「こんな骨壺に入りたい!!」
“ガールズブリーフ” “かぶるかみぶくろ” など数々のヒット商品を生み出した布施美佳子さんが、その一途な想いで作った骨壺が今、働く女性が「自分の最期」を託せるモノとして、共感を呼んでいます。
布施さん率いるフューネラルグッズの新ブランド「GRAVE TOKYO」はどこから来てどこに行くのか、お話を伺いました。
目次
故人の人となり、その人のキャラクターとそのご葬儀のミスマッチに違和感を覚えることが多かったんです。
――どうして“骨壺”をつくろうと思ったんですか?
私は今42歳なのですが、同級生や先輩がもう10名以上亡くなっていますし、私よりも若い後輩も亡くなりました。一番初めに友人が亡くなったのは私が21歳の時です。
もちろんお葬式に行くのですが、「若くして亡くなる」ということはイコール「突然の死」になります。ご家族たち送る側にとっても、本人にとってもそうです。
そのような状況でのご葬儀というと、故人の人となり、その人のキャラクターとそのご葬儀のミスマッチが起こる気がするのです。
勝手な理想なのかもしれませんが、故人をよく知る人たちにとっては「彼女だったらこうだったんじゃないかな?」「彼だったらこうなんじゃないかな?」というように、違和感を覚えることが多かったのです。
葬儀に対する満足感がないというか、送る側が納得できないというか。主観ですがご家族にも「これで良かったのかな」という気持ちが残っているように感じます。ご家族も悲しみに押しつぶされそうになりながら、でもこういう表現が正しいのかわかりませんが、急き立てられるように「とりあえずやらなきゃいけない」という感じで終ってしまっている。
友人や知人だけでなく、私自身にもいつ、死が訪れるか分かりません。
じゃあ自分だったらどうするか? といろいろと調べていくうちに、自分も含めこれから亡くなる世代の方たちにとっての供養というのは、散骨して、少しだけ手元に残す手元供養が一番多くなっていくのではないかと思いました。
――スワロフスキーのきらきらした感じもすごくかわいらしいです。
そもそもの発想が「自分が入るものを作らないと死ねない」というところから始まっています。
周りの絵は天国、楽園をイメージしています。楽しみというわけではないですが、自分もこれに入るんだって思いながら作っています。ベースは中国で作っていますが、仕上げは日本で。スワロフスキーの認定工房でスワロフスキーを埋め込んでもらっています。
私の若い後輩にすごい“おじいさんっこ”がいます。彼女のおじいさんが亡くなった時、分骨してもらったそうなのですが「部屋に置ける骨壺が無い」と困っていました。これなら若い女の子が一人暮らしの部屋に置けますし、彼氏や友人にも困惑されないデザインですよね。遺骨にプラスして、腕時計だったり指輪だったり、故人の愛用していたものを入れていただくことも可能です。
ふたの裏側にはマグネットで写真を留められるようになっています。普段は故人の顔が見えるようにふたを開けておいて、お客さんがいらっしゃったらふたを閉じる。
友人宅に伺ったときなど、遺影と、場合によってはお骨がそのままリビングにあったりします。そういうのを見ると、これはふれた方がいいのか? それともそっとしておいた方がいいのか? 困惑してしまうというのがあります。
ご家族にとってみればお客さんが来るからといちいち片づけるのも負担でしょう。かといって故人の遺骨が日常の一部になっているかというとそうでもない。普段は出しておいて場合によっては隠せるというのであれば違和感がないのではないかなと。
男性はそもそも自分が死ぬとは思っていないみたいなんです。死を遠いものだと感じていらっしゃる。
――男性用には何か別の色とか、デザインとかはあるんですか?
不思議なのが、この骨壺をつくっている時、私は「これに入る」って思っていたのですが、気が付いたら夫のことは一切考えていませんでした。
展示会でお客様に「ところで旦那さんはどうするんですか?」と指摘されて、「あっ」って。そういえば全然考えてなかったなって。
娘に残すということは考えていたのですが、夫は……本人に考えてもらうしかないんでしょうかね?
