故人との最後のお別れ、出棺。
自宅や式場を後に、火葬場へ向かうこの時は、お葬式の中でも特に大切であると同時に、遺族にとってもっとも悲しい瞬間なのではないでしょうか。
出棺の際には、お花とともに、故人が愛用していた品々を棺の中に入れます。でも、実は、棺の中に“入れてはいけないもの”と、“入れない方が良いもの”があるってご存知ですか?
今回は、棺に副葬品を入れる時の注意点について、一般社団法人火葬研副会長、武田至さんにお話を伺いました。
目次
火葬場のルールで「棺に入れてはいけない」もの
棺の中に入れる品を副葬品といいます。古い遺跡から、ネアンデルタール人も副葬品として故人と共にお花を埋葬していたことがわかっています。
棺の中に入れてあげたいものはたくさんあります。故人が大切にしていたもの、趣味で集めていたものなど、家族の想いはふくらみます。
でも、棺の中に“入れてはいけない”ものもあります。
大きくまとめると、次の3つの“恐れがある”ものです。
- 火葬炉など設備の故障につながる恐れがあるもの
- 環境汚染につながる恐れのあるもの
- 不完全燃焼の原因になる恐れがあるもの
具体的に「これは入れないで!」というものはそれぞれの火葬場によっても異なりますが、ガラスや金属製品、プラスチック製品、紙製品などがあります。
また、ペースメーカーなど体の中に医療品が入っている場合は、熱で爆発してしまうこともあります。葬儀社や火葬場の担当者に事前に伝えておく必要があります。
詳細はそれぞれの火葬場のホームページなどでも掲載しているので確認すると良いでしょう。
遺族にとっても「棺に入れない方が良い」ものもある
火葬場の役目というのは、遺体をただ燃やすということだけではありません。
海外の火葬事情を見ると、遺族は柩を炉に入れる場面にも立ち会わず、遺骨も箱に入って郵送などで自宅に届くというのが一般的なようです。しかし、日本では通常、遺族は炉の前で故人とお別れをしますし、火葬を終えた後は、遺族が遺骨を骨壺に納めます。
地域によっては、火葬のスイッチを遺族の代表が押すという習わしがあるところもあります。それくらい、日本人にとって火葬は重要なのです。
こうした遺族の心情に応えるためにも、火葬では「きれいに骨を残す」ということが大切になります。
ところが、故人のためを思って入れたものが、かえって遺骨を痛めてしまうようなこともあるそうです。
“めがね”を入れると大変なことに
遺骨を痛める恐れがあるものとして、全国の火葬場でさまざまな事例を見てきた武田さんが、まず指摘するのが「めがね」です。
生前めがねをかけていたからといって、めがねをかけたまま火葬してしまうと、レンズが融けてしまい、炉の台だけでなく、遺骨に付着してしまうこともあります。
同様の理由で、お酒が好きだった故人のために一升瓶を入れるのもNGです。
故人を想う気持ちは大切ですが、仮に施設のルールとして許容されていたとしても「避けた方が良い」ようです。
“本”って燃えないの?
意外に思われるかもしれませんが、「本」も入れてはいけないものの部類に含まれます。分厚い本だと燃えにくく、ほとんどそのまままの状態で残りますし、何より「灰が残ります」と武田さん。
収骨の際に、灰をかき分けて遺骨を拾わなければなりません。
特に再生紙は燃えてもそのまま残ることが多いので注意が必要です。
折り鶴なども、足元に大量に残っていることがあるそうです。
専門家も驚いた副葬品はこれ!
- スイカ
- 野球道具一式
- ラジカセとカセットテープ
武田さんがこれまで火葬場を見てきた中でも、「これは!?」と驚いたのが上の3つなのだそうです。
それと特に多いのが、おにぎりです。おにぎり好きが多いのか? 地域の風習なのか? 副葬品におにぎりを棺に入れるということは、全国各地でよく見られるそうです。火葬が終わっても、真っ黒な炭と化したおにぎりが、残っているとか。
このほか、メロン、釣り道具、大量のぬいぐるみなどもあったそうです。
また、三途の河の渡し賃ともいえるようなお金。十円玉をいれることもあるようですが、これはそのまま残るそうです。
手作りの棺は要注意
また、手作りの特製の棺を用意される方もいるようですが、意外と難しいようです。
古い火葬場などは炉が小さい場合もあるので、大きな棺は入りません。
また、通常の棺は外観からは見えませんが、火葬炉の中で燃えやすいように考えられて設計されているそうです。
そのため手作りの棺などを用意されると、「お別れ」には良いのですが、火葬という点では、燃えにくく、大変な手間がかかってしまうことも。生木の厚い板でつくられた棺はなかなか燃えません。
さらに、接着剤など燃やすと環境に悪い影響を与える物質もあるので、注意が必要です。
火葬場で遺骨を引き取らないとどうなるの?
ところで、最近は供養に対する考え方も変化しています。
お葬式の規模が小さくなる中で、時には火葬が終わった後、「遺骨を引き取りたくない」という遺族もいるとか?
でも、自治体の火葬場では、火葬場条例などによって、
(焼骨の引取義務) 第7条 ○○火葬場の使用者は,火葬終了後直ちに,焼骨を引取らなければならない。
また、遺骨を引き取らないということは、
その処分にかかる費用は、税金によってまかなわれます。
「民生扱いの火葬や遺骨を置いて行かれるケースが増えるようであれ
遺族の気持ちとのバランスが大切
このほか、棺の中に入っていると燃えにくくなってしまうのが、ドライアイスや生のお花。もちろん適量であれば問題はありませんが、たくさん入れ過ぎてしまうと、火葬の時間が長引いてしまう可能性もあります。
ただ、このあたりは、葬儀社の担当者が出棺の準備の際に調整しているのであまり心配はいりません。
「ご遺族の気持ちとのバランスが大切」という武田さん。
「火葬場の職員はきれいに遺骨が残るように火葬していますし、拾いやすいように整骨を行うこともあります」と言います。
いかがでしたでしょうか?
火葬のことばかりを優先してしまうと、お別れが窮屈なものになってしまいます。かといって、思いのままにいろんなものを棺に入れてしまうと、それはそれでトラブルの原因に。
中に入れていいものかどうか、判断に迷った時には、葬儀の担当者などに確認してみるのが良いようです。
一般社団法人 火葬研とは
葬送研究者、火葬場の管理運営者及び建設関係者、葬祭事業者に対して、調査研究、情報提供、教育研修に関する事業を行い、火葬場及び葬祭施設の建設及び管理運営の進歩発展を図り国民の福祉の増進に寄与することを目的としている。
〒101-0054 東京都千代田区神田錦町2-5-9 神田カトランビル402
TEL:03-3518-2821 / FAX:03-3518-2820
ホームページ:http://kasouken.c.ooco.jp/
*本記事では、名称として用いている場合は「棺」、状況から故人が入っていると判断されるものは「柩」と表記しています。「棺」と「柩」の使い分けについての詳細は、「【棺と柩】「ひつぎ」を漢字で書くときの注意点~社会人のためのマナー講座」をご覧ください。
(文・構成 小林憲行)