ライフエンディング業界のトップインタビュー 葬儀の事前相談が、会員獲得だけが目的のイベントになっていないか?

株式会社清月記
代表取締役 菅原裕典

宮城県仙台市を中心に、葬祭会館を展開する清月記。1985年の創業以来、地域密着型企業として「ノーと言わない」究極のサービスを提供し続けている。年間の施行件数は約2,600件、仙台市でいえば25%近いシェアを占めている。清月記のブランドを徹底するために、葬儀に関連する事業から人材の育成まで、すべて自社内で行い、葬儀だけでなく仏壇・仏具、墓石販売はもとより、生花、料理、ウェディング、ハイヤー、教育など生活に必要な事業を多岐にわたって手掛ける、地域になくてはならない企業だ。代表取締役菅原裕典氏に話を聞いた。

2019年2月26日

取材・文/小林憲行

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お客様を100年間お世話させていただきたい

さまざまな事業を展開されていますが、清月記とはどのような会社なのでしょうか?

私たちの会社のスタートは、お葬儀のお世話をする仕事です。
しかし、そこから逆算していけば、そこに医療も、介護も、衣食住も、教育もある。旅行もあるかもしれません。
地元密着型の企業として、サービス業としての商品価値、あるいはブランド力を評価していただけるのであれば、お葬儀以外の事業に関わっても、やはりお認めいただけると思います。

例えば、お料理事業は「一乃庵.」という名前でやっています。清月記とは別の会社と思われるかもしれませんが、清月記の中に、飲食事業として一乃庵.がある。
人生100年の時代。

私たちは「100年間継続できる企業を目指す」というよりは、「お客様を100年間お世話させていただきたい」と考えています。生まれた時から亡くなるまでの間、つながりを多く持っていきたいというのが、私たちの会社の一つの理念としてあります。「お葬儀+αのお仕事を、100年間お世話をさせていただく企業」ということですね。

「清月記って何の会社?」となった時に、「我が家は医療でお世話になっています」とか、「うちは孫の教育でお世話になってますよ」とか、「清月記でマンションを買いました」とか。そのような会社を目指したいと思っています。
でも、一番の中心は、やはりお葬儀です。

私は25歳で起業していますが、25歳になって葬儀社を始めようと思ったわけではありません。高校2年生の時、すでに「葬儀業をやる」と作文に書いていました。今年、私は59歳です。もちろん16歳の時に今の感覚を持っていたわけではありません。でも、その方向性はずっと変わっていません。

創業時と比べて、今の葬儀の業界はどのように変化しているとお感じになりますか?

私は変化があるとは思っていません。
弔いは、亡くなった方に一番近い方々が中心となります。その方々、ご家族たちの「しっかり送りたい」という気持ちは、変わっていないと思うのです。
お葬儀の規模が縮小していると言われます。しかし、家族葬も私から見たら、新しいものではありません。お葬儀はずっと家族を中心に執り行われていました。主催者は家族です。それが昔は「一般葬」と言われていたのが、「家族葬」とネーミングが変わっただけです。

私が起業したのは今でいう仙台市の泉区です。新興住宅地で人口増加率が日本で一番と言われたほど、急激に人が増えていったエリアです。
そのような地域で、創業したてで顧客もいなかった当時の私にとって、お客様は一般のご家庭でした。家のローンを払いながら子育てをし、親が病気になれば看病をし、ご逝去されたらお葬儀を頼まれる。そんなご家庭で望まれるのは、大規模で高額なお葬儀というよりは、リーズナブルなお葬儀です。

会葬にいらっしゃるのは70、80名であったり、40、50名であったり。そういうお葬儀を私たちは中心として行ってきました。そういうお葬儀が、我々の原点なのです。

どのようなご相談であっても、私たちはお客様に「ノー」とは言いません

ご相談サロンを仙台の中心地に開いて、さまざまなご相談を無料で受けていらっしゃいます。

情報はリアルタイムで集めていかないといけないでしょうね。
お客様のものの見方や選び方が変わってきているのに対して、これまでの実績だけを頼りにしていては、誰もついて来てはくれません。その時代に魅力のある企業でなければ選んでいただけないのです。
例えば互助会さんが一軒ずつご家庭を訪問して営業を行っています。互助会さんはそれを積み重ねて50年以上続けてきているわけです。これは素晴らしいことです。
ただ、それが今の時代に合っていますか?ということが問題なのです。

