シニア婚活。曲げられない自分との闘いとは。

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【連載】リアル・シニアライフ
この連載では、シニアライフにまつわる、人間関係、経済問題について、実際の生活者にヒアリングした結果を、個人の事情がわからないよう脚色し、ルポ形式でお伝えします。

 今回紹介するのは、「シニア婚活」中の米田隆吉(たかよし)さん(71歳・仮名)。50代で配偶者を亡くし、子供もなく、以来独身生活を送っていた米田さん。結婚したいと思うこともなかったそうですが、転機は5年前の定年退職によって訪れたそうです。

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趣味のない生活と、足の怪我

大手家電メーカーを定年まで勤め上げた米田さん。それまでの貯金と退職金があり、年金を考えると余裕のある余生に思えました。
同じ年に定年を迎えた友人たちはカメラや絵画を始めたり、城めぐりといって国内旅行に励んだり。米田さんも何か始めようとしましたが、どうにも気が乗りませんでした。

「特に好きなことというのが、ずっとなかった。仕事を必死にやってきました。さあ遊べ、と言われても、何もない。女房がいたら無理にでも連れ出してくれるんだろうな、と思いました」

ある日、友人の一人が山歩きに誘ってくれました。きっかけがあれば自分にも趣味ができるかもしれないと思った米田さんは、数人の同好会に入れてもらい、一緒に山歩きに出かけました。

「奈良県の洞川温泉というところ。修験道の山だというから覚悟していったんですが、普段着で運動靴さえ履いていれば充分歩ける山でした。ところがドン臭いことに、下りるとき砂で足を滑らせて、捻挫してしまった。たいした怪我じゃなかったけども、しばらく不便でたまらなかったですね。買い物するのも一苦労。トイレに行くのも億劫になる始末。だれかいてくれたらなあ、と心底思いました」

そんなとき、新聞広告に「シニア婚活」の文字を見つけ、シニア専門結婚相談所があることを知ったのです。

シニア専門結婚相談所への入会

軽い怪我でも相当な不便を感じた米田さん。もしも病気をしたら……? 出来合いの総菜ばかり食べている自分は、そのリスクが高いんじゃないか? 不安ばかりが募り、広告にあった結婚相談所に入会することにしました。
その結婚相談所は入会金が50万円で、高いように思いましたが、成婚料が要らないということでした。また、グループでのお見合いは何度参加しても無料、1対1のお見合いは1万円だと説明を受け、それなら焦らずにじっくり相手を選べると思って契約書にサインしました。

担当者はYさんという50代の女性に決まりました。米田さんは面談で「相手に求める条件」を聞かれました。

「正直に言いました。怪我をしたときにとても困ったから、何かの時に世話をしてくれる気がないと困ります、と。そうするとYさんは眉根にしわを寄せて、ほかにないですか? と聞きました。それで、自分には趣味がないから、社交的で趣味を持っている人がいい、自分を引っ張り出してくれるような人を希望します、と言いました。Yさんは今度は大きくうなずいて、それだけを手元の用紙に書き込みました」

女性から見ると、米田さんのような「世話をしてくれる人」という希望は受け入れにくいのだ、と説明されました。家政婦を探しているのか、と怒る人もいると言われ、米田さんは内心、家政婦とは言わないまでも、それが結婚というものではないのか、と思いました。しかしお見合いの席では言わないでください、と釘を刺されました。

はじめてのグループお見合い

まずはグループでのお見合いで、どんな人が合うタイプなのか確認してみてはどうでしょうか、とYさんに勧められ、米田さんは最も近い日どりのお見合いに参加することにしました。
お見合いといっても、雰囲気としては同窓会のような、フランクな会でした。米田さんは安心して、積極的に話そうと決めました。事前にYさんから、グループお見合いで見つけた気になる人とは後日個別お見合いをセッティングするので、この場ではあまり個人的なことを話しすぎないほうがいい、と言われていました。焦って自分のことばかり話してしまい、印象を悪くしてしまう人が男性に多いと聞きました。

「とはいえね、それは焦るなというのが無理ですよ。個別お見合いがあるっていったって、そこにつながらなかったら何にもならないんだから。なんとか印象に残りたい、そう思うのが自然じゃないですか。ところがどっこい、やっぱり担当者の言った通りでした。そんなにしつこく喋ってるつもりはないんだけど、気が付いたらわたしの近くには人が寄り付かなくなっちゃった」

