【アジアの聖地から】密林に侵食される寺院遺跡 タ・プローム(カンボジア)


生き続けるカジュマルは寺院を食い尽くすのか、それとも支えているのか。
この国の最も悲しい時代を生き抜いた尼僧は、薄暗い祠で祈り続けて10年。

【知識・文化・医療が集約された大都市】

カンボジア、アンコール世界遺産群のあるシェムリアップ州。ここにタ・プロームという寺院跡があります。ここは12世紀末にアンコール王朝最盛期の王、ジャヤーヴァルマン7世によって建てられた仏教寺院でした。この王が民衆のために働いた慈善事業が集約されていたのもこの地。東西1000m南北600mという広大な敷地内に、1万2千人が暮らしており、その中の僧院では2千人以上の僧侶を養成。そして600人もの踊り子が稽古に励んでいました。特に医療には注力し「国民が病で苦しむと国家の苦しみも大きくなる」と、地域には100を超える病院を建て、併設された学校では多くの若者が医学を学んでいたのです。

戦争で崩壊された瓦礫がそのまま残ります

さて、多くの民衆で賑わい、知識人、文化人を育てていたこの地ですが、王の死後は急速に衰退し、14世紀末についにアユタヤ王朝に侵攻され没落に至ったのです。
そしてタ・プロームは19世紀中頃に遺跡として発見されるまで、自然と共に静かに、長い眠りにつくこととなるのです。

【生き続ける巨大なガジュマル】

ここで最も人々を魅了するのが、巨大なガジュマルに侵食される建造物の姿です。樹齢300年とも言われる巨大なガジュマルは没落した都に追い打ちをかけるかのように、覆いかぶさり、少しずつ締め付け、全てを飲み込む勢いです。建物は全く抵抗することもできません。入り組んだ樹枝は脈々と血を送り出し、筋肉隆々の太い根は力強く建物を踏みつけているかのようです。

巨大な足のような筋肉質なガジュマル

しかし一方では、このガジュマルが建物の崩壊を防いでいるという捉え方もあります。確かに無力な建物の骨となり筋となり、このお寺がせめて立っていることができるように、一生懸命に支えてくれている献身的な姿に見ることもできるのです。
いずれにしても人の命も人間の造ったものもいつかは力尽きるという無常。大自然の中では無力で、自然に生かされているという真理を体感できる場所です。

【悲しい歴史を繰り返さないよう祈る尼僧】

この密林と荒廃の薄暗い祠に祭壇を祀る女性がいました。お年は60才を過ぎた頃合いでしょう。尼層はここで毎日お香を焚き、祈りを捧げているのです。その年月はなんと10年。この国でこの世代の方は特別なのです。なぜなら1970年代のポルポト政権における内戦で数百万人もの大人が殺害され、この国の成長はそこで一度止まってしまったのです。この方も当時は既に20代の大人。生き残りと言ってもいい年齢です。国のいちばん悲しい時を生き、おそらく家族や多くの知人も失った世代。自分の現地の友人の母親もそうですが、目の前で家族を殺害されたショックから立ち直ることができず、未だに一日を祈りに捧げる女性は少なくないのです。訪れる人、一人ひとりを優しく見つめながら丁寧にお守を結んでくれていました。皆の幸せ、健康、商売の成功を祈っているとのことでした。平均年齢24歳のこの国の若者が同じ過ちを繰り返さないように、正しく国を育ててくれることが切なる願いなのです。

薄暗い祠で毎日祈りを捧げる尼僧

ここでは世界中からの観光客が口をそろえて「神秘的!ファンタジ―の世界!」と感動していました。それもそのはず、ここはアンジェリーナ・ジョリー主演のアクション映画「トゥーム・レイダー」の撮影地としても有名な場所で、更に宮崎駿監督の「天空の城ラピュタ」のモデルという説もあるほどです。残念ながら自分はどちらも観てませんので、この二本を見て行けば感動も倍増だったかと、ものすごく後悔しました。

映画の撮影地としても世界的に有名
映画の撮影地としても世界的に有名
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齋籐 浩司

齋籐 浩司

齋藤浩司(株式会社B-WAYグループ 代表取締役) 互助会から葬儀社を経て2001年同社創業。2002年に葬送支援NPO法人を創設。2010年には宗教法人を新規認証。CSR活動として、2007年お寺で余ったお供え物を困窮世帯へ届けるフードバンクを設立。2013年からは東南アジアの貧しい子ども達への生活・教育支援を開始し、現在はカンボジアのスラムで孤児院と幼稚園を運営。活動時に各国の聖地を訪れ、宗教家や現地の人々から文化を学んでいる。東京都新宿区出身。