私は今が、ご家庭を回ってまで積み立てを集める時代だとは思っていません。
反対に、お客様がより訪れやすい場所、仙台の街の中に相談できるところをご用意して「どうぞ遊びに来てください」「何かご相談事があったら遠慮なしにご相談してください」と伝えています。

すべて無料でご相談いただけます。
エルメスのコーヒーカップ、バカラのグラスでおいしいコーヒーを召し上がっていただけます。もちろんコストはかかっていますが、こういうご提供をできるところが「さすが清月記ですね」と評価していただけます。アンケートを見ると、「ライフスタイル・コンシェルジュで、いつもおいしいコーヒーをいただいた」というものもあります。

いろいろなご相談もお気軽にできます。
もちろんお葬儀以外のご相談事もあります。
人生を楽しむためのご相談事もありますし、これから最期を迎えるまでの経費をどのように算出するか?というご相談をされる方もいらっしゃいます。
どのようなご相談であっても、私たちはお客様に「ノー」とは言いません。「イエス」しかないわけです。

例えば、お客様が「散骨をしたい」とおっしゃっているのに「うちでは散骨はできません」と言うことはできません。
「海洋葬になさいますか?」あるいは「樹木葬をご希望ですか?」ということをお聞きして、「海洋葬」とおっしゃられたら海洋葬を行います。「樹木葬」とおっしゃられたら樹木葬を行います。
万一、自社で対応できなければ、対応してくれるところにオーダーを出すしかありません。それでも、お客様に「できない」とは言えません。

以前、「ニューヨークに1万円の花を届けてほしい」とおっしゃるお客様がいらっしゃいました。
「できません」とは言えません。
なぜなら、見ず知らずの人は、清月記に頼みには来ないからです。
私たちのお客様が頼んでいらしている。「清月記に行けば対応してくれる」と思っているから、いらしているわけです。それは大切なお客様です。

もし「できない」と言うのであれば、商売をたたんだ方がいいです。それが私たちのスタンスです。

お葬式で力を入れて取り組まれていることはどのようなことがありますか?

10人、20人と、本当にご家族だけでお送りしたいというお客様のために専用の会館「みおくり邸宅」をご用意しました。
もちろん、今までも、「清月記の家族葬ホール」はありました。しかし、やはり「清月記」とついていると、スケール感があります。そのため、清月記グループということで安心していただきながら、小規模な葬儀の場合でも依頼していただける会館として造りました。

創業から30年の間に3回、4回とお世話させていただいているのに、今の時代にふさわしい会館がないという理由で、他社でお葬儀を執り行われるようなことがあったとしたら、それはとても悲しいことです。

お葬儀だけでなく、お墓や、仏壇とそれぞれのご家庭でこれまでどのように清月記を利用していただいたか?おじいさん、おばあさんのお世話もさせていただいたとか。そういうことを考えながら、私たちは仕事をさせていただいています。

「こよなくこの会社をご指名いただいてる」ということは、とても大きなことだと、私は思います。

何の商売もそうですが、企業としてお客様が認めてもらえるかどうか。やはり、お客様に選んでいただける商品を提供し続けないと、駄目だと思っています。

さらに、いくら立派な店があって、いくらいい商品を持っていて、いくらブランドがあっても、そこを支える店長やスタッフが十二分でなければ、お客様に認めていただくことはできません。

やはり最後は、人です。

「人が足りない」と言った時、一番の犠牲者はお客様

人材不足に悩む経営者も多くいらっしゃいます。

皆さん、大変な苦労をされているでしょう。
しかし、私は「人が足りない」と言われると、「努力が足りないのでは?」と思うのです。人が足りないのなら、どうにかしてでも人を集めることが仕事です。「人が足りなければ仕事ができない」というのは「仕事をしたくない」ということではないでしょうか?

