三十四回目の結婚記念日に

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今は亡き夫へ

春の雨が静かに降っている。今日は私たちの三十四回目の結婚記念日。あの日は夜来の雨が止んで空は青く晴れ渡り、樹々は柔らかな緑を散りばめるかのように息づいていた。

――どんな時も助け合い慈しみあっていこうと希望に燃えた出立の日だった。

その記念日を私は今年もたったひとりで迎えている。

あなたが逝ってから十七年、こんなに早い別れが来ようとは想像だにしなかった。

そしてあなたがいない日々は陽光がどんなに明るく注いでも私の上にはいつもぶ厚い黒雲が垂れ込めているようで、私はひとり深い悲しみに苛まれ片腕をもがれてしまったようで生きていくことがこの上なく辛かった。

しかし……、歳月は過ぎ、いつの間にか私も六十五歳となり、心にはいつしか穏やかな風が吹き始めている。

凄惨としかいいようがなかったあの事故は生涯私の心から消え去ることはないけれど、私にはまだこうして生きていく時間が与えられている。

私はそのことに感謝し、許される限りあなたの分も生きていこうと思う。

あなたの遺した思い、時々のあなたの言葉、それらは今も私のなかで宝石のように輝いている。

生きていればあなたも七十一歳……。

そろそろお互い、自分たちに残されている時間を意識する年齢になりつつある。

そう思う時、やがて私があなたの元に還った時、また共にさわやかに語りあうためにも、私は私なりの豊かな時間を紡いでいきたいと思う。

今日三月三十日は三十四回目の結婚記念日、ささやかながらあなたの好物のお寿司をとってお供えし、思い出に心からの乾杯の時を持った。――いつまでも一緒だよと。

もし健在であれば、あなたはどんな日々を送っていたであろうか。

時として仲睦まじい年輩の夫婦を見かけると羨ましく思う。

でもあなたはこうして、今も私の傍に居る。

時にはそよ風となって私を外に誘い、時には明るく煌めく星になって危なくないようにと私の足元を照らしている。

生きていって欲しい――そうあなたが言っているような気がする。

これから私は、またあなたと二人分の切符を持って、残された人生の旅に出ようと思う。

あなたに出逢えたことを私の何よりの心の拠り所にして、そして、しあわせだったと心からのありがとうの言葉をあなたに届けるために――。

「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」より

「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」は、父母、祖父母、先生、友人、近所の人など。“あの人”とかつて一緒にいた時に言えなかったこと、想い出や、“あの人”が亡くなった後に伝えたくなったこと、感謝の気持ちなどを綴ったお手紙です。

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