湯灌とは、ご遺体を入浴させて洗い清めることをいい、故人が無事に成仏し来世に導かれるよう、現世の汚れや悩みなどを洗い流す儀式として古くから行われてきました。
単なるしきたりというだけでなく、闘病生活でお風呂に入れなかった方や、お風呂が好きだった方を入浴させてきれいにしたいという、ご遺族の気持ちをかなえるものでもあります。
目次
湯灌(湯かん)の意味とは
湯灌は納棺の前に、ぬるま湯で故人を拭き清めることをいいます。故人のこの世での穢れなどを洗い流すというほか、霊魂を復活させるという呪術的な意味もあったようです。川の水で遺体を清めたともいわれています。
また、お湯で遺体を温めることで死後硬直をとり、遺体を棺に納めやすくするために行われたという説もあります。
故人のために最後にしてあげられることとして肉親が行う、また地方によっては隣組など地域の人たちで行う習わしがあることもありましたが、近年では葬儀社、または専門業者のスタッフが行うケースがほとんどです。遺族は立ち合いというかたちで参加します。
また、神道の葬儀、神葬祭では遺体を清めることを沐浴といいます。
湯灌(湯かん)の方法
- 湯灌の儀にかかる時間の目安は、1時間~1時間半ほどです。
- 湯灌は葬祭会館のほか、自宅で行うことも可能です。
- 湯灌の儀には遺族が立ち会うことも可能です。
湯灌は誰が、いつ行うか
湯灌は、葬儀社や湯灌師によって行われます。いつ行うかについて決まりはなく、ご遺体の状況などによっても異なりますが、一般的には納棺前に行われます。湯灌によって体を清め、身なりを整えて納棺するという流れです。
湯灌にはどれくらいの時間がかかるか
儀式にかかる時間の目安は1時間~1時間半程度ですが、ただ入浴させて終わりというものではなく、お湯の準備や入浴後の着付けがあり、さらには納棺までが一連の流れに含まれている場合があります。
湯灌を行う場所
湯灌を行う場所については、葬祭会館など湯灌の設備が用意されていることもありますが、専用の設備がない場合も移動式の湯舟などを用いて行うことができます。一定のスペースがあれば、自宅で湯灌を行うことも可能です。
かつて、湯灌のお湯は、日に当てないように床下に流すといった風習もありました。現在は湯灌を行う事業者にもよりますが、自宅で湯灌を行った場合など、使用したお湯はそのまま家庭で排水するのではなく、事業者が一旦持ち帰って処分するというケースも多いようです。
ご遺族の立ち合い
湯灌は元来、故人のご遺族によって行われてきたものであり、葬儀社や湯灌師によって行われている現在でも、ご遺族が故人をゆっくりと偲ぶ時間としてとらえられています。準備や段取りは専門業者が行うものの、儀式にはご遺族が立ち合い、参加することが可能です。
ただし、あくまで可能というだけで必須というわけではなく、立ち合いなしで湯灌が進められる場合もあります。
湯灌(湯かん)にかかる料金はいくら?
湯灌を葬儀社に依頼する場合は、葬儀のオプションとして追加料金がかかる場合が多く、相場としてはおよそ5万円~10万円です。金額は業者や内容によって異なり、バスタブ利用の有無で金額が変動することもあります。
湯灌(湯かん)の流れ
湯灌の儀式は準備から終了まで、順序立てて進められます。詳細は湯灌を行う葬儀社やご遺族の希望などによって異なる場合がありますが、以下に一例をご紹介します。
槽の準備
葬儀式場で行う場合は式場内の湯灌の設備がある部屋、また自宅などで行う場合には湯灌に使用する専用の槽と共に専門のスタッフがご自宅へ訪問し、準備を行います。
ご遺体のマッサージ
硬直をほぐすよう、全身にマッサージが行われます。
ご遺体の移動
儀式前に槽までご遺体の移動が行われます。移動の際は、肌を見せないようタオルがかけられます。
口上
湯灌師によって、湯灌の儀式についての説明が行われます。
お清め
お湯でご遺体のお清めを行います。ご遺族が参加する場合は交替で、足元から胸元へお湯をかけていきます。この時、お湯の温度は湯灌を行う事業者などによっても異なりますが、およそ36度~40度前後と、通常のお風呂の温度よりやや低めの温度を設定しています。
顔と髪のお手入れ
洗髪・洗顔・顔剃りといった手入れがなされ、完了後は顔拭きやドライヤーも行われます。
全身のお清め
シャワーで全身が洗い清められます。
アロマ
