通夜・葬儀をせず、火葬のみでお別れすることを「直葬・火葬式」と呼びます。家族が亡くなったとき、残された遺族が通夜・葬儀を必ず実施する義務はないため、火葬のみで故人を見送って問題ありません。
ただ、火葬のみで故人を見送る方法は比較的新しいため、準備や手続き、費用などがわからない方が多いでしょう。この記事では、火葬のみで故人を見送る流れや費用、マナーを解説します。
目次
火葬のみで故人を見送ることは可能
結論として、火葬のみで故人を見送ることは可能です。法律上、日本では葬儀の実施は義務ではありません。誰かが亡くなったときに必ずしなければならないのは、死亡届の提出と火葬のみです。
実際に、通夜・葬儀を行わず、火葬のみで見送る「直葬・火葬式」は、近年広がっている葬儀形式のひとつ。宗教観や価値観の多様化に伴い、形式にとらわれない直葬・火葬式が選ばれるようになっています。
火葬のみで故人を見送るときは、事前に周囲の理解を得ておくことが大切です。故人の意思や親族の考え、菩提寺との関係などを尊重し、しっかり話し合っておくことで、無用なトラブルを避けられます。
火葬のみの葬儀は「直葬・火葬式」という形式
火葬のみの葬儀は、「直葬」または「火葬式」と呼ばれる形式で、通夜・葬儀を省略し、火葬だけを行うシンプルな見送り方法です。直葬・火葬式は参列者を呼ばず、親族だけで静かに故人を見送るご家庭がほとんどです。
近年、「葬儀の費用を抑えたい」「準備の負担を軽減したい」という理由から、直葬・火葬式を選ぶ方が増えています。また、故人が葬式を行わないことを望んでいた場合にも、直葬・火葬式は最適な選択肢です。
また、直葬・火葬式でも、火葬炉の前で僧侶に読経していただいたり、焼香したりできます。火葬のみの見送りでも、希望すれば必要最低限の供養は叶えられるでしょう。
直葬・火葬式と一般的なお葬式の違い
直葬・火葬式 | 一般葬 | |
---|---|---|
主な内容 | 火葬のみ | 通夜・葬儀・火葬 |
参列者の範囲 | ~10人 | 30~100人以上 |
費用 | 20~40万円 | 120~140万円 |
所要時間 | 数時間 | 2日~ |
準備の手間 | 少ない | 多い |
直葬・火葬式と一般葬の違いをまとめた表はこちら。
直葬・火葬式は、家族のみで静かに見送りたい場合や、費用を抑えて進めたい方に選ばれることが多い形式です。一般葬は、多くの参列者を迎え、形式に沿った伝統的な儀式で故人を見送りたい場合に適しています。
直葬・火葬式を選ぶ人が増えている理由
- 経済的負担の軽減:通夜・葬儀を省略するぶん費用をおさえられる
- 価値観の変化:伝統的な葬儀にこだわる方が少なくなっている
- コロナ禍の影響:感染リスクを考慮した小規模な葬儀が一般化した
近年、核家族化によって家族構成が変化したり、コロナによって小規模葬が一般化したりしたことで、伝統的なお葬式にこだわる方が少なくなっています。
通夜と葬儀を省略するため、準備や費用の負担をおさえられる直葬・火葬式は、新しい価値観をもつ方を中心に注目されています。ご家族の希望に合わせた柔軟な選択肢として、これからも広まっていくでしょう。
火葬のみで故人を見送るメリット
費用を抑えられる
火葬のみの見送りは通夜・葬儀を行わないため、式場費用や返礼品費、飲食代などを大幅に削減できます。一般的な葬儀だと100万円以上かかることもありますが、火葬のみなら20〜40万円ほどで済むご家庭が多いです。
所要時間が短い
火葬のみの場合、式場の手配や参列者への案内が不要で、通夜・葬儀も行わないため、所要時間が短いです。一般的な葬儀では、通夜から葬儀、火葬に2日間必要で、準備にも時間がかかります。
火葬のみの葬儀は数時間で完了するため、早急な対応が求められたり、遺族の体力的・精神的な負担を軽減したかったりする場合に最適です。
遺族の負担を減らせる
