配偶者に先立たれ、「このまま舅や姑と暮らすのか?」「配偶者はいないのに舅や姑を介護するのか?」と悩んでいる方は、姻族関係終了届の提出を検討しているかもしれません。
姻族関係終了届(いんぞくかんけいしゅうりょうとどけ)とは、配偶者が亡くなったあと、配偶者の親族との関係を法律的に解消する届け出です。「死後離婚」とも呼ばれ、姻族関係終了届を出すことで、舅や姑の介護や扶養義務・互助義務を終了できます。
この記事では、姻族関係終了届の影響や手続き方法、メリット・デメリットを解説します。
目次
姻族関係終了届とは?配偶者の姻族との関係を解消
姻族関係終了届の影響
- 死亡した配偶者の血族の扶養義務がなくなる
- 同居している配偶者の血族の互助義務がなくなる
- 死亡した配偶者の祭祀承継者を引き渡せる
姻族関係終了届(いんぞくかんけいしゅうりょうとどけ)とは、配偶者が亡くなったあと、配偶者の姻族関係を解消するために役所へ提出する届け出のこと。
結婚すると、結婚相手の血縁者(姻族)に対して扶養義務や互助義務が生じます。そのため、配偶者が亡くなったあと、相手の両親を養ったり介護をしたりするよう求められるかもしれません。
姻族関係終了届を提出すると、死亡した配偶者の血縁者(義父母や義兄弟姉妹など)との関係を断ち切れます。扶養義務や互助義務がなくなるため、配偶者の血縁者に強要されても拒否できるのです。
さらに、配偶者の祭祀承継者を他の姻族に引き渡せます。祭祀承継者とは、先祖代々のお墓や仏壇、家系図などの祭祀財産を受け継ぐ人。配偶者の祭祀財産の維持・管理をする必要がなくなります。
姻族関係とは?結婚した相手の一族の血縁者
姻族とは結婚によって結ばれる親族関係で、配偶者の両親や祖父母、兄弟姉妹など、一族の血縁者を指しています。
民法728条第1項に「離婚によって姻族関係が終了する」と明記されているため、離婚をすれば姻族関係は消滅。また第2項では「夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様である。」とあります。
配偶者が亡くなった場合、夫婦の婚姻関係は終了しますが、配偶者の血族との姻族関係は終わりません。配偶者の死亡後、姻族関係の解消を望むなら、姻族関係終了届によって意思表示する必要があります。
姻族関係終了届を出す方法は?
届け出先:本籍地または居住地の市区町村役場
提出期限:なし
届け出人:生存している配偶者
必要書類
- 姻族関係終了届
- 戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)
- 印鑑(または認印)
- 身分証明書(運転免許証・健康保険証・マイナンバーカードなど)
姻族関係終了届の届け出先
姻族関係終了届は、本籍地、または居住地の市区町村役場に提出します。
姻族関係終了届の提出期限
姻族関係終了届には、提出期限がありません。配偶者が死亡し、死亡届を市区町村役場に提出した後なら、いつでも届け出ができます。
姻族関係終了届を提出できる人
民法728条第2項によると、姻族関係終了届を出せるのは生存している配偶者だけ。代理人に提出を依頼することはできますが、姻族関係終了届の記入は生存している配偶者が行います。
また婚姻関係を結んだ夫婦に限られるので、事実婚の夫婦は利用できません。
姻族関係終了届の提出に必要な書類
- 姻族関係終了届
- 戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)
- 印鑑(または認印)
- 身分証明書(運転免許証・健康保険証・マイナンバーカードなど)
姻族関係終了届は、市区町村役場の窓口で入手するか、公式ホームページからダウンロードします。戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)は、本籍地の市区町村役場だと不要な場合があるので確認しておきましょう。その他、印鑑と身分証明書を求められるケースもあります。
自治体によって必要な書類が変わってくるので、提出前に一度調べておくと安心です。
姻族関係終了届を出すと遺族年金や相続権はどうなる?
姻族関係終了届で終了するのは、姻族関係だけ。配偶者と婚姻関係にあった事実は変わらないので、遺族年金や相続権の受給資格に影響はありません。姻族関係終了届を提出しても、遺族年金を受給したり相続財産を受け取ったりできるので安心してください。
もちろん配偶者の親族から遺産を返すよう求められても、応じる必要はありません。一方で、もし相続放棄をしたいなら、死亡後3か月以内に家庭裁判所へ申し立てをしなければならないので注意しましょう。
姻族関係終了届を出しても苗字は変わらない?
