遺影(いえい)とは、故人を偲ぶため、通夜・葬儀で祭壇に飾る故人の写真のこと。ご逝去後に遺族が選ぶイメージがありますが、最近は生前にご自身で準備される方が増えています。
この記事では、遺影の選び方や飾り方、処分方法、タブーなどを幅広く解説します。
目次
遺影(いえい)とは
遺影(いえい)とは、通夜・葬儀の祭壇に飾る故人の写真のこと。最後のお別れの場で参列者が在りし日の故人を思い出したり、偲んだりできるように飾られます。
遺影に宗教的な意味はないため、写真の代わりに肖像画を飾ったり遺影を準備しなかったりしても問題ありません。
準備するタイミング
遺影はご逝去後、通夜・葬儀のタイミングで遺族が用意するケースが多いです。なかには、死期を考えて、生前にご自身で用意する方もいらっしゃいます。
また遺影は、亡くなる1~5年前の写真を使うのが一般的。準備が遅すぎると体調や病状が悪い段階の写真しかなかったり、反対に早すぎると亡くなったときの年齢と離れてしまったりするので、タイミングは重要です。
写真を用意する方法
- 遺影専門の業者に依頼する
- 写真館で撮影する
- スナップ写真を加工する
遺影で使う写真を用意する方法は、大きくわけて3つあります。
事前に準備できるのであれば、専門業者や写真館を選ぶのもひとつの手。服装やヘアメイクを任せられる業者が多く、クオリティの高い遺影写真を用意できます。
事前に用意していない場合は、スナップ写真を加工するのが一般的です。写真館に依頼すれば、日常的に撮影した写真でも、背景や服装を加工して遺影にふさわしい写真にしてくれます。また、遺影の準備を引き受けてくれる葬儀社もあるため、確認してみましょう。
料金の相場
遺影の準備にかかる料金の相場は、1万円~5万円ほど。
遺影には、写真代(撮影・加工)と装飾代(額縁・リボン)が必要です。
撮影代は5,000円~3万円、加工代は5,000円~7,000円のため、手元の写真を加工した方が費用をおさえられます。また装飾代は、額縁のグレードによって変わりますが、だいたい5,000円~1万円を目安に考えてください。
遺影の写真は何でもいいの?

遺影に使う写真に、厳密なルールやマナーはありません。
かしこまった写真である必要はないため、スナップ写真を使っても大丈夫。故人が生前気に入っていたり、遺族の好みだったりする写真を選ぶ方が増えてきています。
とくに最近は、背景や服装を合成できるため、スナップ写真でも十分素敵な遺影に仕上がります。通夜・葬儀で故人を偲ぶためにある遺影は、何よりも「故人らしい」写真を選ぶのが一番でしょう。
遺影写真の選び方・ポイント
- 故人らしさが伝わるか
- 1~5年以内に撮影しているか
- ピントが合っていて解像度が高いか
- 背景に人や物が写りこんでいないか
- 故人らしい洋服を着ているか
- カメラ目線か
遺影写真を選ぶときは、この6つのポイントを確認しましょう。
故人らしさが伝わるか
遺影を選ぶときは、故人の人柄がわかるような写真にしましょう。穏やかで優しい人なら笑顔で写っている写真を、真面目で実直な人ならキリッと引き締まった表情の写真を選ぶと、遺影を見たときに故人を思い出しやすくなります。
ただ人によっては、「会社では厳しい上司だったものの、家族にとっては孫に甘いおじいちゃんだった」など、遺族と参列者で故人への印象が異なる場合もあるかもしれません。参列者の人数や故人との関係性も考慮すべきですが、最終的には遺族がよいと思う写真を選ぶのが大切です。
1~5年以内に撮影しているか
一般的には、亡くなる1~5年以内で、故人が元気だったころの写真を選びます。
なるべく直近の写真がよいとされていますが、亡くなる直前や闘病中などの写真を無理に選ぶ必要はありません。周囲が見慣れていた時期の写真を遺影にすることで、故人の歩んできた年月を振り返りながらお別れできます。
また、ご年配の方が亡くなったとき、あまり若いころの写真を遺影にすると違和感が生じます。若いころの写真を飾りたいのであれば、メモリアルコーナーを作ったり、モニターで何枚かの写真を写したりする方がよいかもしれません。葬儀式場の設備や葬儀の流れ、宗教者の意向などにもかかわってくるので、詳しくは葬儀社の担当者に相談してみてください。
