ライフエンディング業界のトップインタビュー 二極化が進む葬儀。価値を求める人に応え業界のGDPを上げたい

株式会社アーバンフューネスコーポレーション
代表取締役社長 中川貴之

「人の役に立つこと」をテーマに、QOE(quality of ending)を追求した「感動葬儀」で知られる株式会社アーバンフューネス。 結婚式プロデュース会社・テイクアンドギヴ・ニーズの創業メンバーとして立ち上げから上場までを牽引した中川貴之社長は、ウェディング業界で得たサービス業の知見を活かし、葬儀業界に多くの革新をもたらしてきた。 葬儀の小規模化・簡素化が進む今、“100人いれば100通りのお葬式”を提唱する同社は業界の現状をどのようにとらえ、どんな方向性を見出しているのだろうか。中川社長にお話を伺った。

2019年8月20日

インタヴュー/小林憲行 文/藤巻史 撮影/荻山拓也

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業界全体が小規模から簡素化へ、一気に引っ張られている

しきたり通りに行うものとされてきた葬儀に個性を与え、「その人だけの葬儀」の在り方を提案してこられました。現在の小規模化、簡素化の流れをどう見ておられますか。

私がこの業界に入ったのは17、8年ほど前ですが、最初からイメージに合った葬儀ができていたわけではありません。何人かのお客様と出会う中で、どうすればご遺族の故人に対する思いや故人の人柄を葬儀で表すことができるかを考えて提案し続けていましたが、お客様から返ってくるのは「普通でいいです」という答えでした。連綿と続いてきた「しきたり」がある葬儀の場は非常に保守的で、個性的なことをやろうという提案はほとんど通らなかったんです。

それでも、社内で話し合い、必ず喜んでもらえるという確信を得たときにサプライズを仕掛けていきました。ご遺族の意向を伺っての演出ではなく、私たちが勝手に仕掛けていたわけですから、決死の覚悟でしたね。そうした葬儀を重ねるうちに、少しずつ「そういう葬儀社」として認知されるようになって今に至るわけです。

ちょうど葬儀が小規模化し始めていたころでしたから、大々的な昔ながらの葬儀から小さくても個性的な葬儀へと移行しやすかったのではないでしょうか。私たちのサプライズも、勝手にやるのではなく提案すれば受け入れてもらえるようになっていきました。しかし、ここ最近は、小規模から簡素化への流れが一気に進み、皆がそこに引っ張られているように感じます。

簡素化は確かに進んでいますね。

インターネットマーケティングは、市場が活性化するに連れて「はやい、うまい、やすい」になりがちです。それはインターネットならではの特徴であり、ある程度はやむを得ないところでもあるのですが、事業者としてはもっと早くからそこに価値を訴求すべきだったという後悔がありますね。低価格の葬儀が悪い、ということではなくて、葬儀に価値を求める人が一定数以上いたにも関わらず、受け皿を作ることができていなかったということです。これは、業界というより、「インターネットで業界を牽引する」と公言してきた私たちの反省点です。

「葬儀をしたい人」にマッチした満足度の高いサービスを作っていく

そうした反省を踏まえて、現時点ではどのような方向性で今後を見据えておられますか。

当社としては、葬儀でサプライズをするということが受け入れられるようになってから、「葬儀社がなにかをしてあげる」のではなくお客様主導で考えていただくという本来の形に戻すべきだと考えて、少しずつ提案にシフトしてきました。そうはいっても、まだまだ葬儀に対して「こんなふうにしたい」という具体的な希望を持っている人はそれほど多くありません。

我々がちょっとしたおせっかいをしてあげる必要がまだあって、そのためには当社の原点であるサプライズを改めてやってもいいのではないかと感じているんです。そうすることで特長を強調し、ニーズにマッチする人に価値を提供するということですね。

なるほど。あえて原点に戻るわけですね。

その通りです。当社に限らず、すべての葬儀社が、設備なり内容なりそれぞれの特長とこだわりをもっと打ち出していいのではないでしょうか。インターネットが普及した今、葬儀を依頼するお客様は、少なくとも3社、多いと10社くらいは情報を取り寄せて比較検討しています。その段階で特長が伝わらなければ選ばれませんし、結局は金額勝負になるのでお客様にとっても葬儀社にとっても良くないんです。

より特長の際立つ葬儀、当社なら従来めざしていた形の葬儀を、いまこそやるべきだと感じます。

ここ最近の葬儀業界は、「葬儀はいらない」という人に直葬など新しい形を提案し、なんとか葬儀をしてもらおうと努力してきました。その流れを一度絶って、「葬儀をしたい人」に価値を提供していくということですか。

私たちもこれまでは葬儀を必要としない人を必死で掘り起こしてきましたが、社員が疲弊して、会社の生産性が大きく下がることがわかってきました。もちろん、こだわりがない方のご依頼を断るということではありませんが、私たちからのアプローチとしては、質と満足度にこだわり、従来に比べて単価がプラスになるような葬儀をしていくつもりです。最近では結婚式も「する人」「しない人」の二極化が進んでいますから、葬儀も当然ながらそうなっていくでしょう。

業界としては葬儀を「する人」、葬儀を「したい人」にもっとマッチした、満足度の高いサービスを作っていく必要があると思いますね。「する人」に特化すれば件数は減りますから、質で満足度と顧客単価を上げていくということを業界全体でめざしていければいいのではないでしょうか。まずは、その成功事例を私たちが作り、それを業界に共有することから始めていくつもりです。いずれは、業界全体のGDPを上げることができればいいですね。

