今は亡き友へ
あなたと出会ったのは、異動してきた勤務地でした。
管理職の一人で、部下と友好関係を積極的に図ろうとする、元気な方でした。
何かにつけ、異動したての私に声をかけ、何か困ったことはないか、分からないことはないかと親身になって気遣ってくれました。
朝一番に出勤し、最後に退勤するという勤勉家でもありました。
そんなあなたのある話を聞いたのは、突然体調不良で休まれた折でした。
以前から勤務している同僚から聞いた内容は、耳を疑うものでした。
それは、昨年の検診でがんが見つかったこと、抗がん剤で継続的に治療し、今回の休暇もそのためだということ、本社に管理職を辞するか否かを相談し、体力や気力がもつまで続けてもよいことになったことなどです。
私生活で生死にかかわる最大の健康問題を抱えつつ、部下の我々を気遣っていただいた度量の巨大さに、感服しきりだったことを思い出します。
あなたの直属の上司は、あなたにも我々にも厳しい方でした。突きつけられるノルマは、どのようにすれば達成できるのか見当もつきませんでした。あなたと何度も何度も話し合いを重ね、やっとの思いで達成できたときには、互いの信頼感ははかりしれないものになっていました。
私が異動して、まもなく一年が過ぎようとしていた頃、私に一年間の外部研修の機会が与えられました。スキルアップと見聞を広めたいと考えていた私は、それを受け入れ、あなたと一年後の再会を約束して、勤務地を後にしました。
外部研修期間が半分を過ぎた頃、新聞のお悔やみ欄に見慣れた名を発見してしまいました。まさかこんなことが、と我が目を疑いました。
数日後の通夜に参列しました。
焼香の際、あなたのあのときの声が蘇りました。
外部研修が翌日に控えた夜の送別会の帰り道、あなたと交わした会話です。
「一年、待ってるからな」
「はい」
「これでまたいい仕事ができるな、負けるなよ」
一年が経ち、元の勤務地に戻りました。
同僚から聞いたあなたの最後は、壮絶の一言だったと言います。しかし、最後の最後まで働くことから逃げなかったことは、あなたらしいと思います。
覚悟を持って最後まで諦めない姿勢を忘れず生きていきます。安らかにお眠りください。
「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」より
「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」は、父母、祖父母、先生、友人、近所の人など。“あの人”とかつて一緒にいた時に言えなかったこと、想い出や、“あの人”が亡くなった後に伝えたくなったこと、感謝の気持ちなどを綴ったお手紙です。