神饌(しんせん)とは、神道において神様に捧げる食事のことです。神様をもてなし感謝の気持ちを伝えると同時に、お下げした食物を人がいただくことで「神人共食」の一体感を得る儀式でもあります。神社に限らず、神饌は家庭の神棚にもお供えされます。ただし、種類や配膳の順序などには決まりがありますので、お供えの際には注意が必要です。ここでは神饌の意味や種類、そして作法について解説するので、今後の参考にご覧ください。
儀式としての神饌
神饌(しんせん)とは、神様や神棚にお上げする供物のことで、御饌(みけ)とも呼ばれます。西洋の収穫祭と同じく、食物を与えてくださったことを神に感謝する儀式です。日本の神道においては、供えたものを祭りのあとで下げ、みなでいただく「直会(なおらい)」が続くのが特徴です。これは神様と同じものを口にすることで親密さを高め、お神酒に酔って神と一体となることで、より多くの加護や活力を得ることができるとする「神人共食」の思想に基づくものです。
基本的には節目節目の祭事にご馳走が捧げられますが、伊勢神宮のような大きな神社では、365日欠かさず、1日2回ご神饌がお供えされます。このように日常的に神饌が供えられる神社では、境内に神饌を整えるための建物も設けられ、神官が細心の注意をもって調理にあたります。
ここで食材をそのまま供する場合は「生饌(せいせん)」、調理する場合は「熟饌(じゅくせん)」と言い、伊勢神宮や賀茂別雷神社をはじめ、独自のやり方がある神社の場合は「特殊神饌」とも呼ばれます。例えば、お米のまま捧げれば生饌ですが、炊いたり蒸してご飯やお粥にすれば熟饌となります。お酒やお餅なども、米の加工品なので熟饌になります。
家庭での神饌
ご神饌は神道の儀式ですが、家庭に当てはめた場合、むしろ仏壇へのお供えの方が一般的かもしれません。お供えした物は、後で下げて食べるというところにも、神仏をあまり明確に区別しない日本特有の文化が見られます。
神饌の原点は、神様に人と同じものを食べていただくという考えです。新しくご飯を炊いた時や、いただきものをした時、またお酒の封を切った時などは、仏壇の仏様とはまた別に、ご神饌として神棚へ捧げるのが好ましいと言えます。
神饌の種類
明治以降、一般の神社の祭事ではたいてい生饌が供されるようになりました。これは火災を防ぐためで、もともとは熟饌が主流とされていました。家庭では未だに、炊いたご飯やお粥、お餅など、調製された食材が往々にして神饌に供えられます。その場合、湯気が収まったところで神様や祖霊様が召し上がったものとして、お下げして家族でいただくことになります。
ご飯を捧げる時、お粥ならお椀を使いますが、生の米や蒸したものはお皿に盛ります。私たちがふだん食べている炊飯釜で炊いたご飯は、神饌では「強粥(こわがゆ)」に当たるものです。
魚は海魚でも川魚でもかまいませんが、たいていは鯛(たい)や鮭(さけ)、鰤(ぶり)が用いられます。家庭での神饌ならば、ご先祖様のお好みの魚をお供えしても良いでしょう。どの魚にしても、尾頭付きでお出しするのが基本です。
野菜や果物の場合は、カットしたり調理したりはせず、丸ごと生饌として捧げます。ただし、ネギやニンニクといった、においの強い野菜は避けるようにします。また、神饌では野菜のほかに海菜という分類もあります。これは昆布やわかめ、ひじき、海苔、寒天などを指します。海藻そのものではありませんが、鰹節や煮干、スルメなどの乾物も海菜に含まれます。
神饌の配膳
神饌には、種類によって上位下位の序列があります。上から米、酒、餅、魚、鶏卵、海菜、野菜、果物、菓子、塩、水という順番です。これらをすべて揃える必要はなく、用意したものを序列の決まりに従って配膳します。
日常の神饌であれば、米と塩、そして水が最もシンプルな組み合わせとなります。これを三方などの台に乗せ、自分側から見て奥、手前右、手前左の順に配置します。お酒を加える場合は、お米を中央にして、奥に2本1対のお神酒の徳利を並べるのが定型です。
品数を増やす場合は、この定型を真ん中に据え、神饌の順位に従って上位の種類から右・左・右・左と配置します。また、米と酒、塩、水をそれぞれ独立した三方やお盆に乗せる場合は、米を中心に上記の通り右・左と並べます。品数やスペースの都合で前後2列にする場合は、前列(神様側)を並べ終えてから、残った品目のうち最上位のものを後列(自分側)の中央に置き、残りをまた右左と配膳します。
仮にすべての種類を独立した2列で供えると、前列左から、鶏卵、餅、米、酒、魚、そして後列左から塩、果物、海菜、野菜、菓子となります。最後の水は塩と一緒にします。複雑に思われるかもしれませんが、決まりに則ったものなので、慣れれば難しいことはありません。重要なのは、神様やご先祖様に対する感謝の気持ちです。
まとめ
神饌は神道の重要な儀式として、古くから連綿と受け継がれてきました。他方、各家庭においては神棚の減少や仏教との混淆などにより、神饌の文化が薄くなっているのも現状です。これを機会に、ご自宅でも神様やご先祖様にお供えしてみてはいかがでしょうか。神饌の作法や道具について分からないことがあれば、ぜひお気軽にお問い合わせ・ご相談ください。