ライフエンディング業界のトップインタビュー 「葬儀のかたちではなく本質を残す」創業200年、老舗企業の挑戦

株式会社ごんきや
代表取締役社長 佐藤知樹(八代目)

株式会社ごんきやの設立は1815年(文化12年)、江戸時代に遡る。当時33歳の初代・佐藤権吉が塩釜に開いた荒物と装具雑貨の店を二代目、三代目が引き継ぎ、四代目が家業を継承した明治32年に葬祭業を本業とした。長い歴史を持つ葬儀会社は少なくないが、いずれも葬儀とはまったく違う業態からのスタートであり、200年の長きにわたって葬儀に関わり続けてきた同社は稀有な存在だ。 供養業界は、長い歴史を誇る同社をして「過去に例を見ない」と言わしめる変化の中にいる。老舗企業、株式会社ごんきや・佐藤知樹代表取締役社長に、激動の時代のなかで「葬儀の本質」を残すためのさまざまな取り組みを聞いた。

2019年4月9日

インタビュー/小林憲行 文/藤巻史

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家族葬にこそお葬式の本質があるのかもしれない、と思うこともあります

創業200年、江戸時代から続く老舗企業として、葬儀業界の「いま」をどうとらえていますか?

いま、私たちの業界は、当社の長い歴史のなかでも経験したことのない変化のなかにあります。

第一に、葬儀の形態が変わりました。私が幼いころ、葬儀といえば自宅葬や寺院葬がメインでしたが、今では会館葬が全体の9割を占めています。

第二に、火葬式や家族葬といったより小規模なお葬式の登場によって、葬儀社にとっての収益構造が大きく変わりました。昔のように「普通にお葬式を提供していれば利益が出る」という状況ではありません。葬儀社がこれからも葬儀社で在り続けるためには、何をもってお客様からお金をいただくのかというキャッシュポイントを明確にして、葬儀以外の収益に頼らずに企業を運営していく体制を作り上げていく必要があると思います。

例えば、祭壇の費用として請求する数字に人件費を含めるというような、業界がこれまで慣例として続けてきたやり方も見直す必要があるでしょう。葬儀というものの性質上、どうしても「サービスの対価としてお金をいただく」という部分を濁す傾向にありますが、対価をいただかなければ会社は成り立ちません。お客様のために、できることはしてさしあげたいというホスピタリティと、きちんと対価をいただくサービス。これらをきちんと分けて、バランスをとりながら、時代のニーズ、お客様のニーズにあわせて経営することを意識しています。

火葬式、家族葬の台頭についてお考えをお聞かせください

私は火葬式も家族葬も、当人や遺族が望むならそれでよいと思います。家族葬なんてだめだと批判したり、昔ながらのやり方を押し付けたりするだけでは、葬儀から離れていく人を増やすだけではないでしょうか。

「家族葬の定義はない」と仰る方をよく見掛けますが、重要なことは定義ではありません。お客様が「家族葬」といえば、皆にお知らせをしても、参列者が200人集まろうとも、それは家族葬です。また、火葬式はお葬式ではないという方もいらっしゃいますが、私は火葬式も立派なお葬式のひとつだと思っています。

大切なのは、「故人を思い、感謝して、十分悲しむことができる」葬儀の本質を残すことです。そのためには、むしろ積極的にかたちを変えていくことも必要でしょう。

社員には、葬儀を取り巻く環境がどれだけ変わったとしても、「お葬式の本質」だけは忘れずに、本質を変えないための変化をしていくようにと伝えています。

ご遺族や参列者が故人に感謝の気持ちを伝えるという葬儀の本質さえそこにあれば、かたちは変わっても根本は同じであるということですね

当社が30年以上前から販売に力を入れている、八木研さんの現代仏壇を例にとって考えてみましょう。当社が現代仏壇の取り扱いを始めたばかりのころは、宗教者から「これは仏壇ではない」と批判されたこともあったそうです。

しかし、現代の住宅事情を考えてみてください。昔ながらの仏壇を購入しても、置くところがありません。どこかに無理やりスペースを作ってなんとか置いたとして、そこにわざわざ手をあわせにいく家族は限られてしまいます。特に子どもは、仏壇のある暗い部屋を避けるかもしれません。それなら、現代仏壇をリビングの一角においたほうが、生活のなかに仏壇があり、皆が手を合わせるという理想の環境を保てるのではないでしょうか。仏壇の本質は手を合わせて故人とつながることにあるわけですから、それを守るためにかたちを変えていくのは自然なことです。

家族葬専用の式場も造られています

いわゆる家族葬ブームのようなものがこの地域でも数年前から始まって、安価なプランが次々に登場しました。その結果、家族葬とは簡素なもの、少人数で安く済むものというイメージが広く浸透しつつあります。