「人が足りない」と言った時、一番の犠牲者はお客様です。
私たちの理念には「清月記に頼んだら、不利益を与えません」というものがあります。地域の皆さま方に不利益を与えないというのは、商売人としての使命です。

私たちは自治体から支援を受けたり、国から補助を受けて仕事をしているわけではありません。商売ですから、自分たちの努力で利益を上げなければなりません。けれど、一番得しなければいけないのは、まずお金出してくださったお客様です。お客様に得してもらわなければ、2度とその会社に仕事なんてお願いしてはくれません。

社員教育はどのようになさっていますか?

よく質問を受けますが、外部講師に教育を頼むことはありません。
もちろん、彼らは専門家として、「教育」という大きな枠については教えることができるでしょう。けれども、「清月記の教育」はできません。だから、私たち自身でやるしかないのです。

一番大切なのは人です。
もちろん葬祭会館のハードの部分もそれはそれで大切ですが、どの会社さんにも同じようにあるわけです。ないのは人だけです。清月記と同じ社員が、他の会社さんには一切いないのです。

当たり前のことですけれど、同じ人はどこにもいません。
同じように真似をしたとしても、同じ人がやっているわけではない。
だから外側から見たら似ているかもしれませんが、中身は全然違う。そこがその企業の強みです。

お客様も人ですし、そのお客様を対応させていただいている、我々職員も人です。その中には経営者がいて、役員がいて、管理者がいて、スタッフがいる。それらがうまくバランスが取れていれば、清月記という会社は強くなるのではないでしょうか。

外部に頼らず、社長ご自身が社員教育を行っているということですか?

私が教育しているのではなく、会社が作り上げていくしかないと思っています。
私がいかに元気でも、50年後なんて語れるわけありません。30年後のことだって語れないかもしれません。経験値で語ることはできますが、それで30年後を語ったところで無責任ですよね。

だから、次の世代には何も言いません。本人たちが体感して、自分なりのものを作り上げていかなければならないからです。

私は毎日同じことを言うだけ。教育というのは、毎日同じことを繰り返すということです。
具体的には、例えば「何でも報告してください」ということですね。
「問題が発生したら報告しなさい」では駄目です。
問題は基本的にいつも発生していることなのです。
もちろん大きな問題ではありません。
でも、それをしっかり取り組まずに中途半端にしてしまうと、また同じような問題が発生するわけです。

450人の社員がいたとして、一人の問題を残りの449人が全部「自分のことだ」と思うぐらいの企業になったら、絶対負けない会社になる。
簡単ではありませんが、それに近づくために努力する気持ちがあるか?ということです。
粘り強く、あきらめず、貪欲に、知恵を使い、汗をかくかけるか?ということです。

これをやったからといって必ず成功するわけではありません。しかし成功した人は皆、それをやり続けています。「こんなにやっても何も変わらない」とあきらめた人は、そこで終わってしまいます。「まだまだ努力が足りない」と思ってやり続ける人は、もっと工夫します。

すると、1年前にやっていたことと、今やっていることが変わるわけです。
知恵の使い方が変わる。汗をかくことでも、汗のかき方が変わる。粘り強くするにも、粘り強さが変わる。貪欲さも変わる。それは、やり続けているから変わるのです。積み重ねていかなければいけません。

さまざまなサービスも全て自社で行っています。

納棺式も、お花も、お料理も、車関係も、すべて清月記の理念を理解できる社員が関わっていかなければ、本物の清月記の商品は提供できません。
もちろん外部の協力してくれる会社さんが「清月記にはこのような思いがあるから、こうすればいい」というのであれば、もちろん理解してくださっているとは思いますし、清月記に合わせた仕事はしてくれるとは思います。けれども、それは本物ではないと。

もちろん、その外部の会社が悪いわけではありません。しかし、外部の方にはある一定のところまでしか踏み込めません。教育までできませんし、問題点に対しても、そこまで強く指摘はできないでしょう。「だったら自分でやってください」と言われるだけのことです。

