お仏壇でデート

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今は亡き父へ

お父ちゃん、お母ちゃんのあげるお経が聞こえますか。

お父ちゃんが亡くなって、もう十七年になります。

お母ちゃんは、なんと八十九歳になりましたよ。

「こんな田舎のだだっ広い古民家に、一人で暮らすなんて寂しすぎる……」

と心配する私たち姉妹に、お母ちゃんは、

「お父ちゃんやご先祖様が守ってくれとってやから」

と、ずっと一人でがんばっていました。

けれど、三年前、足の自由がきかなくなって、ついに妹の家に世話になることになりました。

すると案の定、実家の心配ばかりするので、毎週金曜日を私と妹でお母ちゃんを実家に連れて帰る日にしたのです。

お母ちゃんは、実家に帰ると大喜びで、さっそくお仏壇に向かいます。

もちろん、正座も立っていることもできないので、前に置いた椅子に座ってのお参りになります。

私と妹は、お仏壇の水を替えた後は、住む人がいなくなってしまった家の掃除をします。最初は、玄関にまで張ったクモの巣や、上がりかまちに積もった埃に、悲しい気分に落ち込んだものです。

でも、そんなとき、お仏壇から聞こえてくるお母ちゃんの声に、いつしか心が穏やかになっていくのは、私も妹も同じでした。

「お父ちゃん、ご先祖様、ほったらかしにして、申しわけありません」

というお詫びから始まるお母ちゃんのお経が終わると、子ども、孫、曾孫の名前を全部言い連ねて、その無事と幸せをお願いします。

「こんないっぱい頼まれて、お父ちゃんもご先祖様も大変やな」

私と妹は、庭の草引きをしながら、顔を見合わせてクスクス笑います。なんだか、子どもの頃に戻ったような楽しい気分になってきます。

お経が終わった後もお仏壇の前に座ったままのお母ちゃん。

きっとお父ちゃんと話をしてるんだな、いつの頃かに戻って、二人はデートしているんだな、とそっとしておいてあげます。

お父ちゃんは、今も愛されてますよ。

私たちは、両親が仲良しで、本当に幸せだったな。感謝しています。

だから、一日でも長くこのお仏壇でのデートが続くよう、私たち、サポートしますね。

「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」より

「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」は、父母、祖父母、先生、友人、近所の人など。“あの人”とかつて一緒にいた時に言えなかったこと、想い出や、“あの人”が亡くなった後に伝えたくなったこと、感謝の気持ちなどを綴ったお手紙です。

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