常に先駆者としてやってこられた御社ならではの立ち位置ですね。

私がウェディングから葬儀業界に入ってきたとき、葬儀には「良い葬儀をして収益をだそう」という感覚がないことにとても驚きました。とはいえ、結婚式も決まりきった形で、次第に式離れが進んでいたときにリクルートがゼクシィを通じて啓発活動をして業界を変えていったという経緯があります。

今のところ葬儀にはその流れがなく、GDPを下げる方向にみんなで進んでいっているという感じですよね。尚且つ、お葬式の価値も薄れてきているので、全体的に苦しい状況が続いている。こういうときに先陣を切って仕掛けていくのが、私たちの役割だと思っています。

いい意味での二極化を成立させ、価値を求める人に応えるサービスを作っていく

業界全体への働きかけとしては、何か新しい計画はありますか。

数年前から、葬儀社が葬儀社のために開発した葬祭業務専用の総合支援システムとして、MUSUBYS(ムスビス)の開発と導入支援に力を入れてきました。IT事業は葬儀とは異なる視点で、システム面から業界をサポートしていくイメージです。働き方改革の影響もあって、葬儀社にはより効率性が求められるようになりました。動きの速いユーザーを、一人ひとり追いかけていたら仕事になりませんし、コストもかさみます。葬儀社だからこそわかる課題を当社のシステムでカバーし、うまく連携することによって業界全体を活性化していきたいです。

また、独自の経営戦略で先進的な取り組みをしている株式会社メモリアルむらもと、ライフアンドデザイン・グループ株式会社、そして当社の3社で、『フューネラルマスターズクラブ(Funeral Masters Club)』を立ち上げました。これは、エンディング関連事業者のための総合サポートネットワークで、「経営ノウハウの提供」「戦略実行のサポート」「会館開設・運営」「ITソリューション」などを総合的にサポートしようという組織です。葬儀社だけでなく、業界全体のつながりの中でビジネスを展開していく計画なので、興味がある方はぜひお問い合わせいただければと思います。

業界には閉塞感が漂う昨今ですが、やれることはまだありそうですね。

時間があれば現場に顔を出すようにしていますが、「いい葬儀をつくろう」という雰囲気が自社も他社も少ないですね。もっと工夫の余地があると思います。特に、葬儀の一体感の演出という部分では、できることが多いと感じているんですよ。お坊さんはお経を上げていなくなりますし、遺族もお経の間は立礼していたりして、亡くなった方のために集まっているのになんとなくバラバラですよね。

当社では、サプライズをする際、そこに映像の力を活用してきました。映像を流すと、ばらばらだった参列者の気持ちがスッとそこに集中する。故人を思うという一点で全員がつながり、且つそれぞれが故人と関わった個別の時間を思い出すことができるんです。こうした映像による工夫も、さらに精度を上げて取り組んでいきたいですね。

家族葬がメインになっていくと、映像の意味が薄れてしまうのではないかという懸念もありますが、いかがでしょうか。

私はそうは思いません。いつも顔を合わせている家族でも、写真を見れば忘れていた思い出を振り返ることができます。しかも、核家族化が進んだ今は親子が一緒に住んでいることのほうが少ないわけですから、十分価値があると思いますよ。親が亡くなって、離れて暮らしている兄弟それぞれに思い出の写真を持ち寄ってもらったら、全く違う写真が集まったということも良くあります。

兄弟でもそれぞれ親との思い出は違います。一人ひとり大切にしている時間が違うということですよね。一人の人の人生には、色々な人との多様なかかわりがあります。それを簡素化で一気に畳み込んでしまうのはもったいないのではないでしょうか。映像もそうですが、全体のストーリーをつくることも大切ですね。例えば、普通ならカタログからパッと選んでしまう棺も、「ここで棺を中央に移動させて皆で周りを囲み、映像を流します」とストーリーの中の重要な小道具として説明すれば、ただの箱ではなく意味を持って存在するものになります。そうすると、選ぶ側も真剣さが違ってくるでしょう。

ブラックボックスのようだといわれた時代から、料金体系や内容を明確にするためにカタログ化して、ここからさらにこれまでの変遷を経た新しい形を作っていくイメージですね。

低いほうになんとなく引きずられていくのではなく、いい意味での二極化を成立させて、価値あるものを求める人にしっかりと価値を提供していくことが重要になってきます。件数の拡大より、業界に与える影響力がプラスになるほうを選んでいきたいですね。

ありがとうございます。

中川貴之

株式会社アーバンフューネスコーポレーション代表取締役社長
1996年明治大学政治経済学部卒業。結婚式プロデュース会社、株式会社テイクアンドギヴ・ニーズの立ち上げに参画。役員として株式上場に携わる。2002年10月、葬儀業界への転進を図り、株式会社アーバンフューネスコーポレーションを設立。人材育成のマネジメント・カンファレンス「ネクストワールド・サミット(現:ドラマティック・マネジメントアワード)」の立ち上げ、運営など業界の垣根を越えた取り組みも積極的に行っている。

「ライフエンディング業界のトップインタビュー」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている企業のリーダーにインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができないライフエンディングの最先端の場で、どのような取り組みが行われているのか?余すこと無くお届けします。

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