ライフエンディング業界のトップインタビュー トータルサービスに対応できる葬儀社しか最終的には頼られない

株式会社ティア
代表取締役社長 冨安徳久

「日本で一番『ありがとう』と言われる葬儀社」を目指し、1997年に創業した株式会社ティア。2018年には100店舗目をオープンし、創業の地、名古屋から関西、関東へと全国を視野に展開する。多死社会を迎えた日本では今、葬儀社に何が求められているのか?かつてないスピードで変化する社会で、頼られる企業になるためには何が必要なのか?冨安徳久社長にライフエンディング業界のこれからについて、話を聞いた。

2019年2月5日

取材・文/小林憲行

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あの会議がなかったら、独立していなかったと思います

創業のきっかけについて教えていただけないでしょうか?

初めは、山口県の葬儀会社にいましたが、父が倒れたということもあって故郷の愛知県に戻り、こちらで葬儀を行っている企業に転職しました。そこで店長、マネージャーとやらせていただいていたのですが、ある日、会社の方針として「生活保護の方のご葬儀は行わない」ということが決定しました。

この方針には、どうしても納得できませんでした。

私が最初に就職した会社では、故人様がお金を持っていようがいまいが、そこに仏様がいる限り、「絶対に分け隔てしてはいけない」と教えられてきました。ほかの店長たちも「絶対それだけはしてはいけない」と反対していましたから、そういった声を現場から上層部に進言すれば、会社も方針を撤回してくれると思ったのです。

だから私は会議の席で立ち上がりました。ところが全員で「反対」を唱えるつもりだったのが、パッと周りを見たら誰も立ち上がらず、全員下を向いていました。

……あの時のことは、忘れもしません。

でも、あれがなかったら、独立していなかったと思います。

帰りの新幹線の中で「もう駄目だ、この業界。誰かが変えなければ・・・」「独立しかない」と思いました。

当時、葬儀は装置型の産業であることは分かっていました。会館を造らないと利益にならない。私は資産家でも葬儀屋の息子でもありませんが、それでも「人生かけて、挑戦してみよう」と思いました。

創業されてから20年。葬儀業界もずいぶんオープンになっています。

もともと、この葬儀業界というのは変わろうとしない業界でした。当時は葬儀社で上場している企業が1社もありませんでしたし、地場産業なので、全国に同じ価格で、同じお葬式を届けるなんて誰も考えていませんでした。だから、まずそれをしようと思いました

店長になって、初めて仕入れ価格を知った時は、驚きました。「この原価のものをこんな金額で売っていた!?」って。「経常利益率とか営業利益率はどれだけあるのか?」と思い計算すると、半額で計算しても、経常利益率が10%を超えていました。上場企業で、経常利益率10%超優良企業です。

「なぜ?」と考えたら、消費者が知らないから、葬儀社は有利に価格を設定できた。だったら消費者にも考える土俵を用意しなくてはいけないということから、独立したら完全に開示しようと決めました。

デパートに行って値札のない商品はひとつもありません。でもこの業界には値札のある商品がひとつもありませんでした。価格を知ろうとしない消費者と、価格を出そうとしない葬儀社。それでは葬儀社の言いなりになるしかありません。経営者としてのセンスとかではなくて、単純な発想です。

今ではほとんどの葬儀社が価格を開示するようになりました。

ティアは、これから超高齢化社会を迎える、多死社会を迎えるから葬儀という商売はうまくいくだろうと思って始めた会社ではありません。

この業界を抜本的に変えるために、そのオピニオンリーダーとなるぐらい占有率を上げて、真似てもらえるような葬儀社を創ろうというのが、根底にあります。

ある企業が何かを行ったら、その業界に影響を与えるというシェア率があります。これは統計学上のものなので、葬儀業界だけに限ったことではありませんが、は葬儀業界でも当てはまるだろうと思いました。影響を与えるぐらいの会社にならないとプライスリーダーにもなれず、消費者に気にしてもらえる会社にもならないと思いましたので、まずは競合他社にも意識される市場認知シェア、約11%を目指しました。

