【特別寄稿】麻原彰晃の遺骨の行方 ~ 現代日本の散骨事情(産経新聞 赤堀正卓)

2018年8月6日

かつて私が社会部の記者だったころ、オウム事件の被告たちの裁判を延べ3年間ほど担当したことがある。麻原彰晃(松本智津夫)の法廷にも何回も通った。

だから、麻原とは同じ部屋(法廷)で、同じ空気を吸い、同じ時を過ごした仲ということになる。

正直、麻原の裁判はあまり面白くなかった。裁判開始からしばらくは、自分の主張を言葉にしていた麻原だったが、私が担当した2000年前後には、法廷で彼が事件について口を開くことはほとんどなかったからだ。

たまにしゃべったかと思えば、訳の分からない拙い英語で、意味不明な不規則発言をするだけだった。理由は分からないが、彼の得意な言い回しは〝By the way〟。英語なのか何なのか。ゴニョゴニョと訳の分からない言葉を発したあとに、〝By the way〟と続けて、再びゴニョゴニョとつぶやくのだった。

 

 

麻原に神聖さを見る信者たち

そんな男のどこに宗教家としての魅力があったのか。私からみたら、とんと分からなかった。

それでも当時から法廷にはオウムの後継団体アレフの信者と思われるような若者の姿がちらほら見られ、公安当局が警戒していた。彼らは法廷で、周囲にばれないようにマントラを唱えていたと言われている。彼らにとって麻原は絶対的な教祖であり、信仰の対象だったのだ。

死刑が確定し、法廷など公の場に麻原が現れることは無くなったが、彼が拘束されていた東京拘置所の周囲では、教祖とつながりを持とうとマントラを唱えたり、周回したりする信者たちの姿が見られた。

 

私が懇意にしているオウム担当の公安関係者は何年も前から、「死刑が執行されたら遺骨がどこへいくのか心配だ。後継教団の手に渡ったら、信仰対象になるのは明らかだからね」と話していたものだ。

その麻原に死刑が執行された。〝同じ部屋で同じ空気を吸った仲〟ではあるが、教団の凶行の詳細を裁判取材で知った自分としては「当然」といった感慨しか沸かなかった。むしろ、彼の遺体、遺骨がどうなり、後継教団がどのような動きをするのかが私の関心事だった。

そしていま、案の定、遺骨の行方が焦点となっている。

 

 

骨肉の争いに重なる、日本の骨信仰

これまでのところ、麻原の遺体は東京・府中の火葬場で焼かれ、遺骨は東京拘置所に置かれている。

遺骨引き取りの優先権は、死刑前に麻原から死後処理を任されたとされる4女が持っている。そして、すでに教団とは縁を切ったとされる4女は、遺骨を粉骨したうえで海洋散骨にしたい意向とされる。それも、国家の責任で散骨せよというのが考えのようだ。

 

これに対して、3女や、後継教団とも縁がある妻は、自分たちに引き取らせよと主張している。まさに〝骨肉の争い〟だ。

それぞれの主張を知ったとき私は、日本における遺骨信仰をオーバーラップさせずにはいられなかった。

散骨したい4女の側も、引き取らせろという3女や妻の側も、麻原の遺骨に「宗教的パワー」「信仰・崇拝対象としての存在価値」があるという認識は共通のようだ。また、散骨が「故人の存在痕跡を消してしまうもの」という認識でも一致しているようだ。

 

そのうえで、現在教団から離れている4女は、散骨することによって遺骨が宗教的に利用されることが不可能となることを狙っている。

4女の弁護人をしている滝本太郎弁護士は「遺骨をパウダー化、および太平洋の不特定の地点から船から散骨すべき。信者のところに遺骨がいくのかというのは大変な問題になる」と述べている。要は、「社会にとって『迷惑』なものだから、誰も拝めないようなところに撒いてしまえ」という趣旨の主張だ。

 

一方で、3女や妻の主張は、「『大切』な遺骨なのだから散骨などもってのほか」という点にある。

そこには、「迷惑なものだから散骨に」「大切なものだから散骨はダメ」という構図がある。

 

 

日本人にとっての遺骨の重要性

麻原の遺骨に限らない。日本人は伝統的に亡くなった人の遺骨に対して、「故人の魂が宿るもの」「故人を偲ぶ対象である」「宗教性がある」といった思いを自然な感情として持ってきた。

だから戦後70年以上もたっても、南方やシベリアといった戦地で命を落とした戦没者の遺骨収集は途絶えることはない。明治から戦前にかけて研究者らによって無断で収集されたアイヌの遺骨の返還をめぐる動きも、遺骨への感情が表れたものだとみることができよう。

 

仏教では釈迦の遺骨が「仏舎利」として、宗教的な信仰対象になっていることは日本人にとっても常識だ。世界各地で祀られている釈迦の遺骨を集めたら、1人分の人骨量を遙かに超えるボリュームになるという話もあるほど、仏教徒にとって部舎利は大切なものなのだ。

 

 

日本の散骨の発祥と認知

ここまで、麻原の遺骨に関連して、日本人にとって遺骨が大切な存在であると書いてきた。

でも待てよ。遺骨を大切なものと考えるのなら、散骨はそれに反する葬送行為なのではないだろうか?

