今は亡き母へ
お母ちゃん、私も五十三歳になりました。
お母ちゃんが亡くなった五十七歳まで、あと四年です。
「温泉へ行きたいなあ」
「孫をつれて動物園とか、遊園地に行きたいなあ」
病院のベッドに横たわりながら、いつもお母ちゃんが言っていた言葉、希望。
「行こうな。はよ元気になって」
そんな日は来ないと知りながら、私は作り笑顔で答えていました。
あの日からずい分遠くへ来てしまいました。
お母ちゃんが見る事のなかった、私の子供達も、それぞれの道を歩き始めています。
去年は初孫が、お母ちゃんにとってはひ孫が誕生しました。
無心に笑う小さな命を抱きしめて、お母ちゃんの無念をかみしめています。
あれもしたかった。これもしたかった。
いろんな思いを胸に、空の上に行ってしまったお母ちゃん。
少々早すぎましたね。
その代わりと言っては何ですが、私がお母ちゃんのやりたかった事を楽しんでいます。
フルタイムで働き、家族に振り回され、時に怒り、時に落ち込み、時に大笑いし。
時間を見つけて日帰り温泉へ出掛け、安くて美味しい物を食べに行っています。
毎日が晴天ではないけれど、私なりに前を向いて歩いています。
いつの日か、お母ちゃんの所へ行った時に「ようがんばったな」とほめて下さい。
まだまだ先の事になりそうですが。先の事にならないと困ります。
目の中に入れても痛くない孫のためにも、私は頑張って生きます。
うっとうしがられても生きます。
だから、待っていて下さい。
そして、見守っていて下さい。
尚、「お母ちゃんのやりたかった事」代行サービスの料金はいりません。
安心して下さい。
「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」より
「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」は、父母、祖父母、先生、友人、近所の人など。“あの人”とかつて一緒にいた時に言えなかったこと、想い出や、“あの人”が亡くなった後に伝えたくなったこと、感謝の気持ちなどを綴ったお手紙です。