しかし、家族葬を望む人のすべてが「簡素で安価である」という点に魅力を感じているわけではありません。「身近な人だけで心を込めて送りたいから家族葬にしたい」という人も少なくないのです。そこで、2017年に家族葬邸宅「du:e®(デュエ)仙台荒井」をオープンし、現在3館まで増やしています。邸宅という名の通り、ちょっぴり贅沢な雰囲気と、自宅のようなアットホームさを兼ね備えた一軒家のようなつくりの式場です。亡くなった方のことを本当に思って、誰に気兼ねすることなくお別れができるような。やはりお葬式というのはそこが本質だと思うんです。

お葬式をしたくない理由として、よく「見ず知らずのいろいろな方々に挨拶をするのは煩わしい」ということが言われます。

私はその点は若干、的を射ていると思うのです。お葬式をすることで十分なお別れができないということ。ある意味、これまで葬儀の業界が行ってきたことを否定してしまうかも知れませんが、ポイントとしては間違ってはいないのかもしれません。家族葬であれば、その問題は解決できます。

遺族と参列者が気兼ねなく故人との思い出を語り合い、想いをわかちあう様子を見ていると、実は家族葬にこそお葬式の本質があるのかもしれないとすら思いますね。

他社との「差別化」から一歩抜け出して、当社ならではの強みを生かす「独自化」を進めています

互助会とも提携をされていますね。業界としては珍しいのではないでしょうか?

確かに珍しいかもしれません。会館単体を他社と貸し借りするということはあるのかもしれませんが、それも専門葬儀社さん同士というケースが多いのでしょうね。

仙台市の(株)あいあーる(平安祭典)さんとは、以前から提携しています。先方が世代交代をされ、若い方が代表になられたこともあって。もともと霊柩関係ではつながりもあったので、一緒にやりましょうということになりました。互助会さんといっても地元で長くやっていらっしゃる企業ですし、互いに心から信頼し合っています。提携の際には「どっちがどっちの資本を入れたの?」と聞かれることもありましたが、そういうことではないですね。

会館の位置を見ていただければわかると思いますが、エリアが重複している会館は1ヵ所しかありません。それ以外はエリアがわかれています。そのため、お互いに提携にはメリットしかないのです。平安祭典さんの会員さんが当社の会館でもお葬式はできますし、当社の会員さんも平安祭典さんの会館で葬儀を行ってもきちんと割引等受けられるよう、お互いに施行のマニュアルも整えています。現在、仙台圏に合わせて23会館、非常に強力なネットワークがあるのです。

今後、共同で会館を造るというのも効率的かもしれません。同じ地域に葬儀会館を造り合うということほど、無駄なことはないと思っています。

数々の取り組みには、他社との差別化という意味もあるのでしょうか

他社との差別化競争には終わりがありません。他社にないサービスをやっとのことで打ち出しても、すぐにそれ以上のものが出てくるという、短いサイクルのいたちごっこです。正直なところ、その繰り返しには疲れてしまって(笑)。

いま、当社では「差別化」ではなく「独自化」をめざそうということで、「独自化プロジェクト」を実行しています。200年の歴史を持つ葬儀社にしかできないことをやろうということですね。最初は自社内の宝探しをするところから始め、出た意見は絶対に否定しないという前提でプロジェクトメンバーに自由に議論してもらいました。

ここから派生したのが「未来のお葬式を考える会」であり、そこから「二度目のお葬式を開発」という発想が生まれました。火葬式や家族葬を終えた後、「友人や知人に参列してもらうべきだったのではないか」「亡くなったことを知らせないままでよかったのか」と悔やむご遺族は少なくありません。こうした方々の後悔を払しょくする場として、私たちが提供する招宴の場「感謝のつどい」を使っていただこうというアイデアです。貸会議室運営・管理の国内最大手であるTKPさんと提携し、会の実現をプランニングからサポートしていきます。

当社にとってベテランは宝。できるだけ長く働いてほしいと思っています

社内改革などはどのようにされているのでしょうか?

