今は亡き母へ
私がちょうどこの手紙を書くのにペンをとったのは、五月十一日、母の日。
いま、生きていたら……と思うことを、これまで何回してきたかな。
私が生まれたその日に逝ってしまった母ちゃんには、母の日の似顔絵もカーネーションも、ありがとうの一言を直接伝えることさえも叶いませんでした。親子で買い物や小旅行だったり、色んな話もしたかった。
命と引き換えに生んでくれたこと、本当に感謝してます。
大きな病気をすることもなく、丈夫な体で今まで生きてこれました。
そして結婚して、子供も生まれ、一人の母親になりました。
もうすぐ九ヵ月になる息子は、私に似て沢山食べるし、つかまり立ちもして、歩き始めが早そうだよ。時々、泣きぐずり激しくて、困ることもあるけど、わが子は可愛いね。
母ちゃんにも、おばあちゃんだよって、見せてあげたかった。
小さい頃から話に聞く母ちゃんは、頭良くて、料理もできて、お化粧も上手。
私はおっちょこちょいで、勉強も得意ではなかったし、母ちゃんに憧れてて、どこが似てるのかなって思ったりもしました。
でも成人式の時、母ちゃんの実家の近所の人から、「あっちゃんに似てきたね」って言われました。その一言がすごく嬉しかったことです。
私には手元にある結婚式のビデオと数枚の写真しかなくて、テレビ越しに見る父ちゃんとの幸せそうな顔を、目をつむれば思い出せるくらい何度も繰り返し見ました。
私が結婚してからは、今まで、仕事で忙しかった父ちゃんとの距離が近くなって、メールも電話も時々してます。
ポツリ、ポツリと母ちゃんとの思い出話も口にするようになりました。昔は聞いても覚えてないって言うばっかりだったのに……。
そんな話をする父ちゃんの顔、嬉しそうで、それだけ母ちゃんのこと愛してるんだと感じます。
実は、その父ちゃんが、この一、二年具合悪くて、少し心配です。
今はまた仕事始めてるけど、父ちゃんのこと見守っててください。
ここまで私を育ててくれたじいちゃんは、三月に逝ってしまったけど、天国で会えましたか。
たくさん迷惑かけてしまったけど、これからも一緒にお空から見ててください。
母ちゃんの分まで、これから妻として、母として頑張ります。またお墓参り行くからね。
「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」より
「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」は、父母、祖父母、先生、友人、近所の人など。“あの人”とかつて一緒にいた時に言えなかったこと、想い出や、“あの人”が亡くなった後に伝えたくなったこと、感謝の気持ちなどを綴ったお手紙です。