ライフエンディング業界のトップインタビュー 「社員にしかできない仕事」以外はアウトソーシングすることが、未来につながる

株式会社ブレス
代表取締役 大林康隆

予見できない人の死に関わる以上、長時間労働と夜勤を避けては通れない――。 葬儀業界で、長く通例とされてきた考え方だ。中小規模の葬儀社では、社員が複数の役割を掛け持ちし、最小限の人数で仕事を回しているケースも少なくない。 決して働きやすいとは言えない労働環境にあっても、業界の給与水準が他業界に比べて高かった時代には、「買い手市場が続いていた」と株式会社ブレス・大林康隆社長は振り返る。しかし今、多くの葬儀社が慢性的な人手不足に悩まされているのが現状だ。「この状態が続けば、いつか限界が来る」と感じた大林社長は、労働環境の改善に着手。社員の給与はそのままに、業務の多くをアウトソーシングして負担を減らすことを決断した。創業以来60年にわたって積み上げてきたものをある意味、「崩す」ことは経営者にとって、勇気が必要だったことは想像に難くない。中小規模の葬儀社の未来につながる改革とその背景を聞いた。

2019年1月15日

インタビュー/小林憲行 文/藤巻史

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「社員にしかできない仕事」以外は思い切って手放しました

改革に踏み切る前はどのような状況だったのでしょう?

例えば女性の担当者を採用したくても、当直という問題があり、環境づくりには苦慮していました。大きな組織であれば、女性専用の当直室を用意するといった解決策もありますが、中小規模の葬儀会社ではそもそも女性社員の数が少なく、なかなか難しいのが現実です。当社の場合は女性の当直者用にアパートを用意していましたが、やはり無理が出てくる部分もありました。

だからといって女性社員の当直を免除すれば、男性社員のなかには批判的な思いを抱く人もいるでしょう。実際、当直しない、できないという女性を認めたくないという社員もいました。

しかし環境が整って当直がなくなり、ホールでの葬儀ということになればそれほどの力仕事ではありませんし、ディレクションやお客様と接する部分は、ブライダルと同じように若い女性でもできる仕事になります。

また、家に帰らない、給料がいいということもあってか、葬儀の業界は昔は離婚率も高かった。給与がよかったからこれまでさまざまな問題が表面化しなかったということもあるでしょう。しかし、映画『おくりびと』が話題になったころでしたか、葬祭業が脚光を浴びるようになりました。新卒の方が葬儀の仕事に入るようになる。それまで売り手市場だったのが買い手市場になるのですから、経済の流れで給与は下がります。

さらに、若い社員が入ってきて、はじめの間は当直など高い給与をもらって満足していても、結婚して子どもが生まれるとやはり家庭が大事になります。

入社から数年が経って、気力・体力と知識が充実する時期は、結婚や出産・育児でライフステージが変化する時期でもあります。志を持ってこの業界に入ってきて、仕事にやりがいも感じているけれど、「今の働き方では家族と一緒の時間が取れない」という理由で辞めてしまう人は確かに多かったですね。

そういうさまざまな問題がありながら、これまで何とかしのいでいたというのが本当のところではないでしょうか?

これは葬儀業界に限らず、サービス業すべてにおいて言えることでしょう。

 

改革に踏み切るきっかけは何だったのでしょうか?

直接のきっかけは、搬送業者との出会いです。

非常に質の良い搬送業者ができたという話は聞いていましたが、当社の社員が偶然、知人の葬儀でこの搬送業者の対応を目の当たりにしました。

20年以上にわたって当社で働いていて、葬儀の業界のことを知り尽くしているといっても過言ではない、そんな社員が「彼らのサービスは本当に素晴らしい」と言うので、その社員と専務がまず話を聞いてみました。そのときに、夜間のコールセンター業務と搬送業務も行っているということだったのでお任せし、社員の「当直」という負担を減らすことにしました。それが2014年のことです。

