野辺送りについて

兵藤 大介【記事監修】
小林憲行

記事監修兵藤 大介

かつて霊柩車のなかった時代、故人の遺体は自宅で執り行う葬儀が終わると、近親者や地域の人たちが棺を担ぎ、葬列を組んで埋葬地にまで送りました。これを野辺送りといい、非常に重要な儀式とされていました。

今ではあまり見られなくなった野辺送りの風習ですが、死者の鎮魂や最後の別れといった精神は、現代の葬儀においても名残があります。

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野辺送りの意味

遺体を火葬場や埋葬地に運ぶ野辺送りは、古くから葬式においてとても重要な儀式のひとつでした。野辺送りは「野辺の送り」や「野送り」ともいい、そうした行いを専門とする職業もあったほどです。

昔の日本では土葬が多く、野辺という言葉自体にも、死者を埋葬する場所という意味が含まれていました。野辺送りは人々が故人との最後の別れを惜しむプロセスであったと同時に、魔が取り憑かないよう、遺骸を守りながら厳かに送っていく儀式だったのです。そこでは仏教や神道といった宗教上の区別はあまりなく、地域ごとにその土地の風土や特性に合わせた葬送が行われていました。

古くから日本の各地に根付いていた神道では、遺体には死穢(しえ)と呼ばれる穢れ(けがれ)があるとされたため、それを地域の日常に持ち込まないための儀式でもあったのです。遺体をどのように埋葬地まで送るかは、地域全体にとって大きな問題だったのです。

かつての野辺送りの葬列

伝統的な野辺送りの葬列では、参加者それぞれに役割が与えられ、それに即した道具を持つのが習わしでした。道具や役割の中身は地方によって異なりますが、位牌、飯、水桶、香炉、紙華、天蓋の6種を持つ人が、もっとも重要な六役とされることが多かったようです。この六役は原則的に、故人の近親者が担います。

葬列の先頭には、松明(たいまつ)か高灯籠(たかどうろう)を持った人が立ち、全体を先導します。

江戸時代までは野辺送りは主に夜に行われていましたが、昼間の野辺送りでも明かりが灯されました。その他、幡(はた)や杖、燭台などを持つ人が葬列を囲みます。

先頭を行く松明や高灯籠には魔除けの効果があるとされていました。その後ろには籠を持った人が続き、籠の中に入れた米や紙吹雪、小銭などを撒きながら道中を進みます。これらも同じく魔を払うためです。さらに棺の中に、鎌などの刃物を乗せている地域もありました。

野辺送りにまつわる儀式や習わし

野辺送りには、けがれをこの世に残さないための数々の工夫が取り入れられています。例えば、出棺の際や土葬する際には、棺を3回横に回すとされました。これは「三度回り」と呼ばれ、方向感覚を狂わせることで故人を迷わせ、帰ってこられないようにするための儀式です。

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また、仮の門を作ってそこから出発したり、わざわざ遠回りして運んだりするのも、霊魂がこの世に舞い戻って来ないようにするための作法とされています。

さらに、棺には天蓋をさして日光を遮ったり、道中では神社の門前などの聖域を避けたりしますが、これらも日常から死穢を隠すという意味があります。

こうした野辺送りが終わると、参列者は風呂に入って自身のけがれを落としてから膳に着きます。さらに風呂だけでなく、味噌や塩を口にしてお清めとする地域もあったようです。

衰退した野辺送り

今日、野辺送りの風習は、火葬設備のない離島や山間部など、ごく限られた地域にのみ残っています。そもそも車が普及した現代では、遺体を人の手で火葬場まで運ぶ必要はありません。ごく一部の地域によっては伝統行事として、火葬の後で野辺送りの葬列を行っているところがある程度です。

一般的な現代の葬式では、棺は葬儀場から火葬場まで霊柩車で搬送されご遺族も含めて参列者はバスやタクシー、ハイヤー等でその後を追います。こうした車で火葬場に向かうことを野辺送りと呼ぶこともありますが、本来の意義からは大きく外れています。そもそも、かつては主に自宅で葬式を行っていましたが、現在では葬儀場を使用し、そこでおおかたの儀式を済ませてしまいます。あらためて野辺送りに労力と時間をかける必要性は薄まっているのです。

現代に残る野辺送りの精神

現代では野辺送りの必要性は薄まりました。しかし、棺を送るという行為自体が、儀式としてまったく無くなってしまったわけではありません。現代の葬儀に当てはめるなら、遺体を入れた棺を霊柩車に納めるまでの過程が、かつての野辺送りに近いといえるでしょう。

多くの場合、近親者の成人男性が数人で葬儀場に安置された棺を持ち、外で待つ霊柩車のところに運んでいきます。他の参加者も、その姿を見ながら霊柩車の近くまで移動します。

遺体を火葬場へ送るために重要な儀式という面では、今も昔も同じであるといえます。

また葬儀会館によっては、会館の出入り口に野辺送りをイメージした小道を用意するなど、古くからの葬儀の伝統を今に残そうとするところもあります。

遺族が遺体に最後の別れを告げ、また故人が安らかに旅立つことができるよう祈る時間として、現代の葬式の中にも、野辺の送りが息づいているのです。

まとめ

伝統的な野辺送りを目にしたり、実際に参加したりする機会は、現代ではほとんど無くなってしまいました。しかし、かつての野辺送りの精神は現代にも脈々と残されています。そのすべてを踏襲しないまでも、現代の葬儀の中に、故人の霊魂をより安らかに見送りたいと願う精神が息づいているのです。

こうした現代の葬儀における作法や道具について、何か気になることや、葬儀に関するご希望があれば、いつでもお気軽にお問い合わせください。

兵藤 大介【記事監修】
兵藤 大介

記事監修兵藤 大介

大学卒業後、広告業界で20年にわたりキャリアを築く。スタートアップの広告代理店立ち上げに参画し、代表取締役を務めた経験も持つ。 2020年、これまでの経験と異なる領域へ挑戦する「キャリアの逆張り」として株式会社鎌倉新書に入社。相続関連の新規事業立ち上げを1年間担当した後、2年間葬祭事業部に従事。その後、事業横断型の営業推進組織の責任者として、広告商品の新規開発や終活領域のデジタル広告運用支援を2年間リードした。 2024年より現職。事業部長として2回目の就任。社内のデータ分析と全国の葬儀社との対話から得られるリアルな現場の声を掛け合わせ、業界が抱える課題の解決に挑んでいる。 主なメディア出演やコメント掲載として、フジテレビ「めざまし8」、テレビ東京「LIFE IS MONEY~世の中お金で見てみよう~」、日本経済新聞がある。

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