今は亡き父へ
彼岸花
「無駄な気は遣うな。子に心配されるほど老いぼれてない」
他県に嫁いだ姉の代わりに跡を継ぐと約束したのに、私まで嫁ぐことになった時、おとうちゃんは言ったね。
せめてリフォーム費用を出すから、老夫婦でも安心して暮らせる家に住んでほしかったのに、「無駄な金は使うな。俺が建てた家だから俺が壊す!」
嫁ぎ先の家を新築する話が出た時「まだ時期じゃない。子供らが大きくなるまで待て」生前から超能力があるような気がしてたけど、原発事故が起きて避難民となった今、ほんと、おとうちゃんの言うことを聞いとけばよかったと反省。
この前、墓参りに行ったら、やっと咲くようになった彼岸花まで除染作業で刈られてた。
でもね、あきらめないよ。また植えるから。何度でも何度でも植えるよ。おとうちゃんのしつこさを受け継いだ私だもの。
「彼岸花の球根は飢饉の時は食糧になる。毒にも薬にもなる人間になれ」って言われて育った私だから。
「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」より
「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」は、父母、祖父母、先生、友人、近所の人など。“あの人”とかつて一緒にいた時に言えなかったこと、想い出や、“あの人”が亡くなった後に伝えたくなったこと、感謝の気持ちなどを綴ったお手紙です。