一つひとつのサービスをフルオーダーメイドで提供できるよう、無駄を省き、全体がスムーズに連動する仕組みづくりをしています。かかってきた電話番号をもとに顧客情報を表示するCTIを導入したことで、やりとりも短縮され、求められるサービスをスピーディに提供できるようになりました。

また、一般的に葬儀社で営業というとお葬式を担当する人を指しますが、当社では渉外営業部という部署を立ち上げ、対外交渉から社内の仕組みづくり、営業の新しいツールを作るなど、マルチな窓口として活躍してもらっています。通常、葬儀社は営業とお葬式の担当者が同じというところが多いと思いますが、当社ではそこを分けています。私は出歩いていることも多いのですが、連絡を密に取り合うことで、私が社員に伝えたいことも、社員が私に伝えたいことも、この部署がとりまとめてくれています。

また、彼らは現場には出ませんので、友引や繁忙期といったことも影響はありません。葬儀の担当者が忙しいという時でも、イベントをはじめ、思い切ったことをどんどん行っています。最近は中学校で終活の講演なども行っています。若いうちから、自分の人生を前向きに考えていくという活動です。

担当者一人ひとりに裁量権を持たせているとも伺いました

かつてお葬式の料金は不明瞭だといわれるようになったころから、「このお葬式はいくら」といったメニューを葬儀社各社がつくるようになりました。当社にもありますが、これをやってしまったせいで、実は葬儀が形骸化してしまったのです。例えば100万円のお葬式は、どこでやっても100万円のお葬式なんです。では故人の個性はどこにいってしまうのだろう?と。そこで、担当者に予算を与えて権限を持たせ、故人の好きだったお花や色、趣味など、生き様そのものを葬儀に取り入れるようにしました。当初はサービスの幅を広げようということで始めたのですが、「こだわりのお葬式」を実現したいという思いで仕事にあたるスタッフが増え、より真摯にお客様とコミュニケーションを取るようになりましたね。おかげで葬儀の質も飛躍的に上がっています。

お客様からも、「控室に戻ったら思いがけない気遣いがあってとてもうれしかった」「担当の方に話した故人との思い出が葬儀に反映されていて感動した」といったお手紙を毎日のようにいただくんですよ。

お手紙はすべて私自身が目を通して、お客様の評価が高い人を「ありがとうアワード」として選出し、年に2度表彰しています。前回は初めて葬儀の担当者ではなく会館の館長が選ばれ、葬儀を直接担当しないスタッフにも「こだわりのお葬式」をかなえたいという思いが浸透し始めているのを実感しました。

評価されることによって、さらに意欲が増すという効果もありそうですね

そうですね。ありがたいことに、社員の定着率も高いほうです。
定年後も嘱託で残って何度も更新してくれている30年選手、40年選手もたくさんいるんです。持っている知識も、お客様との接し方も素晴らしいので、ベテランは宝だといつも感じています。「そろそろ自分の時代も終わりだから、辞めようかな」と言う人には、「最後まで面倒見るから、辞めどきは私に決めさせてくれ」と言っているほどです(笑)。

一方で、将来を見据えて若い人の採用にも力を入れています。国内の高校や大学とのつながりを深めて採用につなげています。「ごんきやが新卒を募集しているみたいよ」と親御さんに勧められたといって応募してくる方もいて、ありがたいですね。

また、海外の大学と提携してインターンシップの受け入れも行ってきました。とても優秀な方たちで、社員たちもとてもいい関係を築けていました。今はインターンの期間が終了し帰国していますが、卒業したらぜひごんきやに戻ってきてほしいと思っています。こうしたアプローチは今後も続けていく予定です。

地域貢献も積極的になさっていらっしゃいます

どの会社も地域貢献活動はしていると思いますが、その多くは社長が中心です。
当社の場合、会社がバックアップして、社員一人ひとりが積極的に地域と関わることを推進してきました。みんな社長名代のつもりで活躍してくれているので、「何かあったらごんきやさんに頼もう」という信頼関係が地域のあちこちに出来上がってきています。この知名度と信頼度を生かして、今後は医療の分野にも踏み込み、訪問看護ステーションを立ち上げて医療、介護、葬儀の連携を進めていく予定です。「見守り」「看取り」「見送り」をキーワードに、高齢化が進む地域にさらに貢献していきたいですね。

今後の展開がとても楽しみです。最後に、社長が描く業界と葬儀の10年後についてお聞かせください

一般の方々が葬儀に対して感じる価値は、今より下がっていると思います。いろんな情報が得られるようになれば、葬儀を葬儀社に頼むということにも、葬儀そのものにも疑問を感じる人が増えていくでしょう。当社としては、「感謝のつどい」に代表される従来の形にとらわれないお別れのかたちを提案し続けることによって、ニーズの変化にしっかり絡んでいきたいと思っています。

ありがとうございました

佐藤知樹

株式会社ごんきや 代表取締役社長(八代目)
昭和50年4月29日生まれ
東海大学文学部日本文学科卒業。
創業200年を迎えた平成27年、株式会社ごんきやを継承し八代目に就任。
日本JC常任理事・顧問・監事などを歴任。現在は公益財団法人全国法人会総連合 青年部会連絡協議会 副会長等を務める。

「ライフエンディング業界のトップインタビュー」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている企業のリーダーにインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができないライフエンディングの最先端の場で、どのような取り組みが行われているのか?余すこと無くお届けします。

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