死後離婚は配偶者の死後、配偶者の両親や兄弟姉妹、親族などとの関係を終了させる手続き。2010年代から増えていて、年間2,000~4,000人の方が死後離婚を選択しています。
この記事では、死後離婚のメリット・デメリットや実例を紹介。死後離婚で変わること・変わらないこともまとめているので、ぜひ参考にしてください。
目次
死後離婚とは
死後離婚とは、配偶者の死後、配偶者の姻族と関係を終了させる手続きです。姻族とは、配偶者の父母や祖父母、兄弟姉妹、甥姪など。亡くなった配偶者の姻族と折り合いが悪かったり、扶養義務を負いたくなかったりする場合、「姻族関係終了届」を出すことで関係を解消できます。
姻族関係終了届の提出は「死後離婚」とも呼ばれています。ただし、あくまで配偶者の姻族と関係を絶つ手続きで、離婚ではないため、亡くなった配偶者の遺産を相続したり遺族年金を受け取ったりすることは可能です。
死後離婚はできる?増えている理由は?
死後離婚、つまり姻族関係終了届を出せるのは生存している配偶者だけです。婚姻関係を結んでいた配偶者に先立たれた本人であれば、どなたでも死後離婚を選択できます。
政府統計ポータルサイトe-Statの「戸籍統計年計表 種類別 届出事件数」によると、2022年度の姻族関係終了(死後離婚)の総数は3,780件。実は、死後離婚は2010年代から増加傾向にあり、年間2,000~4,000件確認されています。
死後離婚が増加している背景には、核家族化があります。親と同居せず、夫婦と子供だけで暮らしていて、義両親との関係性が希薄なご家庭は多いです。配偶者が亡くなったあと、義両親の経済的援助や世話、介護を負担するのに抵抗があり、死後離婚を選ぶ方は少なくありません。また、死後離婚の認知度が高まったことで、申請する方が増えたとする見方もあります。
死後離婚のメリット・デメリット
死後離婚のメリット
- 配偶者の姻族の扶養・互助義務がなくなる
- 配偶者の祭祀承継者を引き渡せる
死後離婚のメリットは、大きく2つ。
まず死後離婚をすることで、配偶者の姻族の扶養・互助義務がなくなります。日本では、配偶者が亡くなったあとも姻族関係が続くため、義両親の世話や介護、経済的援助を求められる可能性があります。死後離婚すれば、そういった義務がなくなるので、配偶者の死後の負担を減らせるでしょう。
また、配偶者の祭祀承継者を引き渡せるのもメリット。祭祀承継者とは、お墓や仏壇といった祭祀財産を受け継ぎ、管理する人で、祀財産の管理が不要になります。
死後離婚のデメリット
- 死後離婚の撤回はできない
- 配偶者の姻族から援助を受けられない
- 姻族との関係が悪化する可能性がある
死後離婚の手続きは撤回できません。一度絶った関係は復活できないので、慎重に判断する必要があります。また死後離婚をすると、配偶者の姻族からの援助も受けられません。子どもや食事の世話をお願いしたり、生活費をもらったりするのは難しいでしょう。さらに、そもそも姻族との関係が悪化するリスクもあります。
死後離婚の実例

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夫が死んだ
それは突然でした。いつもは朝食前に散歩に出る夫が起きてこなかったのです。
7時半をまわっても起きてこないので寝室を見に行くと、素人目にも既に息をしていませんでした。慌てて救急車を呼びましたが、時既に遅し、その後、警察の対応や子供達への連絡、葬儀の手配など、悲しむ間はもちろん、息つく間もありませんでした。
お墓、どうしよう
まずお墓をどうしよう、と考えたものの、主人は長男で継いだお墓がありますので、そちらへ主人の両親、ご先祖様とともに入りました。
これでホッと一息。といきたいところですが、つぎは私のお墓をどうしよう。
一緒のお墓に入りたくない
まさか夫がこんなに突然逝ってしまうなんて思っていませんでした。こんなことならもっとちゃんとお墓について話しておくべきだった、と今更ですが後悔しています。
もっといろんな話をしておけば良かった、もっといろんな場所へでかければ良かった、なんて後悔よりも、今の私にはお墓の問題が一大事です。
どこにでもいる普通の夫婦
私は特段夫と仲が悪くも良くもない、どこにでもいる普通の中年夫婦だったと思います。不平不満はありつつも、それなりに夫婦として三十数年やってきました。子供達も独立して立派にやっています。愛しているなんて言葉はしっくりきませんが、夫のことは大切に思っていました。
それでも、私は夫のいるお墓には入りたくないのです。