ピントが合っていて解像度が高いか
遺影には、ピントがしっかり合っていて、最低でも200万画素以上の写真を選んでください。最近のスマホやデジタルカメラならほぼ心配ありませんが、ピントがズレていたり、解像度が低かったりすると、写真を引き伸ばした際にぼやけた印象になります。
背景や服装は加工できるため、写真選びに迷ったときはピントと画素数を優先した方がベター。ピンボケしていない高解像度の写真であれば、プロが自然な遺影に仕上げてくれます。
背景に人や物が写りこんでいないか
遺影は、背景に無関係な人や不要な物が写りこんでいない写真を選びましょう。ただ最近の技術は進歩しているため、背景を加工して遺影にすることも可能です。
- 背景に写りこんだ人や物を消す
- 背景を単色やグラデーションカラーにする
- 背景を思い出の風景に差し替える
- 複数人写っている写真から故人だけ抜き出す
など、さまざまな加工ができるため、遺影に使いたい写真があるなら、写真館や葬儀社に相談してみるとよいでしょう。また色褪せをはじめ、高度な技術が必要な修正には、別途料金が発生するかもしれないので、事前に確認しておくと安心です。
遺影でよく選ばれている背景色
遺影の背景色は色見本を基準に、全体をイメージしながら選びましょう。よく選ばれている背景色は、モノトーン系やブルー系。とくにブルーやグレーは、日本人の肌の色と相性がよく好まれます。また少し暗めなグレーよりも、ブルーの方が明るい印象になると人気です。
肌や洋服と背景を同系色にすると一見、相性がよさそうですが、顔だけが浮いたように見えるので注意が必要。どの色が合うかわからない場合は、葬儀社や写真館に希望を伝えてみると、細かく相談に乗ってくれます。
故人らしい洋服を着ているか
遺影というと、かしこまった服装のイメージがあるかもしれません。ですが最近の遺影では、故人らしい服装であれば、スーツや着物にこだわる必要はないとされています。「あの洋服を気に入っていた」「あの色が好きだった」など、故人を思い起こすきっかけにもなるでしょう。
一方、入院中でパジャマを着用していたり、夏場で薄着すぎたりする場合は、服装を修正した方がよいケースもあります。
カメラ目線か
遺影は、故人がカメラ目線で写っている写真が最適です。
葬儀では、遺族や参列者が1人1人遺影を見ながらお別れをします。故人の目を見つめて、対話しているような気持ちになれるよう、カメラ目線の写真が望ましいでしょう。
遺影の写真サイズとデータ形式
祭壇用 | 四つ切りサイズ | 縦305mm×横254mm |
A4サイズ | 縦297mm×横210mm |
焼香台用 | L判サイズ | 縦127mm×横89mm |
小キャビネサイズ | 縦165mm×横120mm | |
2Lサイズ | 縦178mm×横127mm |
遺影写真は、祭壇用と焼香代用、2か所に飾るのが基本。
祭壇用の遺影は、故人の顔が参列者からはっきり見えるよう、四つ切りやA4など大きめのサイズを選びます。焼香台用は、葬儀のあと仏壇や部屋に飾るために、L判や小キャビネ、2Lなど、小さめのサイズを選ぶ方が多いです。
遺影に使う写真は、画素数やピントだけでなく、サイズにも注意したいところ。故人の顔が10円玉サイズ以上の写真であれば、引き伸ばしてもキレイに仕上がります。
遺影のフレーム(額縁)
少し前まで、遺影のフレーム(額縁)は黒の漆塗りが定番でした。しかし、本来はフレームの選び方に決まりやマナーはありません。最近は、葬儀で子どもが怖がったり葬式全体が冷たい印象になったりするという理由から、違う色や素材のフレームを選ぶ方も増えています。
葬儀社や業者も様々なフレームを用意していて、従来の黒の漆塗りだけでなく、カラフルなパステル調、木目調など種類がたくさん。高級感のある額縁やナチュラルテイストなフレームなど、故人の雰囲気や趣味にあわせて選んであげるといいでしょう。
生前に遺影を準備する方法

最近は納得いく遺影にしたいと、生前に写真を用意する方が増えています。
生前に遺影を準備する方法は、フォトスタジオで撮影するか、既存の写真を加工するかの2つ。それぞれの方法について詳しく解説します。
専門業者に撮影してもらう