姻族関係終了届は姻族関係を断ち切る手続きなので、苗字や戸籍は変わりません。
戸籍には「姻族関係終了」と記載されますが、亡くなった配偶者の戸籍に残り、苗字も配偶者の姓のまま。姻族関係終了届を出したからといって、自動的に戸籍から抜けたり、結婚前の旧姓にもどったりはしないので注意が必要です。
旧姓に戻したい、夫の姓を名乗りたくないという方は、別途「復氏(ふくし)届」を提出しなければなりません。復氏届は配偶者の死亡後、苗字を旧姓に戻すための手続きです。姻族関係終了届と同じく、提出の期限はなく、住所地または本籍地の市区町村役場に届け出を出すため、まとめて提出してもよいかもしれません。
姻族関係終了届を出すと子どもはどうなる?
姻族関係終了届は、生存している配偶者が亡くなった配偶者の親族と関係を断ち切る手続き。
姻族関係終了届を提出しても、子どもと配偶者の親子・姻族関係は継続します。そのため、子どもにとって亡くなった配偶者は父親、義理の父母はおじいちゃん・おばあちゃんのままです。義父母が亡くなったとき、生存している配偶者に相続権はありませんが、子どもには相続権が発生します。
姻族関係終了届のメリットは?
- 配偶者の姻族の扶養義務がなくなる
- 配偶者の姻族の互助義務がなくなる
- 配偶者の祭祀承継者を引き渡せる
- 配偶者の遺族年金の受給権や相続権が残る
- 子どもに配偶者の姻族の相続権が発生する
姻族関係終了届は、亡くなった配偶者の扶養義務・互助義務がなくなるのが最大のメリット。
姻族関係終了の背景には、嫁姑(舅)問題で頭を悩ませていたり、配偶者の親族と折り合いが悪かったりする問題があります。配偶者が亡くなったらもう姻族とは付き合いたくない、一緒のお墓に入りたくないと考える方もいるでしょう。
姻族関係終了届を提出すれば相手の嫁(婿)でなくなるため、義父母と同居したり養ったり、介護をしたりする必要はありません。また祭祀承継者を引き渡せるので、亡くなった配偶者の家系のお墓や仏壇、家系図などを管理する責任もなくなります。
一方、姻族関係を終了しても、亡くなった配偶者の遺族年金は受給できますし、相続権はなくなりません。さらに、子どもがいる場合は、義父母の遺産相続を受けられるのもメリットといえます。
姻族関係終了届のデメリットは?
- 姻族関係終了届は撤回できない
- 配偶者の姻族の援助を受けられない
- 配偶者の姻族への配慮が必要
姻族関係終了届のデメリットで注意したいのが、姻族関係の終了が撤回できないこと。
姻族の扶養・互助義務がなくなるということは、あなた自身も援助を受けられません。経済的な支援や生活のフォローなど、配偶者の姻族を頼るのが難しくなる可能性が高いです。
また、姻族関係終了届を出された配偶者の親族は、あまりよい気持ちがしないかもしれません。さらに、舅・姑と子どもの法律的な関係は継続します。今後もお付き合いをしていくのであれば、届を出すタイミングを考えたり、事前に説明したりしておいた方がよいでしょう。
姻族関係終了届は前向きになるための手段
姻族関係を終了したい理由として、再婚を視野に入れている方もいるでしょう。舅や姑と仲が良かったり世話を焼かれていたりすると、亡くなった配偶者や義理の両親に申し訳ない気持ちになり、再婚話を切り出せないかもしれません。
思い切って姻族関係終了届を出すことで、気持ちが前向きになり、新たな人生を歩む意思表示ができた人もいます。本当にあなたを心配してくれているなら、姻族も快く幸せを願ってくれるでしょう。
一方、姻族関係が断たれることで、精神的な支えを失ったり、困ったときに頼る人がいなくなったり不都合が生じる可能性もあります。後悔しないよう、よく考えてから届を出すのが大切です。
姻族関係終了届を出す前に、プロの弁護士や司法書士に相談してみるのもおすすめ。いい葬儀の姉妹サイト「いい相続」では、全国各地の士業をご紹介しています。専門相談員が無料で相談を承っているので、ぜひ一度ご利用ください。