拝をしてもかまわないという神社もあるわけです。
一方、仏教の場合、死を穢れととらえることはありません。そのため、忌中であっても、喪中であっても寺院へ参拝すること自体は問題はありません。
従って、もしも喪中のお正月に参拝するのであれば、お寺にお参りをするのがいいかもしれません。もちろん、年末年始のお墓参りなどは、喪中であっても通常通り行って問題はありません。
喪中にお歳暮のやり取りはしてもいい?
喪中のお歳暮については、通年通りのやり取りをして良いでしょう。ご自分が喪に服している方から一般の方に贈る(送る)、もしくは一般の方から喪中の方に贈る(送る)、どちらも問題はありません。
喪に服するというのは、お祝い事、慶事などへの参加を控えて、身内の死を悼み冥福を祈ることです。かつては服喪中は、家の中でも喪服を着て、人に会うことも控える、散髪もしないというように制限もありましたが、現在ではそこまでする必要はありません。
お歳暮の本来は、御霊祭り(みたままつり)といって、お盆と同じように先祖の霊を祀る行事のための食べ物を持ちより、飲食を共にしたということが始まりといわれています。
慶事やお祝い事ではなく、また特に現在では目上の方への感謝の気持ちを表すための季節の挨拶という意味合いなので、喪中であってもお歳暮の贈答は差し支えないという考えです。
注意する点としては、贈る際の熨斗(のし)です。通信販売やデパートなどを利用して発送する場合、紅白の水引と熨斗を掛けた(印刷した)包装をしてくれます。喪中にはふさわしくないと考える場合は、白字や無地の包装に変更してもらうと良いでしょう。
なお、お盆の時期のお中元についても同様に、季節の挨拶であるので控える必要はありません。
喪中でもお歳暮の贈答は問題ありません
喪中の年賀状はどうする?喪中はがきとマナー
喪中はがきは、年賀欠礼状などともいいます。身内に不幸があり、喪に服している期間中であるため、年賀の挨拶を控えるという旨を伝えるものです。
年賀の挨拶は、奈良時代や平安時代から行われていたといわれています。1月1日の元日から15日の小正月までの間に、目上の方や父母、親せきなどに挨拶をする習わしです。さらには、年末に一族が集い、夜明かしをしながら歳神を共に迎える行事だったともいわれています。
年賀はがきとは
今のように年賀の挨拶を書状で行うようになったのは、明治時代に入って郵便制度が発足してからです。ただし、それ以前にも書状で年賀の挨拶を送るということは行われており、古くは平安時代にもみられたそうです。
年賀の挨拶をはがきで送るようになったのは1873年、郵便はがきが販売されるようになってからです。今のような年賀はがきが登場したのは、1949年「お年玉くじつき郵便葉書」がはじまりです。官製はがきとしてはじめて、年賀はがきとなります。
喪中はがきとは?年賀の欠礼と訃報通知の2つの意味
喪中はがきは、喪に服しているため、年賀の挨拶欠く失礼を詫びる知らせです。年末、先方が年賀状の準備を始める前に届くよう、送るのがマナーです。
また、本来は欠礼状であった喪中はがきですが、家族葬など葬儀の規模が小さくなった昨今、年賀の欠礼に対する詫び状という意味合いだけでなく、訃報通知という意味合いも加わる傾向があります。
喪中はがきに写真は入れてもいいの?