生前に遺影を準備するなら、フォトスタジオや写真館、専門業者などに依頼して写真を撮影するのがオススメ。プロのカメラマンに撮影してもらうため、高品質で美しい写真を用意できます。
業者によってサービス内容は異なりますが、衣装のレンタルから髪の毛のセット、メイクまで任せられることも。プロの目線でアドバイスをもらいながら、好きなポーズをとれるのもメリットです。さらに画像の加工もしてもらえるので、納得のいく1枚が準備できるはず。
またなかには、撮影会イベントを行っている葬儀社もあります。葬儀社のイベントでは、プロのカメラマンが撮影した写真を無料でもらえることも。終活を検討しているなら、こうした催しを上手に活用して、同時に葬儀の事前相談をしてみるのもひとつの方法です。
お気に入りの写真を加工する
遺影に使いたいお気に入りの写真があるなら、事前に加工しておきましょう。
写真館や専門業者に依頼してもいいですが、パソコンやスマホを使ってご自身で加工するのもひとつの手。写真加工用のソフトやアプリを利用すれば、自宅で手軽に写真を修正できます。
既存の写真を加工するのは、フォトスタジオで新しく写真を撮影するより、料金をおさえられるのがメリット。好みの背景やデザインを選べますし、納得いく遺影にできるでしょう。
納得いく遺影にするためのコツ
- 日ごろから写真を積極的に撮る
- 撮影した写真を共有しておく
納得いく遺影にするために、日ごろから写真をとっておいてください。家族や友人と撮影した写真は、自然な表情が浮かんでいるはず。旅行や食事会、趣味の集まりなど、イベントの際には積極的に写真を残すようにしておきましょう。
また、撮影した写真を共有しておくことも重要。手元に写真がなければ遺影として利用できません。日ごろから写真をシェアすることで、コミュニケーションにも役立ちます。
遺影に利用しなくても、残された写真は遺族にとって大切な思い出になります。葬儀のあと、遺品を整理したときに「故人とのツーショット写真がない」と後悔する方は少なくありません。写真を撮られたり、一緒に写ったりするのが気恥ずかしい方もいるかもしれませんが、元気な間にできるだけ思い出を残しておくことをオススメします。
遺影の飾り方
遺影には、写真の選び方だけでなく、飾り方にもルールがあります。飾る場所や方角、期間など、基本的な決まりを確認しておきましょう。
遺影を飾る場所と方角(向き)
遺影は、葬儀が終わったあと、遺骨と一緒に後飾り祭壇に飾られます。後飾り祭壇とは、火葬から四十九日の間、遺骨を祀るための祭壇。納骨が終わると片づけてしまうため、四十九日後は、遺影を仏壇の近くや仏間に飾ることが多いです。床の間に飾ったり、フックをつけて壁掛けにしたりしているお宅をよく見かけます。
仏間がない場合はリビングや和室など、遺影が自然と目に入る場所に置くと、故人を思い出しやすいのでオススメです。また方角(向き)に決まりはないですが、東向きや南向きがよいとされています。
遺影を飾る期間
宗教 | 遺影を飾る期間 |
仏式 | 四十九日法要まで(死後49日目) |
神道 | 五十日祭まで(死後50日目) |
キリスト教 | カトリック:追悼ミサまで(死後3日/7日/30日目) プロテスタント:召天記念日の記念式まで(死後1か月目) |
遺影を飾る期間は、故人や喪家の宗教によって変わります。
仏式であれば、故人がなくなってから四十九日までの間、神道は故人が霊から守護神へと変わる五十日祭までです。キリスト教は、さらに宗派によって日数がわかれ、カトリックは死後3日/7日/30日目の追悼ミサまで、プロテスタントは死後1か月後の召天記念日の記念式まで遺影を飾ります。
葬儀後の遺影はどうする?処分・対処方法
葬儀が終わったあと、初盆や法事などで遺影を使う場合は、保管しておきましょう。
ただ遺影には宗教的な意味合いがないため、基本的に処分の仕方は自由。遺影に敬意をもつことは大切ですが、位牌や仏具のように取り扱う必要はありません。
ここでは、葬儀後の遺影をどうすればよいか対処・処分方法を紹介します。
遺影をリサイズして保管する
遺影の置き場所に悩むのであれば、写真のサイズを小さくして保管しましょう。
