日本各地にはその土地、その地域だけに存在するユニークな葬儀の慣習やしきたりがたくさんあるのをご存知でしょうか?他県の葬儀に参列する機会は少ないため、一般的なお葬式のマナーは知っていても、自分の住んでいる地域のお葬式との違いに驚いてしまう人は少なくありません。
今回登場する関 東志郎さんはもその一人。
関東生まれ、関東育ちの東志郎さんは青森生まれのむつさんと結婚したばかり。奥さんの実家のお葬式に急遽参列することになり、お葬式で恥ずかしい思いをしないよう、新幹線での移動中、奥さんから事前レクチャーをしてもらうことになりました。
東志郎さんと一緒に、昔ならではの風習が残る青森のお葬式について学んでいきましょう。
目次
青森のお葬式はお葬式の前に火葬する(前火葬)

初めて参列する青森のお葬式、緊張するなあ。関東のお葬式といろいろ違うみたいだし。

東志郎さんは青森のお葬式に参列するの初めてだもんね。

変なことをして君に恥をかかせてしまっても申し訳ないし…。青森のお葬式ってどんな感じなのか教えてもらってもいいかな?

いいわよ。まずは青森のお葬式のながれから説明するわね。
青森のお葬式の一番の特徴はお通夜の前に火葬する風習があることかな。

え、火葬って普通はお葬式の後じゃないの?

全国的には「お通夜→お葬式→火葬」の後火葬の地域と、「お通夜→火葬→お葬式」の順番で行う前火葬の地域に分かれるの。だけど、青森県では、「前火葬」の中でも、お通夜の前に火葬を行うのが一般的なの。東北ではほかの地域にもあるみたいだし、青森に近い北海道函館市も、お通夜の前の「前火葬」らしいわ。

お通夜の前に火葬か…。

先に火葬することを知らないで、お通夜で最後のお別れをしようとしたら、すでにお骨になっていてびっくりしたという話を聞いたことあるわ…。
故人と最後のお別れをしたい人はお通夜じゃなくて出棺の前に行かなきゃいけないのよね。お葬式の時はもう骨壷の中だから。

なんで青森はお通夜の前に火葬をするようになったのかなあ?

それは青森の地域的な事情だと思うわ。東北の雪深い地方では親戚が集まるまで時間がかかるから先に火葬を行うようになったと聞いたことがあるけど。
実際大雪の日のお葬式はすごく大変なのよ。関東の人にはわからないと思うけど。

確かに、雪の中お葬式に行くのは大変そうだよなあ。

ほかにも、津軽藩の初代藩主「津軽為信公」のお葬式がその由来になったとも聞いたことがあるわ。
江戸時代、津軽から遠く離れた京都で為信公が亡くなった際に、真冬の雪道で津軽へはどれだけ時間がかかるかわからないから、やむを得ず先に火葬を済ませて、津軽に戻ってから葬儀を行ったとか…。

へー。そんな由来があるんだ。

このときの葬儀の順序が地域の人々の間で広がって、「前火葬」が一般的になったという説もあるんだって…。
諸説あるうちのひとつってことだと思うけど。でも、弘前には津軽為信公の像があったり、青森の人にとってはなじみが深いのよ。

青森のお葬式はあとの法要もまとめて行う(取り越し法要)

青森では火葬を最初に済ませるということはわかったのだけど、全体的な流れもやっぱり違うのかな?

青森県内でも地域によって葬儀の風習が違う場合もあるから、私の実家がある青森市の流れを説明するわね。

火葬が終わって、その夜にまずお通夜。そして翌日にお葬式という家が多いかな。お葬式の日には納骨と一緒に「取り越し法要」も済ませるのよ。

参考:青森県青森市のお葬式の流れの例
- 火葬:亡くなった日からおよそ3~5日で行うことが多い。火葬後、お骨上げ(収骨)された骨は骨箱に収められます。
- お通夜・お葬式:友引などの場合をのぞき、お葬式はお通夜の翌日に行われます。一般の弔問客はお葬式ではなくお通夜に多く訪れます。
- 納骨:通常はお葬式の日に納骨を済ませますが、冬場は雪解けを待ち四十九日の法要などに合わせて行うことが多いそうです。
- 取り越し法要:お葬式または納骨の後に、四十九日や百ヵ日までの法要を先に済ませる「取り越し法要」を執り行います。

「取り越し法要」というのも初めて聞いたなあ。これも青森独特なのかな?