年賀状にはお子さんやご家族の写真を印刷したものもありますが、喪中はがきに故人の写真を入れることはまずありません。
しかし、近年、芸能人・有名人のお別れ会などの会葬礼状には、故人の遺影や生前の写真、また故人が書いた書などを印刷する場合もあります。
今後、お葬式の在り方、考え方が変化する中で、会葬礼状だけでなく故人の遺影などをプリントした喪中はがきが一般的になる可能性がないわけではありません。
喪中はがきを送る時期は、11月中旬から12月上旬に届くように
年賀欠礼の挨拶状である喪中はがきを出すタイミングは、早すぎず、遅すぎずというのがポイントです。11月中旬から12月上旬、12月15日くらいには遅くとも届くように準備し、送るといいでしょう。
あまりに早すぎる時期に送ってしまうと、日ごろから交流がある方は別として、年賀状のみのやり取りなどそれほど深い交流がない場合、受け取った側が年賀状を準備するころには忘れてしまうという可能性があります。
一方、遅すぎてしまうのも問題です。先方がすでに年賀状を用意してしまっていたり、もっとタイミングが悪いとすでに送ってしまった後に喪中はがきが届いてしまうという事態にもなりかねません。受けた方にかえって心配をかけさせてしまいます。
喪中はがきを受け取る側のスケジュールなども考えた上で、相手が年賀状を書き始める少し前の時期に届くように出すのが望ましいでしょう。
なお、文面がある程度印刷されている喪中はがきを使用する場合や印刷会社などに発注する場合、サンプルの文例で日付が12月となっているものがあります。11月中に届くように送る際など、自分が送るタイミングに合うように確認する必要があります。
喪中はがきを送る相手は?葬儀に参列した人にも送る?故人の知り合いには誰が送るの?
喪中はがきを送る先の範囲は、毎年年賀状をやり取りしている相手です。
身内の不幸をすでに知っている親族に対しては出さないケースも多いようですが、喪中はがきの本来は、「喪中のため新年の挨拶ができなくてすみません」というように、年賀の挨拶を欠くことに対しお詫びを伝えることが目的です。
しばしば、自分が喪中であることを知らせる、また家族葬など身内で葬儀を行ったため、故人の死を知らない方に葬儀があったことを報告するという意味合いで考えられていることもあるようですが、それは本来の意味から考えると間違いです。従って、親族や故人の葬儀にも参列していただいた方など、すでに故人の死を知っている方にも、喪中はがきは送ります。
また、故人とのみ年賀状のやり取りのあった方には、葬儀で喪主を務めた方の名前で出すのが一般的です。この場合、特に遠方の方など、年賀状のみのやり取りで故人が亡くなったことを知らせていなかった方への喪中はがきは、年賀の欠礼というよりも、故人の死を知らせる訃報通知の意味合いが濃くなります。故人とどれだけ交流があった相手なのか、どのような関係であったのかを考慮して、送る文面なども決めましょう。
仕事関係の方へは年賀状と喪中はがきはどちらを送る?社葬の場合、取引先への年賀状は送る?
近年では、職場や仕事関係の方へは通常通り、年賀状を送るというのが一般的となりつつあるようです。公私を分けるという考え方のようです。
同様に、会社の創業者や社長などが他界し、社葬やお別れ会などを行った場合でも、会社から取引先企業へは例年通り年賀状を送るのが通例です。
また、最近では喪中であっても故人を知らない相手には、いつもと同じように年賀状を送るというケースも多いようです。
喪に服するという行為自体がプライベートなものなので、そのあたりは個々の判断によるという傾向は近年、強まる傾向にあるようです。
喪に服するのはどこまで?自分が喪中はがきを送るべきか、年賀状を送ってもいいのか迷ったら?
