埼玉県の北西部にある秩父市は、都心から気軽にいける観光地として人気があります。三峯神社、聖神社など大きな神社仏閣が多いだけあって、300を超えるお祭りや行事があると言われています。
そんな秩父のお祭りの中でも特に珍しいもののひとつが、 葬式祭りとも呼ばれる奇祭「ジャランポン祭り」です。
白無垢を着た人が棺おけに入り、僧侶役の人が即席のお経をあげる…… 。祭りの由来は諸説あります。不幸に襲われた人が厄払いのために仮死人の役を努めて大願成就を願った、村に疫病が流行った時に、諏訪神社に若い娘を捧げたところ、疫病が治ったなどなど。正確なところはわかっていませんが、「疫病から村を守る」という意味あいがあったことは確かなようです。
今回はそんなジャランポン祭りとはどんなお祭りなのか?お祭りの魅力や見所を、長年にわたり僧侶役を務める川島康助さんから伺いました。
3月15日に予定されていた2020年のジャランポン祭りは、残念ながら新型コロナウィルス感染症の感染拡大を考慮し、中止となってしまいました。しかし、日本中、いや世界中がコロナウイルスの脅威に怯えているこの時期こそ、ぜひジャランポン祭りの力を借りたいところです。
目次
江戸時代から続く葬式祭り「ジャランポン祭り」
「ジャランポン祭り」は、秩父市の下久那地区で江戸時代から脈々と受け継がれる由緒あるお祭りです。
名峰 武甲山をのぞむ、約80戸で構成された秩父市下久那地区。秩父鉄道の影森駅から徒歩約25分でアクセスできる地域ですが、かつては、荒川に丸太橋が1本だけ架かる陸の孤島だったそうです。
山間にある孤立した村だったからこそ、地区の人々は寄り添いあい、信仰心をもち、神社を心の拠り所としていたと考えられます。川島さんは10年以上にわたってジャランポン祭りで僧侶役を務めています。
―― ジャランポン祭りは、生きた人を棺桶に入れて神社に捧げるとてもユニークなお祭りですが、由来について詳しく教えてください。
江戸時代頃、下久那地区は荒川を隔てて一本橋で対岸に行き来してたような集落でした。
そんな陸の孤島のような場所で疫病が流行ってしまい、村の存亡の危機に立たされた時に疫病退散を願って人身御供を神様に捧げたことが始まりと言われています。
葬式祭り、なんていう風にも呼ばれていますが、疫病が鎮まったお祝いという意味合いが強いですね。
もともと諏訪神社の春の例大祭の余興だったのですが、テレビ番組などで取り上げられることが増えてジャランポン祭りのほうが有名になってしまいました(笑)。

お酒も入って「イイ加減」になったら、祭りが始まる頃合い
―― ジャランポン祭りが開催される日の、1日の流れを教えてください
ジャランポン祭りは毎年3月15日に開催していたのですが、準備もあるので今は3月15日付近の日曜日に開催しています。当日は、お昼前に下久那地区の諏訪神社で神主さんが拝んで例大祭が始まります。いわゆる地域の神社の春のお祭りですね。
15時ごろになると、下久那地区の公会堂に移動して宴会が始まります。日が暮れた頃お酒を飲んでみんなが「イイ加減」になってきたら、ジャランポン祭りが始まる頃合いです。
死人役の人が白無垢を着て棺桶に入ったら、僧侶役は般若心経をあげて、死人役の名前や、地域に来た由来、家族のことについて冗談を交えて読み上げます。
そのあとはもういい加減ですね。お酒も飲んでいるので、デタラメです。台詞は決まっていないのでぜんぶアドリブです。歌を歌うこともありますね。
2時間ほどの儀式が終わったら、夜道を諏訪神社まで移動して、遺体役の人が締めの挨拶をしたあと万歳三唱をしてジャランポン祭りは終了です。
―― 笑いの絶えない、とても楽しそうなお祭りですね。遺体役の人も棺桶に入りながらお酒を飲むと聞きましたが、なぜお酒を飲むのでしょうか?
棺桶に入るなんて、普通の人は素面ではとてもできないですよね(笑)。
そのイイ加減さがジャランポン祭りの良さだと思います。
―― 川島さんは10年以上にわたって僧侶役をされているそうですが、遺体役の人は毎年変わるのですか?
はい、毎年違う人がやっています。ときどきテレビの企画でタレントさんが棺桶に入りたいとおっしゃってくださることもあるのですが、こればかりは地元の人に入ってもらっています。
道具は、本当のお葬式でも使えるものを用意

―― ジャランポン祭りは僧侶役の人と、遺体役の人の他に楽器を手にした人がいますがこれは何につかうのでしょうか?
チンドンシャンといって、儀式の間シンバルや太鼓のような楽器を賑やかに打ち鳴らす役割があります。仏教の宗派によっては、実際にチンドンシャンがお葬式で楽器を打ち鳴らす風習があります。
―― 実際のお葬式をユニークに再現しているのですね。
はい、道具などもこだわっていて、本物のお葬式で使う道具を使用しています。わざわざ浅草の道具屋さんに行って揃えてきました。
棺桶は、棺桶の業者さんからご提供いただくお話もいただいたのですが、さすがに本物の棺桶を扱うのは大変なのでお断りしました。
何年か前にテレビで日本の奇祭として紹介してもらって、以来たくさんのマスコミの方が来てくださっています。そのおかげで、公会堂に人が入りきれなくなることもあるくらいですね。
テレビなどで紹介していただくことは、下久那地区のPRになると思っているので、マスコミの方にきていただけるのは大歓迎です。
―― 写真を拝見するとみなさん笑顔で、毎年楽しみにしている人も多いのでは思いもいました。私も疫病退散を祈願するために参加したかったので、とても残念です。
私が知る中では、中止したのは今回が初めてです。
ジャランポン祭りは高齢者や小さいお子さんも大人数公会堂に集まるので、断腸の思いで中止を決めました。
ぜひ、来年は見にいらしてください。お越しをお待ちしています!
まとめ
春の始まりを感じる3月に、地域の人たち総出で集まって大笑いをするジャランポン祭り。この不思議なお祭りを、下久那地区の人たちは心から楽しみにしているのだなとお話を伺っていて感じました。
川島さんはジャランポン祭りをイイ加減(いい加減と良い加減をかけているそう)なお祭りと説明されていましたが、その「イイ加減さ」こそがこの祭りが100年以上も受け継がれてきた理由なのかもしれませんね。
みんなで酔っ払いながら、陽気に騒いで無病息災・疫病退散。ぜひ来年は、コロナウイルスの終息を祝って盛大にジャランポン祭りを開催できることを願っています!

ジャランポン祭りのアクセス
秩父市久那 下久那公会堂、諏訪神社
秩父鉄道 影森駅より徒歩約25分
ジャランポン祭りはあくまで地元のお祭りであるため、会場が狭く、駐車場等のないことをあらかじめご了承ください。