2019年のアカデミー賞作品賞を受賞した映画でもあり、劇場で予告編を見て受賞前から公開が待ち遠しい作品の一つでもありました。物語は事実に基づいた作品として、脚本は主役の一人トニー・リップの息子の手によるものという事、一人の男の生き様が子供世代にどのように映るのかという点、その点においては父の姿を見たその感動が息子を動かすと言った終活の理想とも言えそうです。
私の考える終活、書いたものを残すよりもその生きざまを記憶に残すことが次世代の力になるという考えがそのままこの作品を作ったような映画でした。
全く相いれない男二人の旅立ち
ナイトクラブで働く用心棒トニー・リップは、腕っぷしが強く乱暴者だが、とにかくワイルドでもありながら口も達者な男。妻や子を愛し、親兄弟と事あるごとに集まり暮らすイタリアンです。無教養ながら誇り高い男であるという印象があります。身内の中では誰もが同じように黒人に対する差別意識があり、彼もまたそれを普通に感じるような男でした
勤務先のナイトクラブの改修工事に伴い職を失ったトニーは、オーナーの紹介で天才黒人ピアニストのドクター・シャーリーと出会います。お互いの出生も異なり、互いに受け入れることのない出会いでしたが、その出会いを先に受け入れたのはシャーリーでした。天才ピアニストとして、コンサートツアーのドライバーとして、身の回りのサポートをするスタッフとしての臨時採用でした。
舞台は1962年、二人のツアーは特に人種差別の強い南部地域を回ります。レコード会社の契約により、一台のキャデラックと黒人専用旅行ガイド「グリーンブック」を頼りの二人の旅は始まりました。

見方を変えれば欠点も美徳に
トニーはとにかく無頓着で言葉を選びません。しかしそんなトニーだからこそ信頼ができたのでしょう。口から出てくる言葉は常に彼の心の真実。シャーリーはなかなか受け止めがたいトニーの言葉遣いも、旅を通じて徐々に受け入れるようになります。
一方で最初のコンサートを窓の外から見ていたトニーは、その瞬間にシャーリーの才能を認めます。
彼の中では肌の色も人格のなく、才能は才能なのです。妻への手紙を一生懸命に書いているところにも、シャーリーのアドバイスどころか、そのままシャーリーの口伝えの手紙を書いていることにも抵抗がありません。妻を安心させるための手紙であれば実に素直になれる。それがトニーの良いところなのでしょう。
車中でケンタッキーフライドチキンをすすめるトニーと、滴る脂に恐る恐る手にしてそれを食べるシャーリーのシーンがあります。はじめてお互いが近づいてきた時なのかもしれません。そんな二人の旅は行きつく先々でさまざまなトラブルに遭遇します。
それは人種差別によるところが多く、その都度トニーがシャーリーを助けるのですが、今一つ互いのプライドが互いを遠ざけるように、近づいては離れ、頼ってはあきらめるといった関係だったようです。
トニーからしたら才能も富みも持った彼の、黒人という事だけを考えてみれば何とも幸せな人生と映ったのでしょうし、彼のプライドの高さがいささか気になったようでもあります。シャーリーからすれば、手紙を書く家族がいて、白人であることが何よりも幸せの理想だったのに違いありません。そして粗野で乱暴な態度と言葉遣いは、もう一方では自由奔放にも見えたようです。
旅の終わりに見えてきたもの
そもそもそんな二人がどうして一緒に旅をしているかと首をかしげたくなるほどに、旅の終盤で二人は口論をすることになります。スラム街で育った自分が受けた環境の方がどんなに苦労をしたのかというトニーと、妻を失った孤独な黒人の苦悩。お互いが背負ってきたものがぶつかり合います。
そして最後のステージで、この旅で最も落胆するほどの人種差別を受けます。
二人はこのコンサートの中止を決意し、町の黒人バーへ出かけて食事をとるのですが、そのステージでシャーリーはピアノプレーヤーとして弾け、トニーはその姿を見ながら彼の才能をも堪能したのでしょう、二人は最後に本当に楽しい時間を共感し過ごしたのです。
8週間のツアーを終えて、家族との約束のクリスマスイブに間に合ったトニーのところに、一本のワインを抱えてシャーリーが訪ねてきます。部屋の中はにぎやかなホームパーティの真っ最中。トニーの喜ぶ姿とそれを受け入れる家族。シャーリーに向けた妻の抱擁と一言がとてもしゃれていたのです。
「手紙をありがとう」
人生は何時だって変えられるんだということ。
終活目線で人生を考えた時に終い支度ばかりではなく、これからの人生を考えて、少しだけ違うものを取り入れてみてはいかがでしょうか、その先にまた豊かな楽しみが増えるかもしれません。

今回ご紹介した映画について
監督 | ピーター・ファレリー |
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CAST | ヴィゴ・モーテンセン/マハーシャラ・アリ/リンダ・カーデリーニ |
上映時間 | 130分 |
製作国 | アメリカ |
配給会社 | ギャガ |
劇場公開情報 | 【劇場公開表記】3月1日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー |
コピーライト | c 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved. |
この記事を書いた人
尾上正幸
(終活映画・ナビゲーター / 自分史活用推進協議会認定自分史アドバイザー / 株式会社東京葬祭取締役部長)
葬儀社に勤務する傍ら、終活ブーム以前よりエンディングノート活用や、後悔をしないための葬儀の知識などの講演を行う。終活の意義を、「自分自身の力になるためのライフデザイン」と再定義し、そのヒントは自分史にありと、終活関連、自分史関連の講演活動を積極的に展開。講演では終活映画・ナビゲーターとして、終活に関連する映画の紹介も必ず行っている。
著書:『実践エンディングノート』(共同通信社 2010年)、『本当に役立つ終活50問50答』(翔泳社 2015)