事実関係でいえばこの通りですが、そこにたどり着くまではさまざまな問題がありました。

月の施行件数が300件、400件という規模の大きな企業では社員数も多く、当直の仕組みもしっかりとしたものができているでしょうが、当社くらいの規模では、当直のために倍の人数を雇用する必要が出てきます。

件数が少なければ当社の役員は皆、外の現場で葬儀を経験してきたものばかりでしたので、いざとなれば対応できると、そう思えていた時代はいいですが、今のように件数が増えるとそうも言っていられません。

 

慣習として根付いている働き方を変える。その決断には勇気がいったと思います

近いうちに業界が激変すれば、当直がネックになるという予感がありました。

とくに従業員数、葬儀件数が少なく、オーナー社長ががんばっているような会社は厳しくなるだろうと思っていました。

件数をこなそうとすればするほど、社員が疲弊してサービスの質が落ちてしまうことは容易に想像ができます。それならいっそのこと、思い切って「社員にしかできない仕事」以外はアウトソーシングすることが未来につながると考えたのです。

最初から明確な狙いがあったわけではなく、現状に対応し続けてきた結果、最良のかたちに行きついたという感覚です。当直している人が偉い、というような会社の空気をなくせるのではないか、という思いも後押しになりました。

社員の主な業務としては、打ち合わせ、外部業者のディレクション、式当日の進行、基本的にはこの3つです。

それ以外は、納棺作業も、司会もすべてアウトソーシングしています。

時間さえずらせば、一人の社員が無理なく複数の式を掛け持ちできる体制です。

これまで社内で蓄積してきたノウハウを手放すことに逡巡もありましたが、搬送と同じく納棺などもその道のプロフェッショナルにお願いしたほうがお客様も喜ばれるだろうと考えました。

 

社員の方の反応はいかがでしたか?

18時から翌日8時までの間のコールセンター業務はアウトソーシングしています。朝8時から9時までは当番制となっていますので、通常の勤務時間は9時から18時です。

こうした改革の結果、社員からは「体の負担が軽くなった」という声があります。

夜間業務を外部に任せるということで、家に帰れるという安心感が生まれています。家族と過ごせる時間は、以前とは比べ物にならないくらい増えています。

また、仕事の量がかなり軽減されることで給与が下がるのではないかという心配もしていたようですが、給与の変更はありません。夜勤や休日出勤を厭う人がいる一方、特別手当をあてにしている人もいたはずですから、準備は慎重に行いました。もちろん、お通夜が入って残業になったり、早朝の告別式で早出してもらったりすれば、特別手当を付与しています。

有給休暇もきちんと取得できるようにしていますが、葬祭部門では来年度からさらに奥さん、または旦那さんの誕生日と結婚記念日には必ずお休みを取ってもらうようにします。当社の社員は既婚者ばかりですので。

冠婚の場合は、自分の誕生日に休んでいただく。結婚式場の場合は、火曜日と水曜日に定休日を設けています。結婚式の日取りは葬儀と異なり事前に予定が組めるので、5年前からいち早く取り入れていますが、より一層、有給休暇の取得を奨励するつもりです。

 

コストはかかりますが、社員に余裕ができたことを考えると、相対的にはむしろプラスだと思います

アウトソーシングすると、コストが増えると思いますが?

外注に出すわけですから当然、コストも上がるところはあります。

一方で人件費を大幅に削減できる部分もありますから、相対的に見ればほとんど以前と変わりません。社員が精神的にも肉体的にも余力を残せるようになり、少ない社員数で質のよい式を執り行えるようになったと考えると、むしろプラスかもしれません。

アウトソーシングのマイナス面をお感じになることは?

