【インタビュー】身元は判明しても引き取り手のない遺骨。横須賀市の終活支援事業の背景にあるもの

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神奈川県横須賀市では、2015年から終活支援事業として、エンディングプラン・サポート事業を開始。原則、低所得、低資産、そして独居で頼れる親族がいない市民に対し、葬儀から納骨までを低額で生前契約できる協力葬儀社を紹介している。また、2018年からは全市民に対し、エンディングノートや遺書の保管場所、緊急連絡先などを生前登録し、万一本人が倒れた場合や亡くなった場合に、病院、消防、警察、福祉事務所のほか本人が指定した人に対し開示する「わたしの終活登録」事業を開始した。同市のこうした取り組みは、さまざまなメディアでも紹介され、高い関心と期待が寄せられている。

全国に先駆けて、こうした終活事業に果敢に取り組む背景には、高齢化率や独居の高齢者数の増加があるだけでなく、「引き取り手のない遺骨の実情が変化している」こともあるという。今回、横須賀市のこれらの事業を立ち上げた、北見万幸氏に話を聞いた。

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遺骨の身元はわかっているのに引き取り手がいない。「遺骨が警鐘を鳴らす」時代

エンディングプラン・サポート事業を立ち上げた背景にはどのような問題があったのでしょうか?

「平成30年度 引き取り手のいない遺骨の内訳」という資料を見てください。まだ速報値ですが、平成30年度の横須賀市の引き取り手のない遺骨の数は53柱ありました。その内訳は、生活保護の方の遺骨が30柱、一般の方が22柱、そして葬儀社からの遺骨が1柱です。一般の方の遺骨は警察からの案件です。

引き取り手のいない遺骨は平成26年度がピークで57柱でしたから、全体の数字を減らすことには成功しています。しかし、私が問題に感じているのはそこではありません。

引き取り手のいない遺骨の数字を経年で見たときに身元不明者の水準は変わっていません。限りなくゼロに近い。問題は、身元判明者の遺骨です。身元が判明していないのは53柱のうち3柱だけです。50柱は住民登録がある横須賀市民だった方です。

横須賀市の終活支援事業を立ち上げた、北見万幸氏

身元がわかっていても引き取り手がいないというのは、どのようなことなのでしょうか?

親族に連絡しても返信がない、もしくは遺骨の受け取りを拒否されたということです。

ここで注意したいのが、親族への連絡手段です。行政としては、親族には何としてでもお伝えしたいと思っていますが、遺骨の身元がわかっても電話番号がわからない。53件のうち、13件が手紙での連絡となっています。中でも生活保護の方の場合は、扶養親族の連絡先は把握できているはずです。ところが連絡先がわかっているはずなのに、30件中なんと11件が手紙でしか連絡する手段がないのです。

身元がわかっているはずなのに連絡がつかないというのは恐ろしい気がします。

引き取り手のない遺骨が増えた時点で、日本は変わったのでしょう。

まず1990年に、日本中の平均世帯人員数が3人を割り込んでいます。戦後3世代目に入り、核家族化が墓にまで及んだというのが私の解釈です。もうひとつが携帯電話の普及。契約件数が急に増加しているのが1992年で、固定電話と携帯電話の数が入れ替わったのが2003年です。つまり家族の数が減り、支え手が減った上に、人々の移動動距離がどんどん広がって親族が遠くに分散していく。そのため、倒れた後の伝達手段が失われていくということです。

確かに今は、元気な時にはとても便利な時代かもしれません。しかし倒れてしまった人にとっては大変な時代なのです。NTTの104電話番号案内が事実上機能しない時代。連絡先に連絡してもらえないのですから、これは非常に大きな問題だと思っています。

私はこのことを「遺骨が鳴らす警鐘」だと言っています。死者からの警鐘、日本が危険な方向に変化しているということを、骨が語ってくれているのです。

少し前の資料ですが、大阪市では毎年3万人が亡くなります。そのうち、平成27年度には3,000人の遺骨が引き取られていない。10人に1人の遺骨が引き取られないということです。住民登録のある、身元のわかっている一般市民の遺骨が引き取られないのです。政令市ではすでに3パーセントですから30人に1人が引き取られない。横須賀は中核市ですが、大体1パーセントです。土俵際で踏みとどまっている状態ですが、その内訳は一般市民の遺骨の引き取り手がないケースが増え始めています。

