今回は、徐々に決まり始めた、平成30年4月に改正される「介護保険法」の、現時点の検討課題や方針などをお話しします。
年度末に、「全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料」が公開されましたが、その中でも特に、参考資料3「介護保険制度の見直しに関する意見」を参照して、来年の改正の1つになる「共生型サービス」について、取り上げたと思います。
共生型サービスとは?
共生型サービスが30年4月から、現在の介護保険サービスに追加されます。
現時点の情報では、障害福祉サービス事業者が、介護保険事業所の指定を受けやすくなるようです。そうすることで、障がいのある利用者が高齢になっても、事業所を変えずに、サービスが継続できます。
この共生型サービスが追加されることによって、高齢者と障がい者が同一の事業所でサービスを受けられるようになります(詳細については、これから決まります)。
通常は、介護保険と障がい福祉は根拠とする法律が異なり、その制度も異なります。
そのため、介護保険で許可された施設は、障がい福祉では許可されません。それぞれ、人員基準や施設基準などが異なるので、まず許可が下りないのです。こうした理由から、これまで、高齢者と障がい福祉は、それぞれの領域で独自に進化してきました。
ところが、よくよく見てみると、(当然と言えば当然ですが)高齢者と障がい福祉サービスは、似ているサービスが多いのです。
1つの施設で、同時にサービスを提供できるのであれば、その方が経費も掛からないし、報酬額を見直せるのではないか?「社会保障費の見直し議論にしよう」という話になっているようです。
共生型サービスがこれまでうまくいかなかった理由
業界の人からみると、「またか!」という話なのですが、以前から厚生労働省は、高齢者と障がい者のサービスを統合したいらしく、介護保険が始まったころから、この手のことはずっと言い続けています。
ところが、上手く行っていません。
これまで統合しようとした時に、特に問題となったのが、費用の負担についてでした。
高齢者と障がい者の制度は、自己負担の仕組みが異なるのです。
高齢者は、それなりに年金、貯蓄などがあるため、介護サービスを利用すると、1~3割の自己負担があります(3割は来年の8月から新設)。このような仕組みを応益負担(応率負担)と言います。利用したサービスの利用料の何割かを支払うという制度です。
一方、障がい者は、障がい者総合支援法(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)では、条文では応益負担をうたっているものの、実際は応能負担となっています。
応能負担とうのは、その利用者の年収額に併せて、負担する上限金額が変わり、その限度内で支払う制度です。
一時期、障がい者のサービスを、応能負担から応益負担に変えたことがあります。障害者自立支援法の時ですが、この結果、毎月の自己負担が増加したことから、「生活ができなくなる!」と全国の裁判所にて集団訴訟が起こりました。
応能負担から、応益負担に変更することで、特に重度な障がいがあり、サービス利用料が高額になる方は、サービスの利用を控えることになるか、もしくはそのサービス料を払うために、生活保護の申請をして、その金額を支払うことになったのです。
「自立支援と言いながら、自立の趣旨から外れているのでは?」という批判もありました。
現在この訴訟は和解が成立し、応益負担から応能負担に戻り、自立支援法が総合支援法に法自体が変わりました。
そのような経緯を考えてみても、当分の間は、この費用負担がネックとなり、統合は難しいと思われます。
とはいえ、今回は、費用負担は置いておいて、先にサービスを一緒にという議論になっています。
共生型サービスの成功事例は?
現在、すでに、この共生型のサービスを先取りしている所があります。
富山県で行なわれている「富山型デイサービス」です。
「富山型デイサービス」では、平成5年から徐々にですが、高齢者と、障がい者が一緒に施設を利用して、サービスを行なっています。さまざまな困難を乗り越えて、富山県独自のサービスが生まれています。私も何度か富山型デイサービスを見学した事があります。
この富山型は、平成18年から全国で始まった小規模多機能型居宅介護の参考になった施設です。
小規模多機能型は1つの施設で、通所、訪問、お泊まり(ショートステイ)ができる施設です。地域にこのような施設が1つあれば、地域の福祉に関して、さまざまな相談にのってくれるし、実際に困った事が起きたら助けてもらえる!頼もしいサービスになっているのです。
富山県ではしっかりと根付いています。この地方発のサービスを全国に!というケースになっています。
今回は、さらに富山型に近づけていくという流れになるようです。
ただ、同じような機能な施設だからといって、サービスの中身は、対象者によって、かなり異なります。
特に障がいは、身体、知的、精神と分かれていますし、歴史的に、それぞれの障害の特性に合わせてサービスを行なってきたという経緯があります。それを、今後は一緒にというのも「乱暴な話だ!」という意見もあります。
それぞれの専門領域に分かれていたものを、一緒にする!というのですから、どちらにもメリット、デメリットがありますが、現場のスタッフさんが受け入れ体制を作るために、勉強が必要になると思います。
利用者さんへの説明もしっかりと行なう必要もありますね。実際に、この共生型サービスが全国に根付くまで、それなりに時間が掛かると思います。
ただ、最近は高齢者のデイサービスに、身体障がい、知的障がいの方々も多く利用されていることもあり、デイサービスによっては、どのように対応すると良いのか?悩んでいるところもあるようです。
今後、共生型サービスが始まることで、高齢者や障がい者それぞれの特徴を理解したうえで、専門的なサービスを提供できる施設も登場してくることと思います。
実際に富山型では、障害児を高齢者が、職員と一緒にケアをするようなシーンもあります。興味のある方は、富山型デイサービスの参考書をご確認下さい。
また、それぞれ制度が異なりますから、書類のひな形や記録の方法も異なります。どのように統合するのか?楽しみです。
新年度から、さらに議論は加熱していきます。
こちらでも定期的に紹介していきます。
この記事を書いた人
橋谷創(橋谷社会保険労務士事務所代表、株式会社ヴェリタ/社会保険労務士・介護福祉士)