ライフエンディング業界のトップインタビュー 今からは毎年が勝負時!変化に備えた組織づくり・システムづくりが鍵

株式会社メモリアホールディングス
代表取締役会長兼社長 松岡正泰

「感謝でおくるお葬式」をテーマに、数多くの葬儀を手掛ける岐阜県の「メモリアホールディングス」。葬儀後に回収するお客様からのアンケートには、「感動した」「他の人にも勧めたい」といった感想のほか、手書きでびっしりとメッセージが綴られていることも少なくないという。 安価な葬儀の台頭で疲弊する業界で生き残るには、価格以外の付加価値で選ばれる存在になり、選ばれた以上は心をつかんで離さない工夫が重要だ。淘汰されることなく成長し続けるために、これから葬儀社は何に取り組み、何を追求していくべきなのだろうか。 業界唯一の経営学院であるフューネラル・ビジネス・アカデミーを開校しながら、経営に悩む葬儀社のコンサルティング経験も豊富な株式会社メモリアホールディングス代表取締役会長兼社長・松岡 正泰氏に、業界の現状と今後についてお話を伺った。

2019年10月28日

インタビュー/小林憲行 文/藤巻史 撮影/小塚さゆり

Adsense(SYASOH_PJ-195)

「価格破壊の時代」が当たり前となり、事業継続を迷う企業が増えている

現在の業界の状況について、率直なご意見をお聞かせください。淘汰は始まりつつあるとお考えですか。

私は、以前から2019年が大きな転換期だとお伝えしてきました。実際、令和に元号が変わって以降、さまざまな動きがあります。まず、専業・兼業を問わず、「事業を手放そうと思っている」という相談が明らかに増えています。

葬儀の顧客単価が大幅に下落して利益性が悪化しており、さらには人口減少問題なども相まって先が見えないことが最大の原因でしょう。後継者がいない、または後継者はいても継承させて良いものかどうか迷っている、という声も聞くようになりました。とはいえ、こうした傾向になることは予期していたことですし、葬儀業界に限ったことでもないと思っています。

他の業界でも同じことが起きている?

今は葬儀業界に特化していますが、若いころはさまざまな業界のコンサルティングをしていました。どの業界でも、今の葬儀業界と同じような歴史が繰り返されるのを見てきたんです。

住宅産業を例に挙げてみましょう。私がコンサルティングをしていたのはちょうどバブルが弾けて公共事業が減り、地方の工務店が疲弊していったころでした。戦前生まれの人たちが主な顧客層だった時代には、「家を建てるなら知り合いの大工さん」「車を買うなら地域の中古車店」というように、地元で頑張っている専門職に依頼するのが当たり前で、どのお店も地元で人脈があればやっていけていました。戦争を乗り越えてきた世代は、地域が一丸となって生き延びるという意識が強かったということもあるのでしょう。

ところが戦後生まれの世代は商品を広告宣伝で知り、機能や価格で比較検討して選ぶようになりました。これによって到来したのが、他の店より値段を下げることで優位に立とうとする「安売りの時代」です。機能の差を説明できず競争の優位性が他に無いためできる限り安く売る。「安さが正義である」という時代です。これが続くと、いずれその業種は疲弊し廃業者に溢れます。実際、「地元の大工さん」という存在は残念ながらほとんど消滅しました。

葬儀業界も、同じ道のりをたどっているということですね。

その通りです。もともと、地域の業者を大切にする客層がいて、その上で地元の葬儀社という存在が成り立ってきました。しかし、時代が変わって、お客様は広告で知った商品しか信じられず、他社との違いは広告のみで知りますから、それが同じに思えれば価格のみで選択するようになるのです。そこから葬儀社間の価格競争が始まり、安価な葬儀パックが次々と打ち出された結果、次第に業界全体が活力を失いつつあるというのが現状です。

「価格の比較に」の後には「価値の比較」を求める世代が来る

時代の変化に、葬儀業界はどう対応していけば良いのでしょうか。

業界にとって時代が変わるというのは、実は客層の変化でなのです。「知り合いから買う」から「価格の比較」に移り、その後には「価値の比較」をする客層が増えてきます。まだそれは数年後なのですが、その時代に巡ってきたターゲットに対して、的確な働きかけをしていくことが重要です。私自身は、不安定な「価格の比較時代」を乗り越えて、「価値を求める時代」が到来するまでに、しばらくはあえて投資をせず静観していました。