最初のグループお見合いは見事に失敗。初めてだから仕方がないと慰められ、何度かチャレンジしますが、なかなかうまくいきません。成婚どころか、個別お見合いすら遠い道の先にあるような気がしていました。

「喋るにしても、ほかの人は趣味の話ややってみたいことなんかをしゃべるんだって言われたんです。米田さんはもう定年退職した仕事の話をするからダメなんです、って。それは過去の、思い出にしかならない話ですよ、って。だってわたしには趣味がないんだから。話せることは仕事のことですよ。それがいけない。でもね、年とってから子供ぐらいの年の人に、あなたのこういうところがいけない、って言われるのはなかなかキツイですよ」

米田さんは苦笑して、そう言います。担当のYさんは、事細かに米田さんのお見合いの席での言動をチェックして、アドバイスしてくれます。米田さんはそれが辛くなり、しばらくグループお見合いに出るのをやめてしまいました。

シニア婚活で突きつけられる。自分を変えることができるのか。

Yさんから連絡があり、もう一度面談をしましょう、と言われました。そのとき米田さんは、入会金がもったいないからという動機で、もう一度婚活をがんばろう、と思い直して事務所に足を運びました。

米田さんは、改めて相手に求める条件を聞かれました。以前のことがあるので、家のことをしてほしいとか、体が悪くなった時が不安だとかいうことは言いませんでした。
趣味を持っている社交的で活発な人がいいです、と答えました。

「するとYさんは、微笑んだままでこう言いました。『米田さん、婚活というのは大学受験と同じです。就職活動と同じです。どんなに素晴らしい人でも、会社の求める人材でなかったら、就職できません。どれだけ偏差値が高くても、その大学の入試問題にあった答え方をしなければ合格しないんです。傾向と対策です。
もし、米田さんが趣味のある社交的で活発な人を求めるなら、本人にしかわからない仕事の話を押し付けるのはやめなければいけません。どうすれば相手が話をしたくなるのか、どうすれば自分を趣味の場に誘いたくなるのか、その対策を考えてください。今のままだと、仮に興味を持ってくれる女性がいたとしても、その女性はけっして社交的で活発な人ではないと思います』
なんでそこまで言われるんだ、と憤慨しました。わたしは自分の話を押し付けたつもりはありませんし、他人との関係において対策を練るなんて発想はありません。わかりました、とぶっきらぼうに返事をして、そのまま帰りました」

ところが帰ってから、米田さんは考え込みます。たしかに仕事の話ばかりしていた気がするし、相手の話を聞こうというより、自分を印象付けたいと考えていたな、と思い当たりました。
米田さんは次の日、Yさんに連絡を取り、次のグループお見合いを予約しました。

「本当はね、料理は好きですかとか、夫が病気になったら世話してくれますか、なんてことを聞きたいわけです。自分はこんなことができる、こんなことをしてきた、と話したいんです。でもぐっとこらえて、相手の趣味の話を聞き出すことに専念しました。すると、初めて個別お見合いの申し込みがありました。うれしかったですねぇ」

米田さんはにこにこ笑いました。
結局その個別お見合いでは成婚には至らなかったのですが、自信とやる気につながった、と米田さんは言います。

「正直言って、難しい。自分の想いと、実際の自分とにずれがあるから、自然な振る舞いをすると相手にいやがられる。自分を変えるなんてことは、すごく難しいです。でも、いまは頑張りたい気持ちになっています。本当に、自分を趣味に引っ張ってくれるような女性を探す気になってますね。世話してくれるうんぬんは、その先にあるもんだって。あ、それもYさんに言われたんですけどね」

あはは、と笑って、米田さんはグループお見合いに出かけて行きました。
後日Yさんに少し話を聞くことができました。
Yさんによると、シニア婚活は若い人の婚活よりも、相手に合わせることが難しいのも一因となり、成婚率が低いということです。やはり年を重ねるほど、自分のやりかたを変えるのは難しいのでしょう。
米田さんはかなり素直なケースです、ご成婚まであと少し。とYさんは微笑みました。

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