今回は、介護サービスの基本となる「介護過程」「介護目標」 についてお話したいと思います。
個別サービス計画書とは?
もしみなさんの家族が、介護保険のサービスを始められると、「個別サービス計画書」という計画書をサービス事業者が作成し、みなさんの手元に届けられます。
例えばデイサービスに通っていれば「通所介護計画書」、ホームヘルプであれば「訪問介護計画書」、訪問看護であれば「訪問看護計画書」という名前で呼ばれます。
この計画書は、通所介護サービスを利用するとき、「具体的にどんな目標を持って利用するのか?」「具体的なサービスとして何を行なうか?」、そして「サービスを行なう時の留意事項などが載っています。
計画書というと、ケアマネジャーが作成する、「居宅サービス計画書(在宅)」も有名です。施設(特別養護老人ホーム等)の場合は、「施設サービス計画書」と呼ばれています。
この両者の関係ですが、ケアマネジャーが作成する「居宅サービス計画書」には、ご利用者の生活全般の課題、それに対する目標、具体的なサービスの種類・頻度、月のスケジュール、毎月の利用金額などが載っています。言うなれば、ご利用者の介護方針の設計図と言えるでしょう。
もちろん計画は、ケアマネジャー1人で作成するものではなく、利用者・家族・サービス事業者の意見なども参考にして、利用者の同意をえて、完成されます。
「個別サービス計画書」は、そのケアマネの設計図から、各サービス(通所介護、訪問介護など)が、利用者の困りごと・課題を少しでも解消、改善するための目標を定め、その成果を利用者が手に入れられるように、具体的なサービスメニューを定めていきます。設計図から実際のサービスを作るということです。この個別サービス計画書に沿って日々のサービスを提供していきます。
この介護過程というのは、この改善計画と実施の一連の手順になります。
介護過程の教科書的な定義は、「利用者の介護生活における解決すべき課題(生活課題〔ニーズ〕)を見きわめ、解決するための計画を作り、実施し、評価する一連のプロセスをいい、介護の目的を実現するための、客観的で科学的な思考と実践の過程のことである。」となります。
介護目標とは
介護保険は、社会保険の1種類ですから、国民からの介護保険料、税金が投入されています。公費で運用されている制度ですので、厳格なルールを守ること、適切にサービスを運用することが求められています。
この「介護目標」は、「介護過程」で生まれるものの1つです。介護保険が始まった時から、介護保険の核になっています。場当たり的な介護では無く、目標をきちんと定めて、段階を経ながら、その目標を達成していきます。そのため、この「介護目標がない」という状態は想定されていません。
「介護過程」から生まれるもの
前回ご説明した「介護過程」は、図にすると、以下になります。
この「介護過程」から生まれるものとしては、
- 利用者、家族の課題
- 課題に対する具体的な目標
- 目標を達成するための具体的なプログラム
- 目標やプログラムの効果を測定するためのテスト
となります。これを事業所では、その内容を文書として記録しています。
- アセスメント用紙
- 個人サービス計画書(目標とプログラム)
- 実施記録用紙
- 評価用紙
この文書の核となるのが、「介護目標」が記載されている、「個別サービス計画書(通所介護計画書、訪問介護計画書、訪問看護計画書等)」です。
人生に目標があると、介護目標も書きやすい?
実は、この「介護目標」は、利用者にとっても、答えやすい、答えにくいがあります。私の人生目標がある!という方は、この介護目標も明確にビシッと定まります。
しかし、私の人生目標って何だろう???と悩んでしまう人の場合、この介護目標もなかなか定まらず、なんとなく目標になったものに対して、本当にこの目標で良いのだろうか?とスタッフも一緒に悩んでしまうこともあります。
実際に、スタッフに質問をされても、何と答えれば正解なのか?と悩んでしまう利用者さんも多いのです。
介護保険制度では、厳格なルールが定められているため、そのルールどおりに記録されているか(必要な記録はあるか)?、二度手間になっていないか(同じ内容を複数の書類に記載していないか)?、利用者の同意があるか?といったことを具体的に確認することになります。
そして、改善点が見つかれば、その改善方法を、その事業所さんの雰囲気や仕事法にあった、記録法のアイデア提案、書類のひな形(書式の見直し)、書類の管理術(書き漏れ、チェックを防ぐやり方)などをお伝えしています。
「介護目標」から見えてくること
「介護目標」を見ていて、しばしば気になるのが、素朴に「なぜ、介護目標が変わらないのか?」という点です。
「介護目標」は、利用者の状況に併せて、どんどん変わっていって良いものです。もしも介護目標が変わらないということは、あまりにも壮大な目標になっているか、ご本人ではない目標が書かれている(家族の目標?)、ということもあるかもしれません。
目標例(第1段階)
- 短期目標:シャワー浴で入浴できる(背中の洗体はヘルパーが行なう)
- 長期目標:友人と楽しい時間を過ごす過ごす、お風呂に1人で入れる
短期目標は3~6ヵ月、長期目標は6~12ヵ月で達成できることを目標にします。
新しい生活に慣れてくると、誰かに手伝ってもらう事が徐々に減り、自分の活動内容や範囲が広がっていきます。後遺症はありますが、上手く付き合っていけるようになります。
この段階では、足りないところが徐々に減っていきますので、サービスが落ち着いていきます。
また、もっといろいろなことができるようになると、「介護目標」も「1人でできる(家族に迷惑を掛けない)」という内容に変化するかもしれません。
目標例(第2段階)
- 短期目標:福祉用具を使って、1人で洗体(背中)ができる
- 長期目標:お風呂に1人で入れる
「お風呂に1人で入れた!」など、徐々に生活への自信が高まってくると、例えば「図書館での読み聞かせのボランティアをもう一度やりたい!」というように、これからの人生でやりたいこと(これまでの人生でやり残していたこと)を考えるようになります。
中には、「これをしないと天国には行けません!」ということをおっしゃる方もいます。目標がガラッと変わる方もいます。
この段階では、足りないものではなく、「自分のやりたいことを実現するためには、どんなサポートが必要なのか?」を考えることになります。自分の生活を前向きに変えていくという積極性が全面に出てきます。一方、「家事は家電に任せる!」というように、「自分にとって価値の低いことは、もうしない!」と考える人もいます。
「このやりたいことをする!」ために、現介護サービスをどのように活用するか?
そのあたりが介護目標に表現されます。
目標例(第3段階)
- 短期目標:身だしなみを整える(入浴・整容)、図書館まで杖で歩く(500m)
- 長期目標:図書館での読み聞かせのボランティアを再開する
その方のやりたいことが明確になるにつれて、目標が変化しているのが、お分かりいただけると思います。
とはいえ、その方の性格、家族状況、精神状態によって、人生のやりたいことを、口に出すこともためらう、利用者さんが居るのも事実です。この場合は、私に話をして下さいという雰囲気作りも必要になります。
この介護目標が、ICFの「参加=人生」に繋がる目標になっていると、私のやりたいことを実現できている!と感じやすくなります。利用する満足度が高くなります。
目標を作る時は、その利用者さんの「参加」の目標を聴いてみることをおすすめします。
この記事を書いた人
橋谷創(橋谷社会保険労務士事務所代表、株式会社ヴェリタ/社会保険労務士・介護福祉士)