業者によっては、アロマで香り付けがされる場合もあります。
着付けと化粧
清めが終わった後は着付けが行われ、化粧が施されます。衣装は、白装束のような決められたものが着付けされる場合もありますが、故人愛用の衣類が着付けされる場合もあります。髪のセットもこのタイミングで行われます。
ここまでが、納棺前に行う湯灌の儀式の一例です。
湯灌(湯かん)の逆さ水とは
普段はお湯を適温にする際、熱湯に水を足して調整しますが、湯灌ではそれとは逆に、水に熱湯を足して調整する「逆さ水」いう方法をとります。このように物事を普段と逆に行うことは、「死」を日常と区別する考えに由来します。
同様に、かつては故人にお湯をかける際、「逆さ手」といって柄杓(ひしゃく)の根元を左手で持ったといわれています。このほか、男性は衣服を脱いで行うなど湯灌にはそれぞれの地域によって、さまざまな慣習、習わしがありました。
江戸時代の湯灌
湯灌の風習に関連して、江戸時代には、自分の家があるか?借家住まいか?によって湯灌を行う場所は異なっていました。
ある程度裕福で自分の広い家屋敷、土地がある場合は、自宅での湯灌が許されましたが、借家住まいの庶民や貧しい人たちは寺院の敷地内に建てた湯灌場へ故人を運び、湯灌を行ったそうです。
湯灌(湯かん)後に行う納棺の儀式
納棺の儀式は、遺族にとっては棺に納める前、故人の間近で過ごせる大切な時間です。
湯灌が終わった後は、納棺を行います。業者によっては湯灌の儀式に含めている場合もありますが、納棺も「納棺の儀式」と呼ばれる大切なしきたりです。
納棺を文字通り読めばご遺体を棺に納めることですが、儀式としてはそれだけではありません。
例えば、「末期(まつご)の水」と呼ばれる、故人の口元に水を含ませる特別な慣習があります。これはお釈迦様が亡くなる前に水を飲んだことに由来するといわれていますが、旅立ちの後に喉が渇かないようにという気持ちから生まれたともいわれています。
このほか体を清めた故人の着替えをしたり、化粧を施したり、身だしなみを整えて最後のお別れの準備をします。この一連の流れを納棺の儀といいます。
遺族にとっては棺に納める前、故人の間近で過ごせる大切な時です。地域の習わしなどのほか、それぞれの葬儀社によっても独特の儀式を用意していることもあります。
末期の水の後、ご遺族全員の手でご遺体を棺に納めます。棺にはご遺体と一緒に「副葬品」と呼ばれる故人愛用の品を入れる慣習がありますが、火葬に影響が出るなどの理由から、入れるものが制限される場合があるので、ご遺族の方は依頼する業者の方などとご相談されるのがよいでしょう。
湯灌(湯かん)と死化粧、エンバーミングの違い
湯灌と同様、納棺前に行う処置に死化粧とエンバーミングがあります。混同しないよう、これらと湯灌との違いについてみてみましょう。
死化粧
死化粧とは、ご遺体を清め、身なりを整えたり化粧を施したりすることで、故人をきれいな状態で送り出すために行われます。この点のみでいえば湯灌の儀式と似ていますが、違うのは死化粧に入浴は必須でないという点で、病院で死化粧を行う場合のお清めは通常、体を拭く「清拭」という方法で行われます。
エンバーミング
エンバーミングとは、ご遺体を衛生的に長期間保存する技法で、腐敗防止処置や殺菌消毒などを施します。湯灌の主な目的が現世の汚れや悩みを洗い流すといういわば精神的なものであるのに対し、エンバーミングの主な目的は衛生的に長期間保存するという物質的なものである点で、これら2つは異なります。
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湯灌(湯かん)は遺族の意向にあわせて行う儀式
旅立ちの前に故人を入浴させてあげたいという思いを持つご遺族もいれば、「お清めは病院で行われる清拭で十分」というご遺族もいらっしゃるでしょう。
業者によっては湯灌を行うように勧めてくる場合もありますが、重要なのはご遺族の意向なので、無理をして行うことはありません。ご遺族自身が納得して故人を送り出すため、湯灌の必要性について検討してから行うかどうかを決めるとよいでしょう。
湯灌を含め、葬儀に関わることは分かりにくい部分が多いものです。まずは相談したいという方や見積りが欲しいという方、また葬儀社をどこにするかお悩みの方は、お気軽にご連絡ください。