ライフエンディング業界のトップインタビュー 会議は人を育てる場。トップの自己満足で終わらせてはならない

泉屋株式会社
代表取締役社長 泉浩一

八代将軍徳川吉宗が亡くなり、嫡男である徳川家重が家督を継いだちょうどその頃、泉屋は「池田屋」の屋号を掲げ、仏壇・仏具を扱う店として現在の大阪市中央区に創業した。以来260余年におよぶ歴史を経て、泉屋は仏壇・仏具から葬祭、墓石、霊園に至るまで、人間の「哀悼の心」に寄り添ったソリューションを総合的に提供する企業へと変貌を遂げている。近年では、介護や生活支援といった超高齢化社会のなかで重要性が増す分野へも進出。時代の変化とともに変わっていく消費者のニーズを見極めた柔軟なチャレンジで、「オール泉屋」としての立ち位置を確立した。「何かあったら泉屋へ、と言ってもらえる存在でありたい」と話す泉浩一社長にお話を伺った。

2019年7月9日

インタビュー/小林憲行 文/藤巻史

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歴史があるだけでは生き残れない。常に次の世代のことを考えていくことが大切

 もともとは仏壇・仏具の小売店としてスタートされたそうですね。

はい。創業から昭和50年代くらいまでは、ずっと仏壇・仏具のみを取り扱っていました。私も、生まれたときから仏壇屋の息子だったわけです。以前は当社のような古い仏壇店がたくさんあったのですが、次第に仏壇や仏具だけでは立ち行かなくなって廃業するところが増えていきました。単に歴史があるというだけでは生き残っていけないということを実感しますね。

もちろん私たちも、常に次世代のことを考えて、常に新たな一手を考えていく必要があります。お墓や葬儀に進出したのも、先代を含めて、早くから自分たちの未来の姿を考えてきたからです。社長に就任する直前の社員総会でも、人口の減少予測を示して「覚悟をもって、常に次のことを考えながら動くように」と社員に伝えました。

御社の場合、世代交代がとてもスムーズに進んだ印象です。

そうですね。先代はスッと引いて、今は会長として頑張ってくれています。私は次男ですし、会社は兄が継ぐものだと思っていたんですよ。兄は社交的で経営者向きでしたし、私はものづくりが好きだったので、自分が経営者になるとは考えてもみませんでした。兄がお寺の住職になるという道を選んだことで、自然とこういう役割分担になった感じですね。

私は泉屋には最初、経理として入社しました。その前は、叔父の工場に住み込みで働いていたんですよ。古くなった仏壇を洗浄して、漆を研ぎなおし、塗りなおすという一連の作業を見るのが好きでしたね。

 

個人商店の集まりから一つの大きなチームへ、組織の在り方を変える

社長就任後は、まず何に着手されましたか?

先代は強いリーダーシップで会社を牽引するタイプでした。しかし、会社が規模を拡大していく過程におけるワンマン経営は、細部まで目が行き届かなくなり、失敗やトラブルのリカバリーに追われて成長が鈍化してしまう危険をはらんでいます。先代は私には絶対に越えられない存在であり、とても尊敬していますが、会社の今後を考えれば経営の手法を変えていくべきだろうと思いました。

現在は、個人商店化していた部署間の壁をなくし、知識や情報を共有する場をつくって、全社が一つのチームとして協働できる体制づくりに取り組んでいます。あわせて、これまでは「見て覚える」「聞いて覚える」が基本だった後進の指導についても、マニュアルを導入して万人が同じように知識を得られる環境にしていきたいと考えています。

教育体制の刷新も図っているのですね。

泉屋の社員であることを誇りに思ってもらえるよう、仕事の知識だけでなく人としての資質の向上も視野に入れて教育体制を整備する一方、研修やマニュアルで教えきれない部分を身につけてもらう場として会議も活用しています。

良い数字だけを発表して、あとはトップや経営陣が指示を出して終わりという形だけの会議では、出席しても面白くないですよね。ですから、良い数字はもちろん悪い数字もしっかり全員に共有して、「なぜこういう数字になったのか」「どうすれば改善できるのか」を一人ひとりに考えてもらうようにしました。会議は育成の場であって、自己満足の場であってはならないというのが私の持論です。

 

「人ありき」の成長にシフトし、「何かあったら泉屋に」というお客さんを増やしていきたい

現在の事業について教えてください。

仏壇・仏具の販売から、霊園開発・管理、墓石の建立、葬儀、サービス付き高齢者向け住宅の運営まで幅広く手掛けています。割合としては葬儀が5割ほどでしょうか。全部で12ホールあって、年間1,700件から1,800件の施行をしています。亡くなる人が増えているので、年々増えている感じですね。葬儀を依頼してくれる方のうち、6割は泉屋の会員制度「こころの会」の会員の方です。

 生前契約の方が半数以上を占めているのですね。

仏壇が積極的な営業スタイルであるのに対し、葬儀はどうしても「良い葬儀をすればお客様はついてきてくれる」という受け身の営業になりがちです。この差を実感して、これからは葬儀もどんどん見込み客を作っていく必要があると感じました。「いかにも営業」という雰囲気は葬儀にそぐわないので、セミナーや感謝会といったイベントを通じてつながりを作り、泉屋を信頼していただいて「こころの会」に入会していただくという流れをどれだけ作れるかがカギだと思っています。

現在の葬儀業界に対して、どんな思いをお持ちですか。

実は2018年に母が亡くなって、はじめて外から業界を見たんですよ。お客さんとして宗教者を見て、また泉屋を見て、初めて気づくところが色々ありました。特にお寺さんと葬儀社との関係は、改善の余地があるのではないでしょうか。いろいろな考え方のお寺さんがありますが、私たちとお寺さんがもっと寄り添いあっていく必要があると思います。特に仏式のご葬儀ではお寺さんとの関係性が重要ですから、お互いにもっと歩みよっていけたらいいですね。

最後に、今後の展望をお聞かせください。

今後は「建物ありき」から「人ありき」への脱却を図り、「何かあったら泉屋に」と言ってくれるお客様を増やしていきたいと思っています。建物はお金があれば建てられますが、それに人が伴わなければ結局は意味がありません。

教育体制もそうですが、会議で気づきを促すなど日々のちょっとした工夫を積み重ねて、良い人材を育てていきたいですね。実は、これまでは教育にそれほど興味がなかったんですよ。でも、実際に携わるようになってみると、人の成長を実感したときのやりがいは大きいですね。人の育成という分野で、初めて小売業でなくサービス業の勉強をさせてもらっているような気がしています。

ありがとうございました。

 

泉浩一

1973年生まれ。
1997年9月 京仏具製作所株式会社 取締役就任。
2002年5月 泉屋株式会社 管理部経理課着任。
2003年8月 泉屋株式会社 取締役管理部長就任。
2009年4月 泉屋株式会社 専務取締役就任。
2014年7月 泉屋株式会社 代表取締役社長就任。
2016年7月 京仏具製作所株式会社 代表取締役社長就任。

「ライフエンディング業界のトップインタビュー」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている企業のリーダーにインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができないライフエンディングの最先端の場で、どのような取り組みが行われているのか?余すこと無くお届けします。

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