父の恋と、遺言書

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【連載】リアル・シニアライフ
この連載では、シニアライフにまつわる、人間関係、経済問題について、実際の生活者にヒアリングした結果を、個人の事情がわからないよう脚色し、ルポ形式でお伝えします。

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久しぶりの帰省

父は68歳。
10年程前に母に先立たれ、その後私も他県へ嫁ぎ、定年退職した今、父は現在一人で暮らしています。
所謂、独居老人というやつです。
母に先立たれ、私が家を出てからというもの、さっぱりだった自分の身の回りの世話は見よう見まねでなんとかやっているようです。
もともと、仕事一辺倒で外交的なタイプでもなく、趣味も多くありませんのでどんな暮らしをしているのか心配ではありますが、私も子育てに追われあまり帰省することもできずにいました。
父のことも気がかりですし、孫にも会わせてあげたいと、今年の夏は子供を連れて2年ぶりに実家へと帰りました。

板についた一人暮らし

まずは大掃除から始めなければ泊まれないかな、、、と思っていましたが、意外と片付いていてびっくりしました。
愛情表現も家事も苦手なはずの父が久しぶりに会う孫のために頑張ったのでしょう!さすが孫パワー。
お仏壇も綺麗にしてあり、母の好きなお菓子がお供えされていて微笑ましく感じてしまいました。
母が生きている間にこんな気遣いしてあげていれば良かったのに、と自分も母になった今となっては余計なことまで思ってしまってダメですね(笑)
最初久しぶりのおじいちゃんに緊張していた子供達も、夕食を済ませ、近くのスーパー銭湯から戻ってくる頃にはすっかり打ち解けて、実家にいる間にしっかりおじいちゃん孝行できそうです。

突然の告白

子供達が寝静まったらやっと私はひと段落。
「それにしても、大掃除するくらいの気持ちできたのに綺麗にしてあってびっくり。お父さんもすっかり一人暮らしが様になっているわね」
「まぁ、そうだな、あれだな、色々手伝ってくれていて」
「え?」
「だからまぁ、あれだな、手伝ってもらっているんだ」
と、まぁ歯切れの悪いこと悪いこと。
私が初めてボーイフレンドを紹介した時のほうがまだマシだったと思います。
ハッキリしない父から機嫌を損ねないように色々聞き出した頃には日付が変わろうとしていました。

父の恋愛事情

聞き出した情報を整理すると、
・父にはいい仲の女性がいる
・女性もご主人に先立たれている(独身で良かった、、、)
・山歩きサークルで出会った(そんな趣味あったの?!)
・付き合いは2年ほどで家にも出入りしている
初めて聞く話ばかりで、まさかこんなにも老後を満喫しているとは夢にも思っていませんでした。
驚きのほうが大きく、娘として喜ぶべきなのかどうなのか複雑な心境ですが、遠方で一人寂しく心細い一人暮らしをしているよりはよっぽど良いことなのかも。。。?!となんとか前向きにとらえることにします。
年老いた、というにはまだ早いのかもしれませんが、親の恋愛事情を聞かされるのはなんとも言えないむずがゆい気持ちになりますね。
母の好きだったあのお菓子をお仏壇にお供えしてくれたのも、その女性なのかしら?と思うとやはり少し複雑です。

け、結婚?!

「それで、籍をだな、いれようと思っているんだ」
「?!?!?!」
籍を?入れる?ということは、け、結婚?!
父の恋はなんと結婚を視野に入れたものでした。というか、父が!私の父が!結婚!しようとしている!!!
あまりの急展開に私の頭も心もついていかず、とはいえ、父がそう望むなら私が口を挟むのもおかしな気もしますし、とりあえず私がいる間に一度その女性と会うことを約束し、いったんその夜はおひらきとなりました。

