今は亡き母へ
お母
元気にしていますか?
もうお母には二十年以上会っていませんね。
すごく会いたいよ。夢の中でもいいから会いたい。
お母、お父の命二度も助けてくれてありがとうね。
くも膜下出血した時はとても大きな動脈瘤で、奇跡的に少しだけ出血して止まりました。
検査の結果、左右両方の頭の血管に動脈瘤が見つかったよね。
お父の頭の中にはクリップが四個入っているけど、あんな大きな動脈瘤が破裂しないでくれたのはお母が見ていてくれたから。
私はそう思ってるよ。
くも膜下出血から社会復帰したお父は順調でした。
でも一年後、今度は脳出血。真冬にお風呂場で倒れました。
お父は一人で暮らしていたので、最初は意識があって、私に電話しなきゃ、とそればかり思ってもがいていたそうです。
約二日間、一人で、意識なく裸で震えている所を発見しました。
今でもその光景は忘れられないよ。
この脳出血で体に後遺症が残り障害者になりました。
でも、お父は動かない手足の動きを一生懸命脳に覚えさせて、つらいリハビリを頑張りました。
先生から車椅子生活と言われた時、お父はとても辛くてしばらく立ち直れませんでした。
私はどうやってお父を勇気付けたらよいか、とっても悩みました。
八ヵ月の入院生活、毎日お父の病院に通い、辛いリハビリを見守りました。
頭の血管が切れたので、小学校一年二年の算数の計算が出来なくなったお父を励ましたり、そんなことくらいしか私は出来なかったな。
退院してからもリハビリを頑張ってきました。
東日本大震災で住宅に被害が出て今の家に引越しました。
なんとか落ち着いてきて、一年一年経つうちに出来ることが増えていきました。
今では着替えも完璧に出来るようになったよ。
脳出血で倒れてから四年経ちました。
麻痺は一生残るけど、杖をついて歩けるようになった事、とても感謝しています。
私は、今でもたまに、お父のことなどで壁にぶつかる時が沢山あります。
私の年齢で介護に携わってる人が周りにはいません。
時には辛くて泣いてしまうこともあります。
でもね、お母の仏壇に悩みを聞いてもらってると、
「これでいいんだよ。自分が決めた通りやりなさいね、大丈夫よ」
そう言われた気がします。
お母に背中押してもらえると元気になる。
「さあ、また毎日頑張ろう」と前向きになれるんだよ。
たまにまた私、愚痴を言うかもしれないけど、聞いて下さいね。
お母、本当にお父を助けてくれてありがとうね。
歩くのずいぶん上手くなったんだよ。
六十四歳になる我が家のお父。
本人はもっともっと高い目標を持って、今日も頑張っています。
お母、安心してお父を見ていて下さいね。
「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」より
「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」は、父母、祖父母、先生、友人、近所の人など。“あの人”とかつて一緒にいた時に言えなかったこと、想い出や、“あの人”が亡くなった後に伝えたくなったこと、感謝の気持ちなどを綴ったお手紙です。