創業して最初の目標は10年間で年間施行件数3,600件にまで成長することと決めました。ひとつの会館で、月15件のご葬儀を行ない、12ヵ月で180件。10年で会館を20店舗出店すれば3,600件というのは達成できます。その当時3,400件を超えると、シェア11%となります。それを実行していけば10年で影響を与える会社になれると思いました。

それと同時進行で進めたのが、上場です。

は30歳の時に独立を目指しますが、その後も6年間サラリーマンを続けています。事業計画の作り方すら知りませんでしたので、経営者としての勉強もそこから始めています。

33歳の時、葬儀業界で同業他社が初めて上場した時は衝撃的でした。

その3年後に起業して、東海地区の葬儀社として一番初めに上場しようと、10年以内に上場することを、計画しました。

上場を目指したのはなぜかと言ったら、決算発表がしたかったからです。

「これぐらいの金額、売上で、これだけ利益が出ます」ということを証明したかった。

全国の葬儀社のほとんどが一族経営で、すべて地場産業です。決算発表もしていません。しかしはクリアな状態にしたかった。

「葬儀の金額は間違ってる」証明するために、当初から上場を目指していたというわけですね。

それが業界改革をするオピニオンリーダーです。

今でも社員たちに言っています。「ティアは葬儀社の中で競争していく会社ではない。全国の葬儀社の模範となるような企業を目指している」と。

最初の10年は戦いでした。

消費者に、事前に葬儀のことを考えるのは不謹慎なことでも、忌み嫌うことでもない。当たり前に起こることに対して、事前に準備しておくだけのこと。「死を考えることが、生を考えることになる」ということを訴え続けた10年でした。

情報を完全開示する。おもてなしの精神でご遺族に徹底的に尽くす。ドミナント出店をして、会館を分散させて遺族に「近い」という利便性を確保する。当時、この中堅都市の名古屋では、「近い」ということが最大のプライオリティーでした。ならば、ひとつの建物にいくつも式場を造るのではなく、分散しようと考えました

また、消費者には「生前見積もりを取ることが正しい」ということを伝えたかった。

それまでの業界は、「はい、〇〇宗です。祭壇は〇〇号です」という感じでした。でも亡くなった人は皆異なる人です。それぞれに家族の悲しみとか、感性とか、いろんなものがあります。それを1件ずつすべて違うもの、唯一無二のものだと思って対応するというのが、葬儀社のあるべき姿だというようにしたかったのです。

最初の目標を10年で達成しましたので、次の10年は全国展開への礎を作りたいと思いました。関西、関東に出て、東名阪でまずネットワークを作るという目標を立てました。さらに上場はしたものの新興市場でしたので、東証一部へ市場変更を目指しました。

それらの目標も達成された今、葬祭業以外に事業を展開する予定はありますか?

は最初から、葬儀ビジネスしかやる気がありません。

葬儀ビジネスで、しかも名古屋から全国展開をすると決めています。

東名阪でやってきたことを、全国の主要都市に波及させます。

ただこの10年で変わってきたのは、間違いなく葬儀ビジネスもネット社会になってきたということです。プラットホームを作って、そこでお葬式を受注する。これは自分たち動かずに葬儀社に施行してもらって、手数料を得る商売です。

しかし、実際に葬儀を施行するのは、すべてが洗練された葬儀社というわけではありません。プラットホームからの受注はいずれ考えるにしても、今は考えていません。企業と提携していきます。

ただし、そこでの差別化については、ティアは直営でもFCでも、教育を徹底して行っていくというものです。火葬のみの場合でも、分け隔てなく行いますので、ネットであってもティアに任せた方がいいと理解してもらえればと思います。

紹介サイトが自社で葬儀を始め、スタッフの教育までやるようになったら、怖いと思います。「怖い」というと語弊がありますが、つまりはスタッフの教育であるとか、ご遺族に対する思いがそれだけ大事だということです。

なぜか?

それは、お葬式というのは働いている人こそが最大の差別化になる商売だからです。本気で「ご遺族のために尽くす」というスタッフがどれだけいるのか?ということです。

ティア_冨安徳久社長

今までの20年は、これからの5年、10年だと思っている

これからの業界はどうなるとお考えですか?