この10年ほどだろうか。少なくない葬儀社が葬送の一環として「散骨」を商品化している。「海洋散骨」を謳った葬儀プランも多くの葬儀社が手がけている。

各種アンケート調査では「散骨」の認知度はいずれも5割~7割程度に達しているし、実際に実施するかどうかはともかく、自分で散骨を希望する人が3割程度いるという調査結果もある。

 

日本人にとって「散骨」とはいつごろから認知を得た葬送方法なのか。

私の記憶にある限りでは、散骨が本格的にメディアに登場したのは1991年の「葬送の自由をすすめる会」の誕生が契機だった。「おひとりさま」や「アンチ環境破壊派」が、伝統的な墓を見捨て、海や山に遺骨をまくことを提唱したというムーブメントだった。すすめる会では、「散骨」というよりも「自然葬」と呼んでいる。

 

商業主義としての散骨が、強烈にメディアデビューしたのは、2002年にメモリアルアートの大野屋が宣伝をかけた「モンブラン葬」だったと記憶している。実際にフランスへ遺骨を運び、ヘリコプターを使ってモンブラン上空からの散骨を実施するというプランのリリースを受け取ったとき、「伝統の殻を破った供養スタイルが出た」と思ったことを記憶している。

 

 

普及まで時間を要した日本の散骨

実際にモンブラン葬を実施した人は、数人だったと聞く。

しかし、新しいもの好きのメディアは大野屋が提唱した新しい供養スタイルに飛びついた。それ以降、新聞、テレビ、雑誌とったメディアで、散骨を話題にしたニュースが違和感なく扱われるようになっていった。自分も散骨に関連した記事を何本か書いた記憶がある。

 

ところが、この20年ほどの間、多くのメディアが散骨を話題にしても、散骨の実態は地味にしか来なかった。散骨の実施率を調べた統計を知らないのだが、終活雑誌をつくる立場での印象では、まだ散骨実施率は1%にも満たないような印象を持っている。

一般的には供養に限らず、メディアが新しいスタイルを提唱すると、多かれ少なかれ世間がそれに飛びつくものだ。しかし、散骨を扱った記事や番組については、世間の反応を感じたことがない。私も記事を書きながら、その反応の薄さにがっくりときたことが何回かある。

 

それがようやく2010年代に入り「終活ブーム」が起きてからは、散骨がじわりと広がり始めた。先ほど書いたように多くの葬儀社が「散骨」「海洋散骨」を商品として扱うようになってきたのも2010年代に入ってからのことだ。

そこでは、昨今の終活を反映してか、「海や山といった自然環境が好きな人」「墓を継ぐ人がいない人」「子供や孫に負担をかけたくない人」「墓に金をかけたくない人」に向けて散骨が提案されている。

 

 

「積極的散骨」と「麻原の散骨」とのねじれ

ここで注意したいのは、最近日本でじわりと広がりつつある散骨が、「自然好き」「継承者のいない人」「墓に金をかけたくない人」にとって、積極的な選択肢として存在しているという点だ。

つまり、『大切』な遺骨だからこそ、積極的に海に撒こうとしている。

これは、麻原の遺骨が、4女にとっては「『迷惑』な物なのだから、海に撒いてしまえ」、あるいは3女や妻にとって「大切なものだから散骨はダメ」という脈絡の中で扱われているのとは決定的に違う。

 

前半に書いたように、麻原の遺骨をめぐる遺族の対立が、遺骨に宗教的や信仰的価値観を持つという日本人の伝統的な精神を共通の土俵にしたものであることには疑いの余地はない。

最近広がりつつある散骨をめぐる感情とのねじれは、いったいどこから生まれてくるのだろう。

 

自分なりの結論が出たわけではないのだが、少なくとも、最近広がりつつある散骨は、日本人の伝統的な遺骨への感情からは異なった思想、立ち位置を持ったものであるということだけは確実に言える。

ひょっとしたら昨今の終活ブームは、日本人が伝統にはぐくんできた宗教観、信仰的価値観とはまったく別なところに立ち位置を取ろうとしているのではないか。そう考えると、日本で散骨が、じわりとしか広がらない理由が分かるような気がしてくる。

(呼称略)

 

 

赤堀正卓(あかほり・まさたか)

1991年、産経新聞社入社。社会部デスク、編集局副編集長。2013年に社内ベンチャーとして『終活読本ソナエ』を立ち上げ、現在に至る。

 

 

 

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