昔は、引き取り手のない遺骨と言えば、生活保護の方の遺骨が99パーセントくらいを占めていましたが、現在では一般の方の遺骨が4割を超えています。生活保護の受給者でさえも連絡がつかずに手紙を出しているのに。一般市民の遺骨はなおのこと、簡単には連絡先はわかりません。時間をかければ住民票を取り、戸籍謄本取って、親族の住所氏名まではわかるでしょう。でもその先が行き詰ってしまいます。電話番号はわからないので手紙で連絡するしかありませんが、手紙では返事は来ないのです。

いつごろからこうした問題について意識されるようになったのですか?

明確に「いつから」というのはありませんが、引き取り手のない遺骨の数が10件から20件になって、30件、40件と増えてきました。

そうしたことに気付く下地は横須賀市にはありました。というのも、横須賀市の浦賀に江戸時代から無縁の納骨堂があったからです。当時、浦賀は鰯漁で非常に栄えていました。栄えている地にはたくさんの人が集まります。種々雑多の人がいる中、無縁の墓地も必要だったのでしょう。当時は村で管理していたのですが、村から町になり市になって、横須賀市が無縁納骨堂を持つことになったのです。

この納骨堂がいっぱいになると、私たち市の職員が合祀墓に改葬をしているのですが、「そういえば増え始めたね」と。さらにそのほとんどが「名前のある人たちだよね」ということに気付きはじめました。昔は身元がわからないので骨壺には番号が振られていたのですが、気が付くと名前が書かれている骨、つまり身元がわかっている遺骨ばかりを改葬している。2005年に納骨堂がいっぱいになって馬門山墓地に移したときが、意識化された最初かもしれません。そして2015年にエンディングプラン・サポート事業が始まったわけです。

横須賀市の引き取り手のない遺骨数の推移(横須賀市の資料を基に鎌倉新書で作成)

しかし、当初から今のような方法を考えていた訳ではありません。2012年ころ、前任者の代に生活保護受給者の葬儀について、「財政コストもかかるので、寄付を集めて火葬を行う」という政策提案が出ました。その提案が採用はされたのですが、翌々年まで予算は付きません。ようやく付いた予算も年間2万2,000円です。ところが寄付で進めようとしていた前任者が辞めてしまって、私が引き継ぐことになりました。限られた予算で何ができるのかと悩んでいた時に、生前に希望を聞いて、生前契約ができるようにすればいいのでは?と考えたのです。

孤独死した高齢者の部屋に残されていた手紙

生前に本人の意思をはっきりしてもらうということですか?

今、行政にとって差し迫った問題として言われているのは、引き取り手のない遺骨が増えてしまって、置き場がないということでしょう。

しかしそれを解決する手段として、遺骨を引き取る業者はいるわけです。ゆうパックで送骨するというサービスもあるのですから、「遺骨の置き場所をどうしましょうか?」ということだけで言えば、解決策はもういくらだってあります。引き取られた遺骨は役所にとっては一切管理しない遺骨になります。ですから、もしかしたら表向きは、「引き取り手のない遺骨はありません」と言えるかもしれません。

でも、本当の問題はそんなことではありません。もっと根本的なところ。「本人たちはどう思っていたのか?」ということを聞いていないということです。一番の問題は、そうした希望を「聞く制度がない」ということなのです。家族はいない、親族も頼れない、お金もない、あるいはお金はあっても自分が倒れた時に助けてくれる人がいない。「親兄弟に見放されて、親の墓には入れません」なんて言われたらどうします?「じゃあ無縁納骨堂で良いですね」なんて言えるわけありません。そこが問題なんです。

横須賀市の終活事業はそのためにやっている?