次なる10年を、全国展開に向けてどうするか?ということについては、はIoTもAIも、全部取り入れたいと思っています。

もしかしたら「変なホテル」みたいにロボットが受付することになるかもしれない。どうなるか分からないから、広い視野を持って、いろいろな業態から取り入れるものは取り入れて、効率よくできるものはしていけばいい。

私は、今までの20年は、これからの5年、10年だと思っています。

スピード感が違います。

もしかしたら「皆さん、めがねかけてください。祭壇が今から出てきます」って3Dみたいな、そんな会葬になるかもしれない。ネット上で、スマートフォンで葬儀立ち会いますとか。

ただし、そこにはやはり人がいます。

悲しみにくれる遺族と直接、接してる。ここだけはアナログ的な話かもしれないけれど、徹底的に人の感性を磨き続け、高めていく。ご遺族を思う気持ち、人間的な大切な部分は残す。

よくAIの時代が来たら、人はもういらなくなると言われます。しかし、この業界には仏様がいて、火葬という儀式があって、そこには悲しんでる人がいる。悲しみを癒すのは人にしかできないことと思っています。

その、人の感性を磨くこと、人の教育に関することは、徹底的にどこの会社よりも力を入れたいと思い、おそらく業界で初めてのことですが、教育のための施設を開設します。

人材教育センターの設立?

ティア・ヒューマンリソース・センター。THRCです。

新卒の教育を予定していますが、中途採用の場合もそこで中途プログラムをすすめていきます。

これまでのプログラムでは場所も分散しており、会館でのOJTもなかなかできませんでした。リアルな葬儀を見るといっても、よく研修医が手術に入ってメモしながら見るのとは違います。実際にはご遺族もいらっしゃる。

会場を準備しても、ご葬儀が入ると会場を変更しないといけません。時間のロスとか、研修会場を分散するロスなどがありました。

しかしTHRCでは模擬葬儀も行えるので、今まで以上にリアルに葬儀を体験できます。これまでの6ヵ月間の教育期間をさらに短縮できます。教育にかかる時間もコストなので、それを半月でも1ヵ月でも縮めることができれば、コスト削減になります。人材が早く育てば、出店も加速します。

40人採用に踏み切りましたが、これまでの倍の人数を採用するためには、仕組みができていなければなりません。採用を倍にするというのはどういうことかというと、倍の出店ができるということです。

多死社会で死亡人口はどんどん増えています。

それに対応できるだけのスピード感を持つ必要があります。

葬儀社は今現実の多死社会のあり方に、行政ができないことを民間がいかに対応できるかということが問われています。

葬儀業界もトータルサービスの時代になってきています。それに対応できるところしか、最終的には頼られない。「生き残れない」ではなくて、「もう頼られない」のです。

頼られる=(イコール)生き残るですから。

生活保護者のご葬儀も増える時代だと思います。そういう時に、どう対応していくか?火葬場が少ないから、順番を待つ間の安置場所をどうするか?いろいろなことが葬儀社に課せられています。

そのためには資本力も必要です。

ティア_冨安徳久社長

死亡人口が減っても、ティアは伸びていく会社になるって思っています

以前、介護事業者のFC展開がありました。今後の展開はどのようにお考えですか?

介護事業者のFCというのは増やしたいです。

それには成功例を作る必要がありますので、もう2店舗分出そうと思っています。

首都圏を中心に展開されるのですか?

FCについては、これまでは大阪まで行ったら、兵庫に行き、次に岡山、さらに広島というように、順番を考えてました。けれど、仕組みができていれば、実現できる。

一方、もし飛び地で直営店舗をと言ったら、M&Aを考えます。

これまで「売りたくない」と思ってい経営者の方も高齢化しています。「土地があったから会館を建ててしまった」という葬儀社もあります。戦略的思考でやっていけば業績は上げられるというところは、M&Aを検討します。

多死社会といえども、いずれ死亡人口は緩やかに減少します。私は、死亡人口が減っても、ティアは伸びていく会社になる思っています。なぜか?全国を目指しているからです。一部の地域だけでは、そうはいかないからです。