当社で運営している葬儀社限定の経営学院フューネラル・ビジネス・アカデミーでも、この5年間は事業の拡大よりも価値の向上に目を向けて、既存顧客に葬儀の価値を認識していただくノウハウを提供し、価値を求める客層に変化したときに対応できる体制を作っておくよう指導してきました。

具体的に、どのような体制を構築しておくべきなのでしょう。

私は、20代の頃から生き残る企業と淘汰される企業について業界を超えて研究してきました。その結果、生き残る企業には共通の組織体制や組織文化があることに気づき、それらを葬儀業界に特化してシステム化してきました。数年前からそれらを複数の葬儀社さんに提供し、幸いなことに導入した葬儀社さんは、どこも「選ばれる葬儀社」として成長を続けています。この数年で顧客単価が下がった企業は無く、逆に顧客単価を上げながら満足度も向上させ顧客数を増加させています。価格以外で他社との優位に立てる強みを作ること。「選択基準がないから、やっぱり価格で選ぼうかな」と考えているお客様に、「他社より高くてもここにお願いしたい」と思われる付加価値を示せるようにすることです。言うのは簡単ですが、これを実現する道は簡単ではありません。

業界全体で、「やっぱり葬儀をして良かった」と言ってもらえる努力をする

淘汰されない企業になるためには、これから何をすべきだとお考えですか。

これから数年は、顧客ニーズはさらに激しく変化します。今は安ければとりあえずお客さまに選ばれます。しかし、来年はどうなるか分かりませんし、再来年はもっと分かりません。時代背景は明治維新の前夜といった感じです。今までの時代が終わり、次に何かが始まりそうですが誰もそれを知らないのです。このような時代では、売上を伸ばすことよりも、社内の組織とシステムをしっかり作り込むことが最優先です。

日本中の商店街が消え去りましたが、商店街が消えたのではなく、そこでお店を営む経営者が商店レベルの組織しか作れず企業の体をなしていなかったから生き残れなかったのです。商店街で売っていた金物もタバコも今は企業が販売しています。大工の中で生き残ったのは、会社を企業化できた社長のみです。これは業界を問いません。私の予測では葬儀業も同じことが起きるでしょう。

そこで、具体策としてのひとつは、当社がおすすめしている機能別組織を作ることです。機能別とは、顧客に対して認知度を上げるマーケティング部門、事前相談や会員営業をして顧客を増やす営業部門、葬儀サービスによって顧客満足を提供する葬儀部門、社内全体を管理する管理部門、これら企業にとって重要な機能を専業で持つことです。特に、商店から企業への脱却にはマーケティング部門と営業部門が必須ですし、働き方改革に代表されるように管理部門、特に法務部門が重要な時代となるでしょう。いきなりそうなるのは無理ですが、一歩ずつ組織の改善に目を向ければ必ず上手くいきます。誰もが最初は大工さんや商店から始まるのです。

組織づくりと並行してやるべきことはありますか。

お客様の満足度アンケートもより真剣にやるべきです。それも、返却率に目を向けることが重要です。返却率を重視すると自然と顧客満足度と顧客単価が向上します。なぜなら、お客様からアンケートをいただこうとすれば、担当者はお客様と良い関係を結ぶ必要が生まれるからです。「アンケートを書いてあげよう。」とお客様に思っていただける担当者になれば自然に良いサービスは生まれます。

ちなみに、当社のアンケート返却率は99.7%で、アカデミーにご参加の企業もほとんどが80%を超えています。アンケートと引き換えにプレゼントをお渡ししている訳でもなく、社員への報酬もありません。社員の努力だけでこの数字を出しています。「感動」「利用を勧めたい」など、手書きで熱いメッセージを下さる方も少なくありません。もちろん、お叱りの声が届くこともあります。しかし、それはもう一度お客様と接点を持ち、次に生かすためのチャンスです。当社では、お叱りをいただいた社員と上司がお客様のもとへ伺い、ご意見を拝聴して、改善案をお伝えするようにしています。

社員の気持ちを変えることも大切ですね。

その通りです。「できるだけ安い葬式を」と言われた時に担当者が何を思うかが重要となります。

自分自身が葬儀という仕事を通じて、どんな価値をお客様に提供するのか、それはどんな意味があるのか、「安くて良い」と言われて悔しい気持ちになるのか、当たり前に思うのか。これらひとつ一つに経営者は答えを出し、共感を得ねばなりません。そこにはインセンティブと別の何かがなければなりません。葬儀を単なる仕事として捉えるのか、社会に対する何らかの使命があるものと捉えるのか。これは社員の仕事ではなく経営者にとって一番大切な仕事です。使命感をもって働けば、仕事に対する姿勢が変わり、今までと違う結果が生まれます。