遺骨を処理するための事業と批判される方も一部にはいらっしゃいましたが、目的は遺骨の処理ではないのです。本人たちの心の安寧というか、気持ちがどうしたら落ち着くのか?ということ。海に散骨して欲しいとか、お経を上げないで欲しいとか、賛美歌にして欲しいとか、それとも何もしないでください、なのか?それを聞きましょうということなのです。

これはエンディングプラン・サポート事業を事業化した直後のことだったのですが、NHKの取材で、独居で亡くなった方のご自宅に伺ったのです。故人は近隣でもとても人望の厚かった方で、家主さんもかわいそうにと、その方が亡くなった後、お部屋をそのまま残していらしたのです。近所でも毎朝声を掛け合う仲間がいて、亡くなって1時間ほどで発見されたそうです。

その方が亡くなっていた枕元に勉強机があったのです。その机の上にちょうど缶がありまして、その缶を開けたら手紙が出てきたのです。「私死亡の時、15万円しかありません。火葬無えん仏にしてもらえませんか、私を引き取る人がいません」って。

この方が亡くなったのは、この事業を開始する前、2015年の1月の上旬です。8月になってこれが見つかったのです。この手紙を見た時に、私たちがこの事業を立ち上げたその動機は間違っていなかったと確信しました。

この方の遺骨は、お経もあげずに火葬されて、無縁納骨堂に入っていました。それである住職にご相談したところ、住職も「お金なんていらないから」と、お経をあげてそのお寺の合葬墓に納骨してくれました。その根拠はこの手紙に書かれた「無えん仏」という4文字です。「仏にして欲しい」と書いているのです。ほかの紙には「縁」という字を一生懸命練習した紙も残っていました。

孤独死した故人の部屋にあった手紙
手紙には「縁」という文字を練習したあとも遺されていた

悲しい事実ですね。

この方は、生活保護を受給するようになってから1年も経っていませんでした。この手紙がNHKの番組で紹介され、大きな反響を呼びました。今でも全国から電話が入ります。

「一人暮らしなんだけど、そういう制度うちの市でも作ってもらえないんでしょうか?」って、その内容は切実です。でも「そちらの市役所こういう制度を作って欲しいとおっしゃってください」と答えるしかないのです。

民業圧迫を回避しつつ、低所得者であってもちゃんとご供養の工面ができるようにしましょう、というのが、このエンディングプラン・サポート事業の発想です。放置しておくと無縁納骨堂送りになってしまう人たちを救おうということですね。しかし今や、一般市民の遺骨が無縁墓送りにされているのです。私が「遺骨が鳴らす警鐘」と言っているのはそこです。

そこでスキームを使って、協力してくれる葬儀社にお願いする。何にもしなければ20万、30万円と費用が掛かるものを登録してもらえれば、市の出費は軽減できますし、亡くなった後も本人の希望通りの供養をしてくれるのかどうかを見届けることができます。

エンディングプラン・サポート事業に申し込むと、葬儀費用は生前から葬儀社に預かってもらうということでしょうか?

全額保護される無利息の普通預金があるので、葬儀社に通帳を作ってもらって、そこにまとめて25万円単位で一人分ずつ入れてもらっています。どなたの分かは通帳に書いてもらい、その通帳を市で年に1回、確認しています。

葬儀の内容については、自由度はあるのでしょうか?

それは、その葬儀屋さんとの話し合いにもよるでしょう。私たちは協力いただいている葬儀社のリストを上げて、その中から選んでいただきます。25万円でという場合もあれば、本人の意思でプラスの費用を支払って、自分の思う葬儀をしていただくというのも問題はありません。

現在、どのくらいの方が利用されているのでしょうか?

登録者数は年間、10名ほどです。4年間で40名ほど登録いただいて、そのうちお亡くなりになった方が11名です。

対象を限定していますので、年間50~60柱の引き取り手のない遺骨が発生する中で、10件くらい登録があれば、この事業は成功だと考えています。

問題はお金ではなく情報伝達。情報のハブがない

「わたしの終活登録」事業も2018年からスタートしています。

今後は親族に連絡がつかくなりつつある中、新しい登録制度を作っていかないと住民を守ることができなくなるということなのです。

さらに今、お墓がわからない時代になりつつあります。今、横須賀市の無縁納骨堂の一時安置室に3人の奥様の遺骨が入っています。子どものいない夫婦など、夫が先に他界し、後から奥様が亡くなった時に、お墓の場所がわからなくなってしまっているのです。親せきに連絡しても「お墓はわかりません」と。「では、そちらで引き取っていただけないか」と言うと、「うちの墓はうちの家族の墓だから」と断られる。つまり、今のお墓は先祖代々の一族墓ではなく、家族墓なんです。