家族になるということ

私はあまりの展開についていけず、とりあえず心境はさておき、事実を夫にLINEしました。
夫も驚きながらも、「とりあえず素性は確認したほうが良いし、いい人だったとしても遺産をどうするかは一度お父さんと話しておいたほうが良いと思う。」
い、遺産?まだまだ死にそうにないけど?!と思いましたが、そうです、結婚するということは父に万が一のことがあった場合、父の遺産は子供である私と再婚相手が相続することになるのです。
父のこれからの人生を支えてくれることには感謝しますが、母が支えたこれまでの人生のことを考えると、私と再婚相手が半分づつ相続するというのは腑に落ちません。
父が結婚するかもしれないという事態に感情が先立ちそこまで考えが至りませんでしたが、再婚相手がどんな人にしろお金のことで後々揉めたくありません。そこはしっかり確認しておいたほうが良さそうです。

父の再婚相手がやってきた

遺産の話はまだ父としていません。
翌日のお昼過ぎ早速父のお付き合いしている女性がやってきました。
すっかり我が家の台所にも慣れている様子で、なぜだか私がお茶を淹れてもらってしまいました。
私の子供達にもお土産の本を持ってきてくださり、朗らかなマダムという印象で、幸い騙されているなんてことはなさそうでまずは一安心です。
しかし、良さそうな人で余計に遺産の話は言い出しにくくなってしまいました。

再婚の条件

「どう思う?」
マダムが帰った後、父が言いました。
「良い人じゃない。お父さんにはもったいないわね」
事実婚でもいいのではないかと思っていましたが、会ってみたマダムの印象が良く、心からそう思いました。
あのマダムが父のそばに居てくれるなら私も安心です。
「再婚しても良いと思うよ、私も安心だし。でも、遺産のことはきちんと考えてほしい」
父の顔色を伺いながらもそう言いました。
「それなら大丈夫、遺言書の準備をしているよ。彼女からも再婚するなら遺産を子供に全部残すように遺言書を準備するように言われている。それが彼女の再婚の条件だ。」
マダムー!!!
そんなことまで考えてくれていたなんて。。。やっぱり父にはもったいない女性です。
そんなこんなで私の心配は取り越し苦労となりました。
遺言書なんて、お金持ちだけの話しかと思っていましたが、まさか庶民の私の身にもふりかかるとは思ってもいませんでした。
今度マダムの娘さんご夫婦とも食事をする予定です。
遺言書やマダムの家の整理が住んだら父とマダムは籍を入れる予定です。
最初は親の恋愛なんて少し受け入れがたいものがありましたが、今となっては本当に良かったと思います。
きっと母も変わらず見守ってくれているはずです。

プロの見解

この方のケースについて、相続申告の件数で日本最大級の規模を誇る税理士法人レガシィのパートナー税理士岡崎孝行さんに、専門家の観点よりコメントをいただきました。

ご自身が万が一の際の財産の渡し方につき、便箋等に内容を記載し封筒等に入れ保管するものは『自筆証書遺言』と言われていますが、手間がかからず書きやすい反面、記載内容が曖昧であったり、日付や署名、印鑑等がなかったりすると、無効となるケースがあるため注意が必要です。遺言は何度でも書き直しができ、最新の日付のものが有効なため、ご本人の心境の変化により内容が変わる可能性もあります。今回のケースのように「子供に全て」という内容の遺言でも、再婚なされる奥様には『遺留分』という法定相続分1/2の半分1/4の権利が残るため、相続後にこの遺留分の請求があった場合には子供はその分の財産を渡す必要がでてきます。これを防ぐには奥様のほうで家庭裁判所に対し『遺留分放棄』の手続きを行ってもらうことが必要です。更に近年では相続税の課税対象者も増え、税金上の影響もあることから、いざ遺言作成にあたっては税理士などの専門家にご相談下さい。
(税理士法人レガシィ 税理士 岡崎 孝行)
相続申告件数 日本最大級 税理士法人レガシィ https://legacy.ne.jp/

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