青森市では、一般的ね。「取り越し法要」とは四十九日や百カ日までの法要をお葬式で全部まとめてすることなの。

関東でも初七日の法要を葬儀後に行う「繰り上げ初七日」はよく聞くけど、四十九日や百ヵ日までまとめて行うなんて、青森の人はかなり合理的なんだね。

「取り越し法要」も雪深い中、遠方から何度も参列していただくのは大変という配慮から根付いた習慣だと聞いたことがあるわね。青森の人は合理的だし、心遣いも行き届いているということね。

「取り越し法要」は青森だけじゃなく、北海道や東北の一部地域で採用されているみたい。実際に県外から来る場合に、飛行機が飛ばなくて葬儀に間に合わないっていうことは多いのよ。参列してくれる人も、待つ方も大変なの。

なるほど。そういう事情もあるんだね。

それと「取り越し法要」の後には「精進落とし」の会食があるわ。
「取り越し法要」が終わると、一連のお葬式行事が終わりになるわけ。遺族の方々もほっとするし、親戚一同が、ずっと長居してお酒飲んでるっていう話もよくあるのよね。

東北の人たちはお酒強いからなぁ…。僕は飲みすぎないように気をつけないと。

会食は会費制だから、お香典とは別に会費も用意しておいてね!わたしの分もよろしく。
ちなみに青森では香典は「即日返し」が基本だから。帰りには香典返しを受け取って帰りましょう。
青森では骨箱から骨だけをだして納骨する

ところで、お葬式より前に火葬するってことは、祭壇には骨壷だけが置いてあるってこと?

そうよ。火葬した骨を骨壷や骨箱に入れて、祭壇に置くの。ちなみに今はもう雪が溶けているから、すぐに納骨すると思うけど、冬場に亡くなった場合は、春になるまで骨壷を家においておくのよ。

だから青森では納骨の時期やタイミングは、ちゃんと決まってないの。

家に骨壷を?どこに置いておくの?

青森の家はだいたい仏壇がちゃんとあるのよ。だから仏壇のところに安置するの。
ちなみに、これは青森以外の人に驚かれるんだけど、遺骨をお墓に納めるときは骨箱から出して、骨のまま納骨するのが主流なの。

え!?骨だけを?

青森はご先祖とのつながりを特に大切にする気持ちが強い土地柄だから。ご先祖様とともに土に還ろうという考えからなのかもしれないわね。

ちなみにお寺用と自宅用と二つの位牌を準備するのも青森ならではかしら?
お寺の本堂の後ろに位牌所があって、そこに位牌を納めるの。そうすれば、家族が位牌を拝めない時も、お寺が仏様のお世話をしてくれるでしょ。

青森では家の玄関の両側に「もがり」をする

知らないことがたくさんあるな。
ほかにも青森の習わしっていうか、風習ってあるの?

そうね、青森に住んでいた時はなんとも思ってなかったけど、東京に行ってから「あれって青森独特だったの!?」とびっくりした風習がいくつかあるかも。
たとえば、「もがり」の風習かな?古くからのお宅のお葬式でよくあるのだけど、門や玄関に1.5~2mほどの木の棒2本を交差させX印にして飾るのよ。

2mって僕の身長より大きいじゃないか。そんな棒が飾ってあったら驚くよね。

古代日本文化でも「殯(もがり)」の儀式があったと聞いたことがあるよ。亡くなった人を小屋に移して、葬送までのある期間一緒に過ごすことで死者を慰めたり、蘇生を願ったりする風習だっけ…。その習慣が青森には残っているってことかな?

その「殯」を短縮・簡略化したものがお通夜とは言われているわね。
お通夜の前に火葬をする地域で、形は変わっても「もがり」の習慣が残っているのは少し不思議な気がするわよね。
青森のお葬式では実物の代わりに花輪のポスターを貼る

そのほかには、葬儀ではよく祭壇の脇などに花輪を飾るけど、青森では花輪の写真を印刷したポスターを貼ることがあるわね。

え、生花じゃなくてポスター!?

そうなの。枯れてしまう生花の代わりにポスターを使って、花輪分のお金も香典として包むの。もちろん生花を飾ることもあるけど。

戦後に「新生活運動」という、冠婚葬祭を簡略化して生活上の改善を目指す運動が進められたことがあったんだけど、それが関係しているみたい。
実際お葬式の花輪は後が大変らしいし。ポスターなら片付けも、持ち帰るのも楽なのよね。

確かに、片付けや持ち帰りにも便利だね。
青森のお葬式ではタワーのような盛籠が出現する

花輪はポスターで済ませるけど、青森のお葬式に飾られる「盛籠」は、ほかの地方よりずいぶん豪華なんじゃないかしら?

「盛籠」って缶詰とかジュースを飾り付けたお供え物だよね?

そうそう!青森でよく見られる「盛籠」は
お葬式中に倒れないか心配になるくらい、大きくて立派なの。「籠」ではなくて「塔」って言ったほうがふさわしいくらい。


「盛籠」の花飾りと同じものがねぶたの花笠にも使われていると聞いていたことがあったので、ここにもねぶたの影響があるのかもしれないわね。

ねぷたとお葬式が繋がるなんて面白いな。

ちなみに、青森市は「ねぷた」じゃなくて「ねぶた」ね!!地域によって名称が違うけど、青森県民の命なんだから。
青森ではお葬式に巨大な葬式まんじゅうを飾る地域もある

お葬式の慣習っていろいろあるんだね。

青森市ではないけど、岩手県との境にある三戸町とその周辺では、通夜や葬儀で仏前に大きな葬式まんじゅうを供えることがあるそうよ。

大きいってどれくらい?