あるお坊さんはこの骨壺をご覧になって「旦那と一緒にお墓に入りたくないという女性がすごく増えている」とおっしゃっていました。「そういう人がこういうのに入りたいのだろうな」とおっしゃっていたのがすごく印象的でした。
この企画をはじめてから2年目、2015年の12月に形になりましたが、いろいろとお話を聞いていくと女性は皆さん「こういうのが欲しかった」っておっしゃってくださいます。でも、男性の方々からは「一切いらない」という反応が返ってくるんです。
これはどういうことかと突き詰めていくと、男性はそもそも自分が死ぬとは思っていないようなんです。死を遠いものだと感じていらっしゃる。
男性と女性とでは死に向かっていく時の意識も違うし、準備というところでも、その考え方は違います。誰かに教えられてそうなるということではなくてもともとそういうものなのでしょうか。
――GRAVE TOKYOには男性のデザイナーも参加されています。
今回デザインしてくれたDRESSCAMPデザイナーの岩谷俊和さんはアパレルブランドのデザイナーとして活躍していますが、彼もお父様を亡くされています。その時にすごく大変だったと。そんな実体験に基づいて今回のデザインを担当してくださっています。
Q-TAさんはもともと、コラージュなどの作品が多くて、作品に比喩とか暗喩を感じさせる作品を作っています。モノトーンの作品も多く、彼のテイストを好きな方も、特に女性ですが、世界中に多くいらっしゃいます。
たくさんいるデザイナーの中からこの企画に賛同してくださる方ということでお2人にお声をかけました。
普通に生活しているとあまりかかわらない世界だと思います。それがどういう反響を得るものかということは作り手にとっても未知数でした。でもデザイナーの皆さんはすごく共感してくださったし、サンプルを作ってお見せした方からも「こういうのが欲しかった」とおっしゃっていただきました。
どれも一個一個が完全手作りです。
こちらは奈良の工場で職人さんがアクリルを磨きだして造っています。香水の瓶みたいな感じですが、俯瞰して見ると人型を模していることがわかると思います。ふたが空いて粉骨したご遺骨を入れていただけます。
これは長崎の波佐見焼(はさみやき)で、その職人さんが一個一個焼いてくださっています。
お骨は袋に入れて骨壺の中に入れていただきます。袋は富士山のふもとに織物屋さんがあって、そこで織ってもらったオリジナルの生地で作っています。
今、非常にたくさんのデザイナーの方から「一緒にやりたい」というお声をいただいています。そういう方々ともご一緒できるように、これから少しずつ、でも着実に成長していけたらなと思います。
手が疲れない、投げ込み式のエンディングノート
――骨壺以外にもいろいろお作りになってますね。
エンディングファイルという投げ込み式のエンディングノートも作っています。
ファイルに袋が20くらいあって、例えば連絡を取ってもらいたい友人とかは年賀状を入れておくとか、アドレス帳を入れておくとか、葬儀の希望は気になる葬儀社のパンフレットなどをそのまま入れておけばいいようなスタイルです。
なるべく早めに準備をして、その後は中身を定期的に交換していきましょうという提案です。
今回、エンディングノートを自分でも書いてみようと思ったんですが、やはり手で書くということになんというか、辛さを感じてしまいまして……。1ページ2ページぐらいで書くことが嫌になっちゃうんです。
文字を書くことに慣れている方ならいいですが、すべてがスマホ、すべてがパソコンという生活を送っている人は文字を書くこと自体が大変です。下手をしたら名前を書いた時点で「もう終わり……」みたいな感じになってしまいます。
そう考えると、やはりファイルにどんどん入れてった方が圧倒的に楽だと思います。
――不祝儀袋もありますね。
岩谷さんがデザインしています。
祝儀袋って今すごく種類が増えていますよね。いろんなキャラクターも選べるようになっています。
伝統やしきたりもあるのですが、その一方で送る人のキャラクターに合わせて選ぶというのが普通になってきていると思うんです。実際にアニメキャラクターの祝儀袋などもとても人気があります。
ところが、それがお葬式になるとコンビニで買っちゃうというのは何か違う気がするんです。儀式としては結婚式と同じくらい大切なはずです。そんな想いで作ってもらいました。
将来の夢はキャラクターの骨壺を創ることです。
――今後の展望としてはどのようにお考えですか?
私の目標は、エンディングにも選択肢がたくさんある世の中にしたいということです。
葬儀はネガティブ。だから表に出せない。だから直前にならないと誰も考えない……。というのではなくて、もう少し普通に選べるようになるといいなというのがあります。
具体的に私が今一番やりたいことは、キャラクターの骨壺を創ることです。
キャラクターの世界ではまだお葬式はNGです。でもキャラクターが好きな方はどんどん増えていますし、キャラクターウェディングを望まれる方がいらっしゃるのですから、この先、キャラクターエンディングもきっと生まれてくると思います。
ただ、まだまだそこに行くには時間がかかるのでデザイナーさんたちと一緒にやらせていただきながら、GRAVE TOKYOのブランドを確立した上で、次の段階でキャラクターを目指したいと思っています。
私は6年前に出産しました。
高齢出産で切迫流産の恐れがあるということで入院していました。
その時、亡くなるのは老衰だけじゃなくて、事故だけじゃなくて、生まれてこない小さい子もたくさんいるし、生まれてきても突然死をしてしまう小さな子どももいると、頭では知っているつもりでしたが、体感をもって知ることができました。
私の娘も生まれてすぐに大きな病気をし、あの時は本当に命と死は隣り合わせにあるんだと強く実感しました。
小さなお子さんを亡くしたお母さんは、お子さんに自分のそばにいて欲しいと願うと思います。お墓にはやはりなかなか入れたくない。子どもが大好きだったキャラクターの骨壺があれば、きっと入れてあげたいって思うでしょう。
送る側が「ちゃんと送ってあげられた」って思えること。それはもしかしたら自己満足なのかもしれませんが、そう思えた方が、そこから先の人生につながりやすいと思います。そういう満足を、「あの子のためにこれだけのことをやってあげることができた」と思える選択肢を、増やしたいですね。