東京都港区にある真宗大谷派のお寺、明福寺では、「人と人とがつながる場」をさまざまな形で生み出しています。副住職の中根信雄さんはお寺の仕事の一方で、人と人をつなぐネットワーカーになるべく、工夫の日々を送っています。
独り暮らしの門徒が多いという事実
中根さんの取り組みの根底には、“無縁社会では、何が起きても誰も助けてはくれない事態が起こる”という気付きがあります。
当初、メディアで“無縁社会”という言葉は頻繁に流れていましたが、それについて実感はあまりありませんでした。しかし、ある門徒さんの兄弟が孤独死し、死後、20日間も発見されなかったという事件が身近で起こり、無縁社会を実感するようになったといいます。
さらに、お寺の門徒さんたちと話をする中で、一人暮らしの人が多いことに気が付きました。特に、子どもがすでに独立し、夫はすでに亡くなっているという女性が大勢いることを知り、衝撃を受けました。そのことから、いろいろな形での他人との関係性を築 くことが必要だと考えたのです。
これからの時代は血縁だけで社会を支えていくのは難しい。気が合う人との関係性をつくることが重要になる。
そう感じた中根さんは、集まった人同士が関係性をつくれるような、そんなイベントを行うようになりました。
参加者同士の縁で関係性をつくる
もともと明福寺では、秋のお彼岸では、基本的な儀式を終えた後に、寄席が 開かれていました。地域の落語愛好会を通じてプロの落語家を招いて行うもので、毎回50名以上の方が集まる定番のイベントです。
そこに新たに中根さんの提案で、お寺でJAZZライブを開くようになりました。これも地域でJAZZを広めたいと願う人との出会いがきっかけになったといいます。子どもたちも楽しめる 場にするため、屋台を出すなどして、偏らずさまざまな人たちが交流できる場所を提供しています。
中根さんの手がけるイベントは数多いですが、すべてのイベントの始まりが、このJAZZライブだったといいます。
夏は流しそうめん、冬はもちつき大会。そして、ざっくばらんな焼き芋の会
世代を問わず、さまざまな人が集まれるイベントとして人気なのが、流しそうめん。
親子で楽しく食事をしよう! と始めた会ですが、地域の人はもちろん、地元の人以外でもインターネットなどを通じてイベントを知り、参加する人もいるそうです。一方、冬はもちろんおもちつき。もちつき大会も地域の人々があつまる人気のイベントです。
また、焼き芋の会を開催したこともあるとか。これは美味しい種子島の焼き芋を食べながら、いろいろなことを話そうという、ざっくばらんな会です。
もちろん食べるだけではありません。
子どもたちに人気なイベントでは、昭和の遊びを体験する会もあります。
紙芝居など昭和の時代に身近だった遊びを子どもたちにも体験してもらおうというイベント。子どもたちも夢中になって遊ぶそうです。
このほか、テーマを決めて話し合う「寺トーク」、ヨガ、整体なども催されます。いずれもいろいろな人たちとの関わり合いの中での偶然の出会いをきっかけにして広がったもの。
「お寺を人と人が出会う場所にしたい」という信念、またそこから来る努力は確実に実っています。
こうしたイベントに参加してみるだけでも、新しい出会いがあるかもしれません。すぐに友だちができなくても「ここに行けば人がいる」「困ったら頼れる場所がある」と思えるだけでもちょっと気が楽になるような気がします。
これまでは、お寺の空いたスペースを有効に使うのを目標として活動をしていた中根さん。これからは、こうした活動だけでなく人の苦しみや悩みに寄り添うような活動も活発に行っていきたいと考えています。