身内の不幸といっても、喪に服すべき身内はどこまでの範囲とするのか、判断が難しいこともあります。
この場合、故人が自分の両親、配偶者、兄弟姉妹、子ども、配偶者の両親というのが目安といわれています。二親等までという説もありますが、同居をしていない、世帯が別ということであれば、年賀を欠礼する必要はないという考え方もあります。
また、喪に服すること自体が自主的な行為であるように、三親等の人物だから喪に服してはならないというわけでもありません。
喪中はがきの書き方
喪中はがきの書き方は、簡単に、年賀欠礼の詫び、故人の情報、生前のお付き合いの感謝、そして今後のお付き合いのお願いです。
まず、書き出しで、喪中のため新年の挨拶ができないということを詫びます。
「喪中につき新年のご挨拶を失礼させていただきます」などです。冒頭の部分に大きく、はっきりと書きましょう。
次に、誰がいつ他界したのかということについて記します。
「〇月〇日 祖父〇〇が〇〇歳にて永眠いたしました」などと書きます。
詳しい日付や年齢は省いても構いませんが、故人がどのような関係に当たるのか、その続柄や、亡くなった月は書くようにしましょう。
そして、故人が生前お世話になったことに対する感謝です。「平素よりのご厚情に深謝いたします」といった言葉です。最後に、今後も変わらないお付き合いを願う言葉を加えます。
「これからも変わらぬご交誼のほど謹んでお願い申し上げます」などとし、そのはがきを書いた日付も忘れずに書きましょう。
喪中につき新年のご挨拶を失礼させていただきます
〇月〇日 祖父〇〇が〇〇歳にて永眠いたしました
平素よりのご厚情に深謝いたします
これからも変わらぬご交誼のほど謹んでお願い申し上げます
〇年〇月〇日
差出人の名前
なお、年賀欠礼の挨拶状であるため、近況報告などは控えるのがマナーです。
喪中はがきが間に合わなかった、または年末に不幸があった場合の対処
喪中はがきが間に合わず、先方から年賀状が届いてしまった、または年末など年賀状を用意する時期を過ぎて不幸があった場合などは、年が明けて1月7日の松の内を過ぎて後、寒中見舞いを出すようにしましょう。
この時の文面は、「寒中見舞いを申し上げます」からはじまり、年賀状をいただいたことへのお礼、いつ、誰が亡くなったのかということを伝える言葉、そして年始の挨拶を欠いたことと、連絡が遅くなったことへの詫びという流れが一般的です。
これは、喪中であることを知らない相手から年賀状を受け取った場合も同様、寒中見舞いを送ります。
喪中はがきが届いたら
喪中はがきが届いた場合の対応についてです。
近年は家族葬など葬儀の規模が縮小化する中で、喪中はがきが年賀欠礼だけでなく、訃報通知という意味を持つようになっています。喪中はがきを受け取ってはじめて、遠い親せきや友人、知人が他界したことを知るというケースも増えています。
この場合、故人への思いを伝えたかった、お葬式に参列して最後にお別れをしたかったという方もいらっしゃるでしょう。この場合、喪家に連絡をして弔問に伺うということもありますが、故人との関係に応じては、手紙を書いて弔意を表すということもあります。
この場合、訃報を知って驚いたことと、故人の冥福を祈る旨を綴ります。また生前の故人との想い出や、お世話になった事への感謝の気持ちを伝えます。
また、遺族の方々は大切な方を失って、精神的にも体力的にも落ち込んでいることが予想されます。遺族の健康を気遣うようなメッセージを入れると丁寧でしょう。
また最近では、喪中はがきを受け取った際に、電報と進物用の線香やろうそく、供花などのセットを送ることもあります。
進物用の品だけを送る場合などは、表書きには故人の亡くなった日付をもとに、仏式の場合は四十九日までであれば「御霊前」、四十九日を過ぎている場合は「御仏前」「御供」とします。
また、浄土真宗の場合は亡くなるとすぐに阿弥陀如来の力で仏となり極楽浄土に行くと考えられているため、四十九日前であっても「ご仏前」と書きます。
喪中はがきの返信に電報を送ることも
喪中はがきにより訃報を知った方が年末になってから喪中見舞いを送るという新しい習慣が定着しつつあります。その影響もあり、インターネットで様々な種類の電報を用意できる電報サービスがよく利用されるようになりました。
電報サービスは喪中の知らせを受けてから、なかなか喪中見舞いができない方でも利用できるよう、ネットでの手配が可能です。ネットを通した申し込み、即日配達で全国の配達料が一律など利用者にとって負担が少ないのが特徴。
2013年頃より定着し始めた香典を喪中見舞いとして送るという習慣により、このようなサービスは多くの方が利用しています。