【終活映画】エンディングノートの意味がジワリと分かる映画『四十九日のレシピ』

なかなか映画館に出かけることができない時に、レンタルビデオでも終活を感じることができる映画を紹介いたします。

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終活、エンディングノートが生まれた理由が腑に落ちる作品

物語は岐阜県のとある町でのこと。妻、乙美を失い何もやる気が起きない夫、良平のところにイモという娘とハルと言う若者がやってきます。

こうした終活映画を身近に感じるには、やはり現代劇が最もわかりやすく、ご紹介する機会も多くありますが、この映画は私の終活セミナーの中でも最も多く紹介をさせていただいている映画でもあり、拙著『本当に役立つ「終活」50問50答』にも、解説を載せさせていただいております。

終活やエンディングノートが現代に誕生した理由が腑に落ちるような作品でした。もちろん監督のタナダユキさんは、まさか終活映画として制作する意図もなかったことでしょうが、終活映画とはこんな映画の生活のシーンにもあふれているのです。

嫁ぎ先で不妊に悩み、夫の浮気が発覚した娘、百合子は傷心で実家に戻ったところで、この父親と二人の若者を通じて亡き継母、乙美が自分にとって大切な存在であったことに気が付かされてゆきます。その二人から見せられたのが、母の人生が詰まったレシピカードでした。そのカードには夫と娘との幸せの食卓が思い起こされるような毎日のメニューが記されており、イモはそれを思い出させるように調理をしては良平を励ましてゆきます。

「大宴会だよ、よんじゅうくにち」「四十九日だろ」そんなやり取りの中にも、乙美の死別から立ち直らせようとするハルとイモの様子が見て取れます。

亡き妻が夫のために用意したグリーフサポートとは?

二人の若者は、乙美がかつて務めていた施設で育った子供たち。

おそらくは施設でのあだ名で呼びあった名前であろう彼らが、乙美から受けたミッションこそが、良平が乙美の死の悲しみから一日も早く立ち直るべく仕掛けたグリーフサポートだったのでしょう。腹が満たされ、周囲に人がいてたくさん話すこと、人生を振り返り幸せを思い出すことは、良平が自らを立ち直らせようとする、グリーフワークには十分な時間になったようでした。

「ようし、やるぞお、大宴会だ」

ひとり呆然と過ごしていた良平は大きく変化をして、乙美の四十九日を盛大にやろうと誓うまでに至るのです。

そんな父親の傍らの百合子もまた、母の人生年表を作ろうと提案してその思いを形にしようとするのですが、その年表が一向に埋まらないことに呆然としました。

百合子を育てはしたけれども子供を産まないままの生涯を終えた乙美と、乙美に育てられ今、離婚の危機に立った自分との共通点に気が付くのです。空白の年表を前に、自分の人生とだぶらせてその人生の意味までを考え込んでしまいます。「子供を産まない女の人生なんて」と。

次々と埋められていくお母さんの「人生年表」

親せきが集まり、ささやかに乙美の四十九日の精進落しが始まります。

集まった親せきからは百合子は夫がいない法要の席であることをたしなめられたりもする中、わが家を訪ねてくる若者たちの存在がありました。

「あのう、ここで先生の四十九日法要があると聞いたのですが……」そんな感じで集まった若者たちのことを、良平も百合子もよくわかりません。どうやらこの若者たちはイモやハルと同じように、乙美の教え子であったようです。

「この年表真っ白ですけど、僕たちが書いてもいいのですか?」

突然の申し出に首をかしげるようにして、「ええ、どうぞ」と応える百合子でしたが、その年表は瞬く間に乙美の人生を表してゆきました。

良平や百合子が知らない乙美の存在していた過去が、そこにはしっかりと記されていたのです。その豊かさたるや半ば子供のいない人生を悲観し始めていた百合子にはまぶしいほどに誇らしくも充実した人生であり、自分の心の隙間を埋めるのにも十分なものだったのでしょう。

「これがお母さんの人生」

その言葉と共に百合子は笑みの表情を受かるのです。

いかに充実して生きるか、その姿をいかに見せてゆけるか?

映画の中にはいくつもの回想シーンにより、若き日の乙美の言葉が周囲の人間を繋いでゆくのがよくわかります。生前受けた乙美からのミッションを成功に終えた二人の若者このこれからの人生。夫と今一度、きちんと向き合おうという百合子の人生はしっかりと再起動をしたようなエンディングシーンがありました。

さて、終活とは何をすべきか、もうすでにお分かりの方も多くなってきた昨今、終い仕度ではなくていかに充実して生きるかということに加えて、その姿をいかにして見せてゆけるかという事に尽きると思うのです。

私の終活セミナーでは「家族が家族のことを意外と知らない」というメッセージを込めてお伝えしております。

亡き家族が元気だったとき、楽しく過ごしていた時を思い出すことで、残された家族のエネルギーがいくつもわいてくることがあるのです。終活で優先すべきは残してゆく人が困らないためにではなくて、残してゆくであろう人たちをいつまでも応援し続けるための者でもある。そのためのツールとしてのエンディングノートでいいじゃないか、こんな風に考えると「何を書こうか?」という不安も軽くなるのではないでしょうか。

※文中のグリーフとは、近親者の死別による心の痛みであり、遺族がそこから立ち直ろうとする働きをグリーフワークと呼ばれております。そのグリーフワークを助けるための存在であり環境を提供することを私はグリーフサポートと呼んでおります。

今回ご紹介した映画について

監督:タナダユキ

出演:永作博美/石橋蓮司/岡田将生/二階堂ふみ/原田泰造/淡路恵子

劇場公開:2013年 11月9日

 (c)2013 映画「四十九日のレシピ」製作委員会

この記事を書いた人

尾上正幸

(終活映画・ナビゲーター / 自分史活用推進協議会認定自分史アドバイザー / 株式会社東京葬祭取締役部長)

葬儀社に勤務する傍ら、終活ブーム以前よりエンディングノート活用や、後悔をしないための葬儀の知識などの講演を行う。終活の意義を、「自分自身の力になるためのライフデザイン」と再定義し、そのヒントは自分史にありと、終活関連、自分史関連の講演活動を積極的に展開。講演では終活映画・ナビゲーターとして、終活に関連する映画の紹介も必ず行っている。

著書:『実践エンディングノート』(共同通信社 2010年)、『本当に役立つ終活50問50答』(翔泳社 2015)

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