「清月記専属の会社ではありません。そこまではできません」と言われればそれで終わりです。そうであれば、自分たちでやった方がいいでしょう。

お客様に恥ずかしくないお葬儀をご提供させていただくことが、事前相談の本当の目的

業界に対してメッセージをお願いいたします。

お葬儀というのは、お客様の懐の中まで、心まで入れる仕事です。だから、ものすごく貴重なのです。悲しいから、つらいから、苦しいから。そういう素の姿を我々は目の当たりにして仕事をしているわけです。そのようなお客様と、こちらも素の姿で付き合わなければなりません。

私は、葬祭業をこよなく愛しています。
これほど素晴らしい、高貴な仕事はありません。
だからこそ私は、お葬儀をなぜやらなければいけないのか、なぜ供養をしていかなければならないのかということを、もっと伝えていくべきだと思っています。
お香典を辞退する方もいるという話も聞きますが、私はおかしいと思う。
日本文化の中で、例えばお中元、お歳暮と、礼を尽くすための機会があります。そうやって人と人とのつながりであるとか、常日頃のお世話に感謝を伝えているわけです。

大切な方が入院したら、お見舞い包みませんか?
では、なぜお世話になった方に尽くしたいと思っているのに、お香典を辞退なんてことができるのでしょう?

それはすべて葬儀社の責任ではないでしょうか?

事前相談が、ただ単に自社の会員にさせることだけを目的にしているからではないのか?と。
でも、本当の事前相談の目的は違いますよね?
もちろん、その葬儀社を選んでいただくことは大切ですが、その先には、そのお客様に恥ずかしくないお葬儀をご提供させていただくことが、本当の目的ではないでしょうか?
そのために、お客様は葬儀社を頼ってくださるのではないでしょうか?
「こんな祭壇を、いくらで飾れますよ」「このぐらいのお得感ありますよ」って、そんなことを言って会員にさせるだけのようなことをしたところで、実際には何の役にも立たないのではないでしょうか?

事前相談ですとか勉強会などにいらしたお客様には、家族葬を行うのはいいけれど、参列したいという方をお断わりするべきではないということは、きちんとお伝えするべきだと思います。

もし参列者が来てくれなかったら「恥ずかしい」と心配する方はいらっしゃいます。そんな心配をするなら、家族だけでやった方がいいと思っていらっしゃるわけです。だからそこ、「恥ずかしいことではないですよ」ということをお伝えする。心配でしたら、小さい式場でお葬儀を行えば、溢れんばかりになったって「いっぱい来た」と見えますから。参列者を100人と想定したからといって、100人の会場でやらなくてもいいじゃないですか?あえて50人の会場をお勧めするのも、葬儀社の提案ですからね。

私たちの年間の施行件数は約2,600件。エリアでは25%近くのシェアを占めています。
そして会員は約3万5,000人いらっしゃいます。
しかし、私は仙台市の人口、108万人全員が会員だと思っています。
今、すべての方のお手伝いできていないということは、当社よりもいい会社もあるから。そこを選んでいるお客様がいらっしゃるということです。
清月記はまだまだ、努力が足りないですね。

ありがとうございました。

菅原裕典

仙台生まれ。東北学院大学経済学部経済学科卒業。高校生のころから葬祭業を始めることを決意。1985年有限会社すがわら葬儀社設立。1991年株式会社清月記へ社名変更。葬祭業だけでなく、地域に必要なサービスを幅広く展開する。2011年に発生した東日本大震災では、全国の葬儀社に救援を呼びかけ犠牲者の葬儀に対応するだけでなく、震災孤児のため認定特定非営利活動法人JETO宮城を設立し、長期的な支援を行っている。2013年『東日本大震災「葬送の記」鎮魂と追悼の誠を御霊に捧ぐ』(PHP出版刊)を上梓。

「ライフエンディング業界のトップインタビュー」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている企業のリーダーにインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができないライフエンディングの最先端の場で、どのような取り組みが行われているのか?余すこと無くお届けします。

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