お墓はあるのに入れない。一緒に住んでいない限りはその墓に入れないし、墓守もしないということですから、今後は急激な勢いでお墓は荒れます。また、葬儀を生前契約していても本人しか知らずに、契約が果たされないというケースも増えていると聞きます。

こうした事態を解消するために、今、どの自治体もコミュニティー作りに注力していますが、緊急時にその人がどこにつながっているのかがわからない社会資源ばかり増やしても意味はありません。例えば社会福祉協議会が1ヵ所しかなくて、全住民がそこに何らかの登録をしているのであれば、本人が倒れてもその社会福祉協議会に問い合わせをすれば、どこにつなげていけばいいかすぐにわかるでしょう。けれど都市化した社会では、デイサービスにしてもいろいろなところでやっています。本人が元気な時はそこに通えますが、路上で倒れた時に何も持っていなければ、その人がどこの所属なのかわからない。都会は元気な時はハッピーでしょうが、倒れたら怖いのです。

この原因は、お金の問題ではなく情報伝達の問題だと思っています。では、何が足りないのかと言えば、情報のハブがない。そこで、元気なうちに市役所に登録してもらおうというのが、「わたしの終活登録」です。

なぜ市役所が中心になるのかと言えば、警察も病院も、わからない時には市役所に連絡してくるからです。こちらであらかじめ登録できれば、緊急時、回答できる。それが市役所の強みではないでしょうか?

エンディングプラン・サポート事業の対象者は一人暮らしで頼れる親族がいない方ですが、この事業の対象者は全横須賀市民、誰でも登録ができます。本人に同意を求めながら、登録用紙に1項目ずつチェックをしてもらった上で書いてもらうものです。

役所の窓口で職員と一緒に書くということでしょうか?

基本的に、本人に目の前で書いてもらうことが多いです。決まっていなければ書かなくてもいいし、決まってからまた追加で書きに来てもいいですよというアドバイスはします。

登録で多いのは、まずは緊急連絡先です。緊急連絡先に、指定した方からの問い合わせに回答してくださいという欄にチェックを入れていただくと、危急存亡の時に、警察、病院、消防、福祉事務所の4者以外にも緊急連絡先の人から問い合わせに回答します。問い合わせがなければ回答はしません。さらに、コミュニティーについてや、かかりつけ医などの項目もあります。ここまでは生前開示です。

一方、遺言書の保管場所は死後、指定者に対してだけ回答します。お墓の場所も死後開示です。ただし、後見人だけの意思でお墓を登録した場合は、納骨についてはお墓の場所をお答えしますが、墓参ニーズには答えられないことにしています。さらに、空き家の相談の欄もあります。役所に空き家相談に来る方はほとんどいません。しかし、終活登録ということであれば年間400人くらいの方がいらっしゃる。登録するのはその内の三分の一くらいですが、いらした方に働きかけなければ。将来、空き家を放置することになります。

「わたしの終活登録」を実際に利用された方からの反響はありますか?

去年の11月に亡くなった方について、他県にいる親せきの方から「火葬の日程が決まったので、私以外の緊急連絡先の人を教えてください」という問い合わせがありました。緊急連絡先の筆頭がその方だったので、他の方の携帯電話の番号を教えました。

後から「火葬が終わりました。皆さん間に合ってお別れができました」という連絡があり、これから役所に行くので、遺書の場所を教えて欲しいと。確認すると、やはりその方が遺書の指定開示対象者になっていましたのでお伝えし、私も同行させていただいたところ実際にその場所に遺書がありました。お墓も他県にあったのですが、その方はご存知なかったそうです。「助かりました」と納骨後に電話をいただきました。

市に問い合わせれば、故人の希望していたことがわかる。こうした情報のハブはこれからの時代、ますます必要になりますね。

とにかく生前に聞いておかなければならないということなのです。それが「わたしの終活登録」事業です。付加価値のある、新しい住民登録だと思ってください。もちろん、登録は義務ではありません。あくまでも本人の意思ですが、これは横須賀市民の権利でもあるのです。

ありがとうございました。

(取材・文:小林憲行)

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