映画『曙光』の試写会に行ってきました。
2015年に公開された、お母様を撮り続けたドキュメンタリー映画『抱擁』の坂口香津美監督による作品です。
『曙光』の物語
自殺者を救う活動をしている家族もまた、娘を自死により失った遺族でした。
「自殺はいけない」というのは簡単ですが、それで理解ができるものではない。
周囲の心配や言葉よりも、自分自身の痛みがのしかかっている自殺志願者。
ただただ、思いとどまらせ、「一緒に暮らそう」と呼びかける。
思いとどまらせるための時間に余裕はなく、その場で力強く一緒に暮らそうと呼びかけるが、それが徒労であることも解る。
命を繋ぐのは本人の思いがむくむくと起き上がってくるのをひたすら待つだけ。
そのためには、暖かい布団と温かいご飯が用意されている。
命を繋ぐ現場には常に白い握り飯が与えられる。
生きようと思う限りは、腹はすくに違いない、食うことで明日のエネルギーになる。
そうやって時間が流れても、無力を痛感する出来事がある。
その出来事があってもまた、電話が鳴ると白い握り飯をもって駆けつける。
映画を観て考えた「生きる」ということ
ひたすらに、自らの亡くした娘を探しているようでもあるのです。坂口監督のドキュメンタリーイズムがそのままデザインされたような映画でした。
ちなみにこの映画では、私もほんの少しだけ役をいただき、登場します。
実はこの撮影予定の少し前に、地方の出張先で転倒し、出血と脳震盪で過ごした夜から、わずか数日後の撮影でした。
ケガや事故に遭遇することがあっても、命のことまではなかなか考えないかもしれない……。
作品を拝見して、改めてあの時の自分のことを考えると、幸いに命があった者として、あの夜の記憶と、今ここに生きていることにも感謝するばかりです。
「簡単に『自殺防止』ということを口にしたことがある。しかしそれは志願者にとっては何とも無責任な話なのかもしれない。家族や友人の気持ちなどくみ取れないほど自分自身が痛いのだから……」
そんな話を聞いたことがあるのを思い出しました。
さて、私はもしもそのような時にどんなことができるだろうか?
白い握り飯のような、そんな温かさや、腹を満たすようなことができるのだろうか?
ひたすらアップが多く、笑顔よりも真顔、ただひたすらに飯を食う、生きるというのはそういうことなのかなと。終活という言葉には収まり切らない、終活を超えて命を繋ぐ映画でした。
今回ご紹介した映画『曙光』
公開:2018年10月6日よりアップリンク渋谷にて公開。以降、大阪シアターセブン・
監督・脚本・撮影:坂口香津美
主演:黒沢あすか
>>2018年秋公開「どうすれば自殺を減らすことができるのか?」映画『曙光』に込められた坂口監督の想い
この記事を書いた人
尾上正幸
(終活映画・ナビゲーター / 自分史活用推進協議会認定自分史アドバイザー / 株式会社東京葬祭取締役部長)
葬儀社に勤務する傍ら、終活ブーム以前よりエンディングノート活用や、後悔をしないための葬儀の知識などの講演を行う。終活の意義を、「自分自身の力になるためのライフデザイン」と再定義し、そのヒントは自分史にありと、終活関連、自分史関連の講演活動を積極的に展開。講演では終活映画・ナビゲーターとして、終活に関連する映画の紹介も必ず行っている。
著書:『実践エンディングノート』(共同通信社 2010年)、『本当に役立つ終活50問50答』(翔泳社 2015)