核家族の多い現代では、仏間やスペースがなく、大きな遺影を飾るのが難しい家が増えています。遺影を小さくリサイズすれば、飾る場所の選択肢が広がりますし、手元にしまっておくことも可能です。
データ化して保管する
遺影をデータ化して、パソコンやスマホで保存する方法も考えられます。場所や時間を選ばず、故人の姿を眺められるのが利点。またデジタルフォトフレームで、複数の写真を飾るのもよいでしょう。
あまり一般的ではないと感じるかもしれませんが、故人に対する敬意を忘れなければ、生活や時代にあわせた保管方法を選んで問題ありません。
神社やお寺で供養・お焚き上げしてもらう
遺影を飾るのが困難になった場合、お寺や神社で供養してもらうのも方法のひとつ。供養を依頼すると、僧侶の読経や祈祷で遺影を清めたあと、お焚き上げしてもらえます。ある程度の費用はかかりますが、余計な心配がなく、気分的にもスッキリできるでしょう。
またお寺に依頼する場合、菩提寺を選ぶ必要はありません。ネットで検索したり、葬儀社に相談したりして、ふさわしいお寺を探してみてください。
葬儀社に依頼する
葬儀社によっては、葬儀後に遺影を引き取ってくれます。遺影は四十九日法要まで飾るのが一般的なため、忌明けのタイミングで声をかけてくれる葬儀社も。処分に関わる費用は葬儀社ごとに違うため、葬儀を依頼する際に確認しておくとよいでしょう。
ただ葬儀から一定期間経過していて、遺影の処分だけを依頼するとなると、受け入れてくれない葬儀社が多いかもしれません。まずは葬儀を依頼した葬儀社へ相談してみてください。
自治体のルールに従って処分する
遺影は、自治体のルールに従えば、通常のゴミとして処分しても問題ありません。写真は可燃ゴミ、フレームは不燃ゴミに分別されることが多いですが、念のためお住まいの地域のルールを確認して処分してください。
そのままゴミとして出すのに抵抗がある場合は、写真にお祈りしたり塩をまいたり白い紙で包んだり、お清めをしてから処分するとよいでしょう。また、勝手に遺影を捨てるとトラブルになる可能性があるため、家族や親族に相談しておくのが無難です。
遺影のタブーと注意点
遺影にふさわしい背景か
写真を選ぶポイントでもご紹介しましたが、遺影の背景に余分な物や人が写っていないかは必ず確認してください。そもそも他人や遺影にふさわしくない背景が写っていると、使用できませんが、念には念を入れて確認しておいた方が安心です。
仏壇の中や上に遺影を飾らない
仏式の仏壇には、ご本尊が飾られています。また仏壇は、仏の住む清らかな彼岸の世界を表す場所。彼岸の世界を表す仏壇の中に遺影を入れたり、仏様のいる仏壇の上に置いたりするのは、失礼にあたるとされているため、避けましょう。
遺影をしっかり固定する
きちんと固定されていないと、ふとした瞬間や地震で遺影が落下する可能性があります。なんとなく縁起が悪いですし、フレームが破損するかもしれないため、遺影はしっかり固定するようにしてください。
遺影写真のよくある質問
遺影(いえい)の写真は何でもいいの?
- 故人らしさが伝わるか
- 1~5年以内に撮影しているか
- ピントが合っていて解像度が高いか
- 背景に人や物が写りこんでいないか
- 故人らしい洋服を着ているか
- カメラ目線か
遺影の写真を選ぶときのポイントはこちらの6つ。遺影に使う写真に、厳密なルールはありません。とくに最近は、背景や服装を合成できるので、スナップ写真でも大丈夫。通夜・葬儀で故人を偲ぶためにある遺影は、何よりも「故人らしい」写真を選ぶのが大切です。
遺影を飾る場所や期間は?
葬儀が終わったあとの遺影は、火葬から四十九日の間は後飾り祭壇に、四十九日後は仏壇のそばや仏間に飾られるのが一般的です。仏間がないお宅では、和室の床の間やリビングに飾られているのをよく見かけます。
また遺影を飾る方角(向き)に決まりはないですが、東向きや南向きがよいとされています。
遺影は処分できる?方法は?
遺影には宗教的な意味合いがないため、位牌や仏具のように処分法に決まりはありません。遺影を飾るのが難しい場合は、こちらの5つの方法で対応しましょう。
- 遺影をリサイズして保管する
- データ化して保管する
- 神社やお寺で供養・お焚き上げしてもらう
- 葬儀社に依頼する
- 自治体のルールに従って処分する