解剖の種類。正常解剖・司法解剖・行政解剖・病理解剖の目的と特徴

小林憲行【記事監修】
小林憲行

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  • 正常解剖とは、人体の構造を調べるために行う解剖
  • 病理解剖は、病死した人の治療の効果や状態を確かめる解剖
  • 法医解剖は、変死体の死因を突き止める解剖で、司法解剖と行政解剖がある

解剖とは、生物の体を切開して、その構造などを観察することです。あまりなじみのない言葉ですが、終活を考える上で決して無縁ではありません。医学の進歩のため献体に登録されている方もいますし、病変や死因を調べるなど、さまざまな目的で解剖が行われています。ただし人体を切り開いて解剖するとなると、慎重に実施される必要があります。今回は解剖にはどのような種類のものがあるのかについて説明します。

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解剖の種類は4つ!正常解剖・司法解剖・行政解剖・病理解剖

解剖をまず目的別に分けると、人体の構造を調べるための正常解剖、病死した人の状態や変化を調べるための病理解剖、そして変死体の死因を突き止めるための法医解剖の三つがあります。このうち法医解剖は、さらに法律上の分類によって司法解剖と行政解剖に分かれます。
それぞれ解剖の担当者や実施の権限者、遺族による承認の必要の有無などに違いがあります。以下、この4種類について説明しましょう。

正常解剖:人体の構造を調べる

正常解剖とは、人体の構造を調べるために行うものです。

身体の仕組みを研究するという学問上の目的をもってなされることから、系統解剖とも呼ばれます。江戸時代後期に杉田玄白らが『ターヘル・アナトミア』を訳出して『解体新書』を著しましたが、そのきっかけとなった小塚原刑場での罪人の腑分けも、現代の分類でいえばこの正常解剖に当たります。

古くは純粋に人体の未知を明らかにするのが目的でしたが、医学および解剖学の進歩した今日では、もっぱら教育の一環として行われています。すなわち、医学教育課程の最初に履修する「解剖学実習」です。医学部ないし歯学部の学生が、献体された遺体を解剖し、人体構造に関する知識を修得するのが目的で、日本では技術の向上のために献体を解剖することは認められていません。

他方で医療の多様化により、医学部生や歯学部生だけでなく、看護師や理学療法士、歯科衛生士などさまざまな医療従事者の分野で、正常解剖の見学が教育課程に取り入れられています。
正常解剖に必要な遺体は、基本的に故人の献体の遺志に従って、遺族が提供します。かつて献体が一般に周知されていなかった時代には、死刑囚の遺体が解剖に回されることもありました。近年は献体の希望者が増えていることから、遺体の確保は難しくなくなったといわれています。遺体を正常解剖に供するには、当人が生前に大学へ献体登録をしておかなければなりません。

>>献体 – 登録条件・報酬・葬儀について

司法解剖:事件性が疑われる遺体の死因を究明する

ニュースや刑事ドラマなどでしばしば耳にする司法解剖は、事件性が疑われる場合に死因などを究明するために行われる解剖です。高度な専門知識をもった法医学者が執刀するのが基本で、法医解剖ともいいます。他殺体だけでなく、自殺や事故による死者の遺体も、司法解剖の対象となりえます。

ただし、事件や事故にあった被害者すべてが受けなければならないというわけではありません。司法解剖の必要性の有無は捜査を担当する検察や警察が判断します。遺族が希望しても警察が必要なしと判断すれば解剖はされず、反対に警察の要請に応じて裁判所が「鑑定処分許可状」を発行すれば、遺族の同意なしに解剖することが可能です。

犯罪事件では客観的な証拠を重要視する傾向が強まってきていることから、司法解剖の需要も高まっています。しかし、予算不足や法医学者の確保の困難さなどにより、事件性が疑われる遺体の解剖率は、2016年の全国平均で12.4%にとどまっています。経験豊富な法医学者の確保と司法解剖の運用体制の整備は、日本の治安における大きな課題です。

>>検死とは?検視・検案・解剖の違い。自宅で亡くなった時の対応は?

行政解剖:事件性のない遺体の死因を究明する

事件性はないと判断された遺体の死因究明を目的とするのが、行政解剖です。死体解剖保存法に基づいて実施され、遺族の承諾を必要としないのが特徴です。その代わり、行政解剖を行えるのは監察医のみと規定されていて、現在、監察医が置かれているのは東京23区、大阪市、横浜市、名古屋市および神戸市に限られています。

その他の地域では、遺族の承諾を得て法医学者などの手によって同種の解剖が行われることもあります。ただし、2013年に施行された「死因・身元調査法」により、遺族の許諾なしに警察署長が解剖を指示することが可能となりました。

病理解剖:病気で亡くなった人を調べて治療に役立てる

病理解剖は、病気で亡くなった人を対象に、死因の特定のほか、診断の妥当性や治療の効果を確かめるためなど、さまざまな目的で実施されます。通常は臨床医が遺族の承諾を得て、病理医に依頼して病院で解剖が行われます。結果は報告書としてまとめられ、医師の間で共有されることで、今後の診断や治療の重要な資料となります。

日本では年間2万件ほどの病理解剖が実施されているとされ、その膨大なデータは日本病理学会により年に1回「剖検輯報(ぼうけんしゅうほう)」として刊行されます。

解剖後の火葬や慰霊についても考えておくべき

人体の解剖には大きく三つの目的があり、さらに法律上の分類を入れると4種類に大別することができます。一般の方が解剖に関わることはまれですが、もし献体などを希望される場合は、解剖後の火葬や慰霊について生前から考えておかなければなりません。献体や葬儀についてご不明な点がありましたら、お気軽にご連絡ください。

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