もう少し待ってて

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今は亡き父へ

今年もまた夏が来たよ。

あの年の夏は、短い辛い夏だったね。

十四年が過ぎ、お父さんが大好きだった孫の「ゆき」はもうママになってるんだよ。

四歳と一歳、お父さんが生きてたら、きっと毎日でも会いに行くだろうね。

お母さんは、もう九十歳になりました。

段々と小さくなって、子供のようにわがままを言ったりします。

あの夏、お父さんが癌になって、余命が半年だと言われて、私は仕事を辞めて、放射線治療に毎日お父さんを車に乗せて、通院したね。

五十回、私も皆勤賞だったし、お父さんも頑張ったね。

私は、最後までお父さんに余命を言えなくてごめんね。

でも、きっとわかってたんですよね。

お父さんが痛いとか、不安だとか私達家族には弱音を吐かない人だったから、皆お父さんが死ぬなんて信じないって言ってたけど、私は知ってたよ。

メモに「もう駄目かもしれない」と書いてること。

連絡してほしい人、死後やってもらいたいこと、皆への感謝、すべてあの青いメモ帳に書いていたこと。

だけど、怖くて見てみぬふりしてしまったの。

段々と弱々しくなる身体と、光を失ったような目。

それは、先が長くないことを物語っているようで。

私ね、二年前に癌になって、二回も手術したの。

そのとき、思ったの。何もわかっていなかったなって、お父さんのこと。

癌になると孤独で不安で、誰かに大丈夫だって抱きしめてほしくなるんだなって、自分がなって初めてわかったよ。

ごめんね。

何もわからずに、「頑張って」なんて言って、頑張ってたのにね。

あんなに強いお父さんが、最後には私がいないと眠れなくて、いつも傍にいてほしがったのは、私が十分看病出来たという証なのかな?

お母さんではなく、私が癌になってしまったのは、お父さんは私にまた傍にきてほしいの?

だけど、まだ呼ばないでね。

子供が一人前になるまで、もう少し待ってて。

私の癌が、暴れて苦しくならないように、守っててね。

夏が来ると、あなたと過ごした時間を思い出します。

最後の夏で、あなたを毎日あんなにじっくり感じたことは、あなたの子供に生まれて四十年、初めてでした。

明るいあなたの裏側の顔を、見てしまったことへの後ろめたさ、切なさは、今私が、私の子供に見せてしまっているのかもしれません。

いつか、あなたと会ったとき、癌という辛い病を共有した経験を話したいです。

お父さん、今幸せですか?

どうぞ、幸せでいてください。

さとみ 

「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」より

「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」は、父母、祖父母、先生、友人、近所の人など。“あの人”とかつて一緒にいた時に言えなかったこと、想い出や、“あの人”が亡くなった後に伝えたくなったこと、感謝の気持ちなどを綴ったお手紙です。

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