私は姑からされたことを忘れない
20歳そこそこで嫁いだ時、私たち夫婦は夫の両親と同居していました。若く至らぬ点が私にもあったのかと思いますが、まぁひどい嫁いびり。お出汁の取り方から料理の味付け、洗濯物の干し方、たたみ方、典型的ないびりは一通り経験したと思います。
マイホームを持つまでの我慢と言い聞かせて、なんとか耐え忍んだ4年間でした。2人目の子供をストレスからか流産してしまったことをきっかけに、なんとか夫を説得し、マイホームを持つより先に実家を出ました。そこからは夫も気を遣ってくれ、付かず離れず、長男の嫁としては失格だったかもしれませんが、ほどよい距離で過ごさせていただきました。
正直、姑の体が衰え入院している時には、嫁いだ頃の行いについて遠回しにお詫びをされたこともありました。しかし、そのお詫びさえも姑が気持ちよく死にたいためだけの自己満足で、私への気遣いや謝罪の気持ちなんてなかったと思います。
たとえあったとしても、私は受け入れることはできません。
死後離婚という選択
夫が亡くなったことで、自分のお墓の問題が現実味を帯びてきました。やはり、何度考えても私は姑と一緒のお墓には入りたくありません。また、夫が亡くなった今、もうこの家に未練はありません。
私だけ別に個人のお墓を設けることも考えましたが、いっそこの家から籍を抜きたいという気持ちがどうしてもおさえられなくなりました。
調べてみると、死後離婚という制度があるんですね。こんなことになって初めて知りました。それくらいまだ馴染みのないものなのかもしれません。
夫に不満はありません。感謝もしています。それでも、私は死後離婚を選択することに決めました。
先に死んでくれて良かった
気持ちが決まれば、あとは手続きを済ませるのみです。子供達も最初は驚いていましたが、お母さんが決めたことならと、反対はしませんでした。
とにかく私は籍を抜き、清々しています。不謹慎な話ですが、夫が先に亡くなってくれて良かったと思います。もし自分が先に死んでしまい、あのお墓に入れられていたかと思うとゾッとします。
夫には感謝してもしきれません。
変な話ですが、籍を抜いて、夫への感謝は増したように思います。夫婦という形ではなくなりましたが、籍を抜いてやっと本当の意味で夫を慈しみ送ってあげることが心からできた気がします。
私のお墓はというと、実家のお墓に入るか、私のお墓を準備するかはまだ決めていません。これを機にしっかり自分のお墓についても考えてみようと思います。
死後離婚すると苗字はどうなる?
死後離婚は、姻族関係を断ち切る手続きなので、苗字は変わりません。姻族関係終了届を提出しても、亡くなった配偶者と同じ戸籍に入ったままです。
結婚前の旧姓に戻したいなら、役所に「復氏(ふくし)届」を提出してください。
死後離婚すると遺族年金はもらえない?
死後離婚をしても、亡くなった配偶者の遺族年金は受け取れます。繰り返しになりますが、死後離婚は配偶者の姻族と関係を終了する手続きのため、配偶者との関係には影響がありません。
死後離婚で変わること・変わらないこと一覧
項目 | 変わること・変わらないこと |
---|---|
苗字 | ・配偶者と同じ戸籍・苗字のまま ・復氏届の提出によって旧姓に戻せる |
相続 | ・亡くなった配偶者の財産を相続できる |
遺族年金 | ・亡くなった配偶者の遺族年金を受給できる |
祭祀の承継 | ・祭祀財産を他者に引き渡せる ・新しい祭祀承継者を決める必要がある |
義両親との関係 | ・配偶者の姻族との関係が終了する ・同居や介護、経済的援助をする必要がなくなる |
義両親と子どもの関係 | ・子どもと配偶者の姻族の関係は継続する ・義両親が亡くなったときは子どもが代襲相続する |
死後離婚の手続きと必要な書類
死後離婚をするには、「姻族関係終了届」の提出が必要です。
姻族関係終了届は、配偶者に先立たれた本人が本籍地、または居住地の市区町村役場に提出します。提出に期限はないため、配偶者が死亡したあとであればいつでも届け出が可能です。
姻族関係終了届の提出に必要な書類は、こちら。
- 姻族関係終了届
- 戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)
- 印鑑(または認印)
- 身分証明書(運転免許証・健康保険証・マイナンバーカードなど)
姻族関係終了届は、市区町村役場の窓口か、公式ホームページからダウンロードできます。その他、自治体によって必要な書類が変わってくるので、事前に確認しておくと安心です。