直葬・火葬式は、準備や参列者の対応がいらないため、遺族の精神的・肉体的な負担が軽減されます。従来の葬儀では、当日の進行や挨拶、打ち合わせなどで忙しく、遺族が十分に故人を見送る時間を確保できないこともありました。ですが火葬のみなら、限られた時間を有効に使い、心を込めて見送りに集中できます。
火葬のみで故人を見送るデメリット
故人を偲ぶ時間が短い
火葬のみの場合、通夜・葬儀を行わないため、故人を偲ぶ時間が短くなります。その結果、遺族が心の整理をつけにくく、故人との別れを実感できないかもしれません。故人との関係が深いと、ゆっくりお別れする時間が欲しい方も多いため、悔いが残る可能性も大きいです。
一般葬では参列者同士で思い出を語り合い、故人を偲ぶ機会を得られますが、火葬のみだと難しいです。後から改めて、お別れ会や法要を行うご遺族も少なくありません。
周囲に反対される可能性がある
火葬のみの葬儀は、地域の慣習や伝統を重視する親族から反対される可能性があります。通夜・葬儀を行わないため、「十分な弔いがされていない」と捉える人も少なくありません。
特に故人が生前幅広い交友関係を持っていた場合、葬儀の簡略化を巡って意見が分かれることが多いため、事前の話し合いが必要です。
後日弔問の対応が必要になる
火葬のみの場合、葬儀に参列できなかった友人・知人が後日弔問に訪れるかもしれません。特に、多くの方に慕われていた故人は、想定以上に弔問が続く可能性があります。突然の弔問に備え、香典返しなどをあらかじめ準備しておくと安心です。
火葬のみで故人を見送る費用と内訳

葬儀種類 | 葬儀費用の総額 | 最も多い価格帯 |
---|---|---|
直葬・火葬式 | 42.8万円 | 20万円以上~40万円未満 |
一日葬 | 87.5万円 | 20万円以上~40万円未満 |
家族葬 | 105.7万円 | 60万円以上~80万円未満 |
一般葬 | 161.3万円 | 120万円以上~140万円未満 |
火葬のみの見送りは、通夜・葬儀を行わないぶん、費用をおさえやすいのが特徴です。実際に直葬・火葬式にかかる費用の全国平均は、他の葬儀形式と比べて大幅に低くなっています。
ですが直葬・火葬式でも、火葬費用や霊柩車代、安置費用などの費用が必要です。選択する火葬場や葬儀社、オプションなどによって費用は異なります。
火葬のみで故人を見送る費用の内訳
項目 | 費用相場 |
---|---|
火葬費用 | 無料~10万円 |
霊柩車代 | 2~5万円 |
安置費用 | 5,000円~2万円/日 |
その他の費用 | 2~10万円 |
火葬のみの葬儀でかかる主な費用と内訳を表にまとめました。
火葬料金の相場は無料~10万円ほど。自治体が運営する公営火葬場なら無料~数万円ですが、民間企業が運営する民営火葬場はやや割高になります。
また、霊柩車代は2~5万円、安置費用は1日5,000円~2万円が目安です。そのほか、棺、骨壺、ドライアイスなどのオプションサービスを追加すると、料金が上乗せされます。
お坊さんを呼ぶ場合の費用と手続き
火葬のみで故人を見送る場合も、希望すればお坊さんを呼んで読経を依頼できます。菩提寺があるなら、ご住職に相談してスケジュールを確認。菩提寺がないなら、葬儀社や僧侶手配サービスを通してお坊さんを呼んでもらいます。
読経費用は1回あたり3〜10万円程度で、供養の内容や僧侶によって変動します。火葬時の読経のほか、開眼供養や法要も依頼できるのが一般的です。費用や進行については、寺院や宗旨宗派によって違うため、必ず事前に相談してください。
火葬のみで故人を見送る流れ

1. 準備:死亡届の提出と火葬許可証の取得
火葬を行うためには、死亡届を役場に提出し、火葬許可証を取得します。死亡届には医師から発行される死亡診断書を添えて提出し、役場で火葬許可証を発行してもらいましょう。この手続きは、故人が亡くなった日を含めて7日以内に行う必要があります。火葬許可証は、火葬後に納骨許可証と引き換えになるため、大切に保管してください。