人に時間と労力とお金をかけるような企業でないと、生き残れない

全国展開の人員を育てるためにも教育が必要なのですね。

人がすべてです。

人、物、金、情報を四大資源と言いますが、物も金も情報も全部、人です。人が司ることです。人に力を入れてない会社は生き残れない。そのことにいち早く経営者が気付かないと、ただ死亡人口が増えていくから、多死社会になるから、「会館造っておけば何とかなるだろう」って、「何とか」なりません。

そういうところは、どんどん会館を増やしても、数字増えません。会館を増やすということは、負担が大きくなるっていうことです。戦略的思考でどうしていくかということを相当考えてないと、例え大手でも生き残れません。

「命の授業」という活動も続けていらっしゃいます。

社会貢献活動の一環として行っています。

葬儀社として人の死を通じて命に触れてきたので会社をあげて命の尊さを伝えたいという活動です。

これまで、お子様が自殺された親御さんとも向き合ってきました。もう自殺だけは止めたい。私には「なぜ自殺してはいけないか?」という明確な持論があります。それを伝え始めたら、いろいろなところから評価をいただいて、各学校から依頼が来るようになりました。実は、ある学校での講演を聞いたというお子様が大きくなって、ティアに入社したというケースもあります。

また、「命の授業」以外には、ティアが出店していくこと自体が、その地域にとっての社会貢献だと思っています。

なぜなら、その地域の葬儀業界が活性化されますから。ティアがその地域で情報を完全開示していくから、地元の葬儀社も完全開示するしかなくなります。

社員たちにも、「ティアがエリアを広げること。業績を上げて、次なるエリアに出店することが社会貢献」と伝えています。

社会貢献に関われている意識。ネットワークの大切さ出店することの意義意味役割を知ってるということが大事です。それを社内でも社長セミナーとして月に5回くらい話しています。

この社長セミナーは20年間ずっと継続して行っています。

本気で現場経験の志のまま経営者をやっています。

トップから末端まで「徹底的にご遺族に尽くす」という気持ちがあるかないか?それが「人が差別化になる」ということです。

末端だけが熱くなってるなんてことは考えられません。

熱意なかったら人は動きません。

トップが熱くいると、熱い人が集まってきます。

皆「熱くなりたい」と思っているはずです。

考えて、ご遺族のためになることを提案していく、その考える集団が熱かったら、熱く考えるでしょう。それが、強さだと思います。

「ティアの強みは何ですか?」って聞かれたら、「『人』です。」と答えます。

今後、業界に必要なことは何だと思いますか?

これからの時代、スピード感が全く違うということを常に経営者は考えておかなければいけません。その時になってから考えるのは経営ではありません。未来がどうなるかを予想して「時流をとらえる」なんていうのも、もう古いのです。その「時流に持っていく」ように先に手を打つ。消費者の考えをそっちに向けるような手の打ち方をしないと、このスピード感にはついていけない。

そうすると社員教育ではやはり、「考える集団である」ということが重要になります。

経営というのは、未来を想像することです。

未来がどうなるか?消費者の動向がどうなるか?死に対して、葬儀に対してどういう感覚になるのか?

それを考える集団になっておかないと。

トップだけで考えて、トップダウンで下すのでは駄目。すべての事業部がそれぞれの役割において考える集団になるということが、企業の強さだと思います。

それを要約すると、「人が企業の強さ」です。

人に時間と労力とお金をかけるような企業でないと、もう生き残れないということは、伝えたいです。

ありがとうございました。

ティア_冨安徳久社長

冨安徳久

1960年愛知県生まれ。
大学入学直前にアルバイトで葬儀の仕事に出会い感動し、大学進学を捨てて葬儀社に入社。東海地方の互助会に転職した後、1997年に株式会社ティアを設立。2006年には名古屋証券取引所セントレックスに株式を上場。2014年には東京証券取引所・名古屋証券取引所市場第1部に市場変更。2018年には100店舗目となる葬儀相談サロンをオープンした。
『最期の、ありがとう。新・ぼくが葬儀屋さんになった理由(わけ)』(2018年、Wonder Note)ほか、著書多数。子どもたちに命の尊さを伝える活動、「いのちの授業」も全国各地の学校で行っている。

「ライフエンディング業界のトップインタビュー」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている企業のリーダーにインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができないライフエンディングの最先端の場で、どのような取り組みが行われているのか?余すこと無くお届けします。

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