言い換えると、葬儀業界ではそうした工夫や企業努力をしていない企業が多いということでしょうか。

残念ながら、今の状況を鑑みればそう言わざるを得ません。実際に葬儀がなぜ必要なのか、これを言語化できる人は少ないと感じます。葬儀は何のため、誰のためということがきちんと理解しようとしていれば、もっとふさわしい工夫ができるのではないでしょうか。

当社では、「お葬式に感謝という新たな価値を付加せしめ、再び尊きものにせしめん」という使命に基づいて経営しています。この信念を20年近くにわたって追求しています。時代を超えて自分たちがどうあるべきかという確たる信念を持つことが大切です。アカデミーに参加している葬儀社さんとはこの理念を共有していますが、そろそろ業界としてひとつの「あるべき姿」を共有していく時期にきているのではないでしょうか。

葬儀業界にもさまざまなグループが生まれ、まとまろうという動きも出てきているように感じます。

少しずつですが、確かに動き始めていると思います。

先ほどお話したように、商店レベルでは生き残れない時代が来ますが、一気に組織を成長させることはできません。仲間と一緒に進みながらであったり、得意分野で繋がったり協業しながら生き延びる時代になるでしょう。M&Aや資本提携などもさらに進んでいくでしょう。米国の葬儀業界がこの歴史を持っていますね。今は弊社もアカデミーを中心につながりを作っていますが、マーケティングや営業、管理部門など皆さんがお悩みになる一部を切り分けながらの提供も検討しています。

また、これからはこの業界の基盤を作ってくださった先輩方の後に続く、40代や50代の社長達が重要な役割となるでしょう。現在の様に業界が混沌としている段階では、政治の力も借りる必要も生まれますが、それをするには業界がひとつにならねば動いてくれません。

危機感ばかりが注目されますが、実際にはきちんと成長を続けている会社も多くありますし、前向きに動いてもいるんです。この数年で淘汰される会社も少なくないでしょうが、生き延びる努力こそ価値があるのです。

 

最後に、業界にメッセージをいただけますか。

葬儀社の最大の任務は、「お客様に、葬儀について本気で考えるきっかけをご提供する」ことです。「安いものでいいで良いし、簡単に済ませてください」というお客様の言葉の裏には、過去の葬儀における経験や先入観があるはずです。それをすべて取り払って、「安くて簡単で良いと思っていたけど、ちょっと頑張って良い葬儀をしたい」と思っていただくことで、お客様の満足度が上がりお葬式の価値向上につながります。「いろいろあったけど、やっぱり葬儀をして良かった。葬儀って良いものだねえ」というお客様が増えたら、業界も、その未来も変わっていくでしょう。

しかし、そうなるにはひとつだけ越えねばならないハードルがあります。それは、我々葬儀業界そのものが多くの垣根を超えて、まずはひとつになることです。歴史のある業界ですから古くからの事情があることは確かです。しかし、それはお客様には関係のないことですし、さらにはこれからこの業界で働く若者達には全く関係のないことです。各種の団体がバラバラのまま進んでいくのか、それともひとつになっていけるのか。このハードルが越えるかどうかで、業界の未来は変わるでしょう。

私は多くの業種を経験してきましたが、このお葬式という仕事が一番好きですし、一番大切なお仕事であると信じるに至りました。皆さんと共に心を込めたお仕事をして、素晴らしい未来を切り拓いていきましょう。

松岡正泰

株式会社メモリアホールディングス代表取締役会長兼社長。
全米NLP協会認定トレーナー、日本ランチェスター協会認定インストラクター、日本ドラッカー協会会員。
1965年、岐阜市生まれ。1978年、保険のトップセールスだった母が揖斐郡池田町で浄化槽メンテナンスの会社を起業。人があまりやりたがらない3Kの元祖ともいえる仕事ながら絶対に必要な仕事に精を出す両親の背中を見て育つ。国立岐阜工業高等専門学校の建築科を卒業後、大阪の会社での修業を経て、母の会社に入社する。

「ライフエンディング業界のトップインタビュー」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている企業のリーダーにインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができないライフエンディングの最先端の場で、どのような取り組みが行われているのか?余すこと無くお届けします。

葬儀・お葬式を地域から探す