「帝釈天で産湯を使い……」
映画『男はつらいよ』で寅さんの挨拶にもある「産湯」。生まれたての赤ちゃんが初めてつかるお湯です。
では反対に、亡くなった人が入る最後のお風呂は何というのでしょう?
ということで、今回は、人生最後のお風呂、「湯灌(ゆかん)」についてご説明します。
湯灌って何?
ゆ‐かん〔‐クワン〕【湯×灌】
[名](スル)仏葬で、死体を棺に納める前に湯水でぬぐい清めること。湯洗い。
[補説]使用する湯は逆さ水(水に熱湯を注いで適温にしたもの)を用いる。現在ではアルコールでふき清めたり、洗髪や顔周辺を洗うことで湯灌の代わりとすることもある。
コトバンク より
湯灌というのは、納棺の前に故人をお風呂に入れてきれいにしてあげることです。
病院で人が亡くなると、看護師さんが「清拭(せいしき)」と言って、故人の体をアルコールなどで拭いてきれいにしてくれます。これには、衛生的な側面からの遺体の処置という意味合いがあります。
一方、湯灌は故人の生前の苦しみやけがれを洗い清めるとともに、故人にゆかりの深い人たちが故人の来世を願う大切な儀式です。
最近では、「入院が長かったから、最後に大好きだったお風呂にゆっくり入れてあげたい」というように、形式ばった儀式というだけでなく、家族の温かい想いの現れとして湯灌を行うケースもあるようです。
また、納棺の際に、故人の身体を拭き清めたり、死化粧をしたり、着替えをすることを「古式湯灌」ということもあります。
湯灌の流れ
湯灌にはさまざまなスタイルがありますが、最近では湯灌のプロが、専用の浴槽を使って入浴させてくれるサービスがあります。
ではここで、簡単に湯灌の流れを見てみましょう。
1.葬儀社に湯灌を依頼する
葬儀社に湯灌を依頼すると、その葬儀社のスタッフが行うか、もしくは提携している湯灌専門の会社から専門のスタッフを呼んで、湯灌を行ってくれます。
葬儀プランの中に湯灌サービスが入っていない場合でも、通常、オプションで利用することは可能です。葬儀社の担当者に相談してみましょう。
2.湯灌を行う場所
湯灌は基本的には故人を安置している場所で行います。
葬儀会館に専用の設備が整っている場合もありますし、そうでない場合でも移動式の浴槽など専用の機材があるので問題はありません。
自宅でも安置施設でも、湯灌をすることはできます。
2畳から3畳ほどのスペースがあれば、防水シートを敷いて、畳の上でも絨毯の上でも湯灌を行うことはできます。
ただし、それぞれの設備なども関係もありますので、詳細は葬儀を施行する葬儀社に確認しましょう。
3.湯灌
浴槽にお湯を用意します。
この時、お湯に水を足すのではなく、水にお湯を足しながら湯加減を調整します。これを「逆さ水」といいます。
故人を浴槽へ入れて、シャンプーをし、きれいに体を洗っていきます。
遺族も一緒に立ち会って、頭を洗ってあげたり、お湯を流してあげたりする場合もありますが、故人の体には大きめのタオルをかけたり、ほかの人に見えないよう配慮がなされていますので安心です。
爪を切って、ひげをそり、髪を乾かして、着替えをして終了です。
最後に髪を整えて、メイクを施します。
湯灌はしないといけないもの?
病院の清拭でもきれいになりますし、葬儀の担当者が故人に化粧を施してくれたりもしますので、湯灌を行わなくても故人をきれいな姿にしてあげることはできます。
ただ、故人とゆっくりと最後の時間を過ごしたいという場合、湯灌を希望する方は多いようです。
実際に湯灌を行われた遺族は、「すごく丁寧に送ってもらった感じがします」と喜ぶ方が多いです。
皆で送ってあげることができたという満足感だけでなく、湯灌という仕事に真摯に取り組んでいるスタッフの姿に感動するということもあるようです。
誰かに話したくなる、湯灌の豆知識
湯灌は、古くは、近親者が縄帯縄たすきをかけて行っていたもので、さまざまなしきたりがありました。
例えば、先ほどもちょこっと説明した、「逆さ水」。
通常、温かいお湯を用意する際には、熱湯に冷たい水を入れて温度を調節します。ところが湯灌の場合は、たらいに水をはって、そこに沸かしたお湯を入れてちょうどいい湯加減にします。
また、逆さ水を故人にかけるときも、柄杓(ひしゃく)も、左手で柄杓の根元を持つ、「逆さ手」で持ちます。そして体の上の方からではなく、足元からお湯をかけていきます。
そして、湯灌を終えた後のお湯は、日に当てないように床下に流すといった風習もありました。
こうした風習は地域やまた宗旨宗派によっても変わってきます。
山形県の最上地方には、男性が中心となってふんどしスタイルに縄たすきして納棺をするという風習があったそうです。
湯灌のしきたりとちょっと似ていると思いませんか?
「いい葬儀」では、全国の都道府県ごとに、お葬式の平均費用や、お葬式をする、またはお葬式に参列する際の注意点、そしてしきたりなども紹介しています。
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