アウトソーシングすると社員が故人様の顔を見る機会は減ります。この辺りをきちんと考えないと、お葬式が「作業」になってしまう恐れがあります。

18時から翌9時の間は、「社員が搬送に付き添ってご挨拶をし、段取りを組む」というステップがありませんから、互助会の会員さん以外の方からの急なご依頼の場合は、打合せなどで「どなたがご遺族様か?」ということが瞬時にはわかりません。

夜間搬送業者が残してくれる引き継ぎ書をしっかり読み込み、しっかりご挨拶をしてから折衝に移るよう徹底していますが、自分たちで搬送をしている場合と比べると、やはり連携が難しい面もあります。

アンケート結果を見ると、やはり昼間のご依頼で、搬送の時点から当社の社員が携わったケースのほうが高い評価をいただいていますね。

もう一つは、一度アウトソーシングしてしまったら、後戻りはできないということです。働き方を変えてから4年が経ち、今では過去を知らない社員も増えました。業務を外部に出すときは、このやり方を貫くという覚悟を決めるべきだと思います。

 

多様性のある採用と外注をバランスよく進めていきたい

2018年に社名を改称されています。これも改革との関連がありますか?

新社名ブレス(BLESS)は、哲学者のニーチェが「曙光」で説いた「自分自身と友人に対しては、いつも誠実であれ 敵に対しては勇気をもて 敗者に対しては寛大さをもて その他あらゆる場合については常に礼儀を保て 四つの徳を持て」という一文から「brave(勇気、勇猛果敢)」「lenient(寛大)」「etiquette(礼儀、礼節)」「sincere(誠実)」「sincerity(誠意)」の頭文字をとったものです。

「BLESS」の祝福する、感謝するという意味も、社員の行動の規範となると考えました。

以前、2000年に結婚式場を高砂殿からブレシードに変更しています。

これは先ほどの「BLESS」に「SEED」、種という言葉を付けた造語です。「祝福の種まき」という意味の式場名にしました。このブレシードを新しい社名にしようと考えこともありましたが、3文字の方がわかりやすいのと、その意味するところを考慮して、ブレスとしました。

社名変更については、狙いは大きく2つあります。

1つ目は、「株式会社東海互助会」というより、カタカナ三文字の「ブレス」のほうが親しみやすく覚えてもらいやすいだろうということ。

2つ目は、ブライダルと葬儀の両方で若い方を採用するにあたって、社名から受ける印象を明るく現代的なものにしたいと考えたこと。

1つ目の狙いについては、領収書などを書いてもらうときに、お店の人が大変だろうと思ったからです(笑)。海外からいらした人材が働く機会が増えて、漢字よりカタカナの方が書きやすいかなと。

2つ目の狙いについては、ブライダルでは若い女性の採用がありますが、結婚式場名で募集をかけたときに、やはりネットも調べます。このとき「東海互助会」と出てきますし、お葬式についてもたくさん書かれています。このイメージはあまりよくないかもしれない。まだカタカナにしたほうがいいのかもしれないというわけです。

 

今後の展開については、どのようにお考えですか?

業務のアウトソーシングという点でいえば、導入の理由もさることながら、導入してみると「こんなこともできるのでは?」というように、後から可能性に気が付くこともあります。

コストはかかっても、すべての社員が健全な気持ちで仕事に取り組める環境のほうを優先したいですね。若い人たちに希望をもって入社してもらうためにも、とても重要なことだと思っています。

一方で、一昨年からは週3日、1日2、3時間でシルバースタッフの雇用もスタートしました。メンテナンススタッフとして、通夜のあと片付けや掃除などを担当してもらっています。今の時代の高齢者はとても元気ですから、十分な戦力になりますよ。老若男女を問わず多様性のある採用と、アウトソーシングをバランスよく進めていきたいですね。

ありがとうございました

 

 

 

大林康隆

株式会社ブレス 代表取締役
1960年 4月28日 東京都出生
1985年 3月 早稲田大学法学部卒業、4月 株式会社東海互助会(現株式会社ブレス)入社        
1997年 2月 代表取締役 就任
2018年 9月 社名変更

所属団
一般社団法人全日本冠婚葬祭互助協会 理事
一般社団法人全日本冠婚葬祭互助支援協会 理事

「ライフエンディング業界のトップインタビュー」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている企業のリーダーにインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができないライフエンディングの最先端の場で、どのような取り組みが行われているのか?余すこと無くお届けします。

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