受付時間や必要書類は自治体によって異なるため、事前に役場へ確認しておくと安心です。また、葬儀社の代行サービスを利用する方法もあります。
2. 移送:火葬場に遺体を搬送
火葬場へ故人を搬送する際には、葬儀社に依頼するのが一般的。霊柩車の手配費用は2万~5万円が相場です。長距離を移送する場合は、適切な車両選びや道路状況の確認など、準備しておくとスムーズでしょう。
3. 火葬:故人と最期のお別れ
火葬場に到着後、故人と最期のお別れを行います。希望に応じて、火葬炉の前で僧侶に読経してもらうことも可能です。
一般的に火葬時間は1〜2時間で、その間、遺族は火葬場内の待機室で待機します。火葬場によっては、待機中にお茶や軽食を提供するサービスがあるため、事前に確認しておいてください。
4. 骨上げ:遺骨を骨壺に納める
火葬が終わったら、遺族は遺骨を骨壷に納める「骨上げ」を行います。骨上げの方法は地域によって異なり、一度にすべての遺骨を納める地域もあれば、一部のみを納める地域もあります。火葬後は、火葬許可証と引き換えに埋葬許可証を受け取ってください。
骨上げの際には地域の風習や作法を尊重し、火葬場の担当者の指示に従って進めることが大切です。火葬場によっては収骨を行わない場合もあるため、事前に確認しておきましょう。
5. 安置・納骨:納骨先へ遺骨を納める

火葬後、遺骨を一時的に自宅や施設に安置し、後日納骨を行います。
納骨するときは、事前に納骨先(墓地や納骨堂)に連絡し、日程調整をしましょう。また、火葬許可証や埋葬許可証といった必要書類も忘れず準備します。納骨当日に僧侶を招く場合は、読経や供養費用がかかるため、事前に用意しておいてください。
火葬のみで故人を見送るときの注意点
周囲の理解を必ず得ておく
火葬のみの葬儀を選ぶときは、親族をはじめ、周囲の理解を得ておくのが重要です。特に、伝統的な葬儀を重視する親族には、「故人の意向」や「経済的な理由」など、選択した背景を丁寧に説明することでトラブルを防止できます。
事後報告ではなく、事前に親族や近しい方々に相談し、意見を聞いておくと安心です。簡潔な資料や見積もりを用意して、実際の流れや費用を伝えることで理解が深まるかもしれません。親族間のトラブルを防ぐためにも、誠実な対応を心がけましょう。
服装は基本的に喪服を着用する
火葬のみのお見送りでも、遺族は喪服を着用するのが基本です。ただし、関係者で略式の服装を指定しているなら、黒や濃紺の落ち着いた服装でも問題ありません。
ただし、火葬のみとはいえ最低限のマナーを守るため、派手なデザインや明るい色の服装は避けるようにしましょう。靴やバッグなどの小物も黒系で統一するのが無難です。
香典は辞退してなければ受け取る
香典は故人に対する弔意を示すものなので、遺族が辞退していない限り受け取るのがマナーです。丁寧に受け取り、香典をいただいた方には後日香典返しを送ります。簡易な形式でも、香典返しを準備しておくと安心でしょう。
香典が不要なら、参列者に案内するときに「御香典は辞退させていただきます」 「ご厚意辞退申しあげます」 といった言葉を添えてください。また、服装に迷わないよう「平服でお越しください」といった案内も事前に伝えておくと親切です。
火葬のみの弔送は特徴を把握して慎重に判断を
火葬のみの葬儀は、費用を抑えながら、遺族の負担を減らせる選択肢です。しかし、従来の葬儀と異なる特徴があるため、メリット・デメリットを把握したうえで慎重に判断しなければなりません。
たとえば費用面では、火葬のみでも火葬費用や霊柩車代、安置費用などがかかります。サービス内容によって費用が異なるため、複数の見積もりを比較し、事前に確認しておくと安心です。また、死亡届や火葬許可証の取得、火葬場の予約といった手続きは早めに済ませておくのが大切。特に、火葬場の混雑状況によっては予約が取りづらいこともあるため、余裕を持って進めましょう。