今は亡き母へ
お母さん、貴女が手を合わせていた山居神社に、お父さんと行ってきましたよ。
「お母さんがね、偶然見かけた神社でお参りした時、一所懸命手を合わせているから、『なにをお祈りしているの?』と聞くと、『こんな病気になって、お父さんに申し訳ないと思ってお詫びしているの』と言ったんだよ」
とお父さんに話すと、涙を流して喜んでいたよ。
脳内出血で倒れ、認知症が徐々に進んできたお母さんを二十年余り介護したお父さんは、もう九十歳になりました。
神社の回りで草刈りをしていた方に、お母さんのお祈りの話をしたら、偶然にも神社の責任者の方でした。お母さんの話をとても喜んでくれましたよ。
「やっぱりこの神社は凄い」と言いながら鍵を開けて神社の中を見せてくれましたよ。お父さんは勿論お布施をしました。
お母さん、貴女のお父さんは、変わることなく優しくて、四歳の曾孫に「三郎おじいちゃんは花咲か爺さんみたい」と言われました。
ゆっくりゆっくり歩く姿はやっぱりお爺さんかもしれません。
お母さん、あの日、貴女の祈る姿を見たのは、私一人です。そしてその姿は今でも私の宝物です。自分の運命を受け入れて、お父さんに詫びる姿は、可愛い愛しい奥さんのままでした。
お母さん、空からお父さんを見守って下さいね。貴女の大事なお父さんを、私も心から大切にしていきたいと思っています。
「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」より
「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」は、父母、祖父母、先生、友人、近所の人など。“あの人”とかつて一緒にいた時に言えなかったこと、想い出や、“あの人”が亡くなった後に伝えたくなったこと、感謝の気持ちなどを綴ったお手紙です。