直径30cm、重さ4kgほどもあるまんじゅう5個を1セットで祭壇に飾るのが通例だそうよ。
できるだけ大きなおまんじゅうを供えて亡くなった人を送ってあげたいという気持ちや、ほかの親戚と大きさを張り合う気持ちから、特に戦後、巨大化していったらしいわ。

直径30cm、重さ4kg!?めちゃくちゃ大きいね。お葬式が終わったらみんなで食べるんだろうね。
青森では一般の人でも死亡広告を出す

新聞のお悔やみ欄というと、東京だと珍しかったり、著名人や企業の社長などの訃報を知らせるためのものというイメージがあるかもしれないけど、青森では一般の方でも死亡広告を出すことが多いわね。

例えば僕みたいな普通の人でも、新聞に死亡したことを掲載するの!?

特に南部地方の八戸市周辺ではほぼ「義務」と言っていいほど、地元紙に死亡広告を出すことが多いと聞いたことがあるわ。死亡広告を出すことで、個々に案内を出さなくても広く葬儀を告知することができるからとか。

確かに。遺族が知らなくても、生前お世話になった人って大勢いるだろうしね。

ただ死亡広告とは言ってるけど、有名人が出すものと違って、氏名と年齢、住所だけの簡単なものがほとんどだけど。

この告知を見た方が参列するから、八戸市周辺ではお通夜ではなくお葬式に一般の弔問客が多く参列するみたいね。

地域の結びつきが強いから、自分に少しでも関係のある人のお葬式には出るものだと考える土地柄なんだね。
同じ青森でも「津軽」と「南部」ではお葬式も違う

むつちゃんの実家がある青森のお葬式について教えてもらったけど、青森って結構広いから地域によっても違いがあるのかな?

江戸時代、青森県の西側は弘前を中心とした「津軽藩」、東側は岩手県の盛岡を中心とした「南部藩」にわかれていたの。
だから今でもその名残で東西でかなり文化が異なるとは言われているわね。

へえ。江戸時代の藩の影響が今も残っているなんて、面白いね。

でも葬儀に関する習慣は、葬儀社が参入するようになってだいぶ共通化されてきたみたい。もちろん多少の違いはあるけどね。

例えば、青森市・五所川原市・弘前市などの津軽地域では、一般の参列者はお葬式でなくお通夜に多く訪れる。でも、南部地方の八戸市周辺では、通夜は近親者のみで行う「自宅通夜」が多いから、一般の参列者はお葬式に参列するのよね。

ふーん、一般の人が参列する儀式がまったく逆なんだね。

青森のお葬式はいろいろと奥が深いのよ。でも大丈夫。大事なのは故人を思う気持ちなんだから。葬儀屋さんだってきちんとフォローしてくれるし、心配はいらないわ。
ちょうど青森駅に着いたみたいね。さあ、行きましょう!
青森県のお葬式費用の平均
青森県平均(n=40) | 全国平均(n=2000) | |
---|---|---|
葬儀費用の総額 | 126.9万円 | 118.5万円 |
基本料金 | 72.8万円 | 75.7万円 |
飲食費 | 26.6万円 | 20.7万円 |
返礼品費 | 27.4万円 | 22.0万円 |
参列者数 | 37人 | 38人 |
受け取った香典の総額 | 59.1万円 | 47.3万円 |
- 葬儀費用の総額:基本料金・飲食費・返礼品費の合計金額(お布施は含まない)
- 基本料金:斎場利用料・火葬料・祭壇・棺・遺影・搬送費など、葬儀を行うための一式
- 飲食費:通夜振る舞い・精進落としなどの飲食*
- 返礼品費:香典に対するお礼の品物*
- 参列者数:葬儀の参列した会葬者の合計人数
- 受け取った香典の総額:参列者から受け取った香典の合計金額
*飲食費・返礼品費はひとり当たりにかかる費用のため、参列人数に比例して変動します
まとめ
今回は、青森県のお葬式についてまとめました。青森県にお住まいの方にとっては当たり前のことと思っていても、他の地域から見ると意外なことがたくさんあります。
全国的にお葬式の均一化が進んでいるとはいえ、その地域独特の風習が大切に伝わっているところもあります。同じ県内でも地域や宗旨宗派、それぞれの家庭によっても違いがありますので、 青森で葬儀を行ったり、青森県のお葬式に参列する際により詳しく知りたいという方は、葬儀社や地元に長くお住いの方などにご確認されると良いでしょう。
なお、「いい葬儀」では青森県の葬儀社のご紹介も行っています。青森県の葬儀社をお探しの方は、「いい葬儀」にご連絡ください。
「第6回お葬式に関する全国調査(2024年)」データ利用について
- 当記事データの無断転載を禁じます。著作権は株式会社鎌倉新書または情報提供者に帰属します。
- 調査データ提供の利用規約はこちらからご覧ください。