お葬式の後、相続で意外と困るのが「車」。
自動車は、相続手続きのときには忘れられていたり、たとえ相続しても、結局は持て余してしまうケースも多いようです。しかも、手放すタイミングを間違えると「価値がなくなってしまう」とか?
お葬式の後お車を処理するまで時間をおいてしまった場合、デメリットは3つあります。
- 車の価値が下がる
- 維持管理費がかかる
- 手続きが面倒になる
今回は、中古車買取・中古車査定の専門家、アップル下高井戸店の鈴木高宏店長に、上手な車の相続について、お話を聞きました。
せっかく相続した車も、数か月もすると手放す人が多い
――せっかく相続した車を売りたいという依頼はよくあるのですか?
多いです。
特に年が明けるとそのような依頼が増えます。季節の変わり目のころにお亡くなりになる方が多いようで、「一段落ついたから」ということのようです。
相続の時、お車は「自分が乗りたい」とか、「形見だからそばに置いておきたい」とおっしゃるご遺族の方は大勢いらっしゃいます。
しかし、そうは言ったものの、数か月もすると「やっぱり売ります」となってしまうことが大半なんです。
――どうしてでしょう?
まず、そのお車に乗れないからです。
亡くなられた方が乗っていたお車は、たいてい車検が切れています。
突然お亡くなりになった場合は別ですが、一般的にはお亡くなりになる前は入院されていたりしてお車には乗られませんし、ご家族も手が回らない。つまり生前から整備がされていないのです。
動かしていない間に、いろいろなトラブルも発生します。
全くエンジンをかけてないとバッテリーが上がっていたり。お車の中は気密性も高いので、湿気がこもってカビが生えていることもあります。
乗れないお車を相続すると、まず乗れるように整備する必要がありますが、それには費用も掛かります。
その負担が大きくて、匙を投げる方が多いのです。
故人が遺した財産を無駄にしないために
――皆さん、車について真剣に考え始めるのはいつくらいでしょうか?
真剣に考え始めるのは、言葉は悪いですが、そのお車が邪魔になってから。
「形見だから」といっても、ご自身が車をすでにお持ちの場合、単純に維持費が1台分増えるわけです。
ご自身が所有しているお車を手放してまで、故人の車に乗りたいという方はあまりいらっしゃいません。
よほど高級なお車であっても、ご自分で管理をされてみると「こんなに維持費がかかっていたんだ!?」と驚かれる方も多いです。
ですので、駐車場を借りている方は、比較的すぐに動きます。目に見える負担が毎月あるわけですから。
一方、自宅にガレージがある場合、置いておくケースが多いです。
この場合、真剣に考えるのは、自動車税のタイミングでしょうか。
普通の排気量の車でも4万円近い税金がかかります。なので、通知が来ると皆さん、動き出します。
――自動車税の通知が来てからでも間に合うものですか?
価値あるお車なら、買い取り業者が自動車税を負担させていただく場合もあるでしょうが、車検なども関係するので、やはり早ければ早いほどいいでしょう。
また、時間がたってしまうと、当然、査定額も下がります。
お車をただ置いておくということは、せっかく故人が遺してくださった財産の価値を無駄に失くされているわけです。
そのまま放置しておいて「やっぱりいらない」となった時に、お車としての価値は0円どころか、引き取り代までかかったら、泣くに泣けません。
さらに、お車の保管には場所も必要です。
お葬式の後、「落ち着きました」という頃にお車の相談に伺うと、10軒中8軒のお宅では、ガレージのお車の周りに、故人が使っていたゴルフバックなど、捨てられない荷物が積まれています。
部屋の中を整理するときに、荷物をガレージに出すのですが、お車がなければそのスペースに荷物を出せれば、整理もしやすいですよね?
お車だって、遺族が整理しようしている家具などと一緒です。
――車も遺品整理と同じなんですね。
面白いもので、お車を整理すると、ほかの遺品の整理も進むようです。
ガレージがあるお宅にはそれなりに、荷物もたくさんありますし、また遺族が年配の方であればあるほど、お洋服など捨てられない場合が多いです。
でもお車をどかした後は、遺品の整理がどんどん始まります。
新しいスタートを切る、何かのきっかけになっているのかもしれません。
物はなくても想い出は皆さん、心の中にお持ちです。
ですので、例えば廃車になってしまう場合には、エンブレムを外して差し上げたり、何らかの形で心に残るようにしています。また買い取らせていただいたお車は、ピカピカに磨いて、お写真を撮って額に入れてお渡ししています。
全ての方に一律のサービスではありません。思い入れが強すぎる方は、そっとしておくほうがいいでしょうし。ケースバイケースで対応しています。
お話を伺って「この方だったら喜んでくださるかな?」と思う方に差し上げています。
――お車を置いておくと、手放すときの手続きも大変になるんですか?
買い取り金額にもよりますが、財産と見なされれば相続人の皆様の同意書が必要になります。それに付随した公的書類も必要になります。
しばしば「これも書類が必要なの?」と驚かれる方もいます。
相続について専門家にお任せしていたという方でも、一通り終わった後に、お車だけぽつんと取り残されてしまっていることが多いのです。おそらく、士業の方に依頼する際に、お車は「置いておきたい」とか「乗りたい」とか、あいまいな状況になってしまって、依頼内容に含まれていなかったのでしょう。
相続に関する必要書類を「予備に取っておいた」という方もいますが、だいたい古くて期限が切れています。
せっかく相続が一段落したのに、もう一度士業の方にお願いするとなると、また費用が発生します。
といって、必要な書類をそろえようと遺族がご自分で動こうにも、相続に関わる親せきどこにいらっしゃるのかはっきりご存じなかったり。
特に遺族がご高齢の場合などは時間がかかる場合があります。
――こうした事態を避けるには、どうすればいいのでしょうか?
お車の相続も「いつまでにどうする」というプランニングが必要です。
お車についても決めておけば、書類を改めて取りに行く必要もありません。
さらに、終活の段階で決めておけば、よりスムーズです。
生前であれば、ご本人の決断だけですから手間もかかりません。
年に数回しか乗らない車に、税金や駐車場代、保険、整備の費用など維持管理に相当額を払っています。
早めに整理しておけば、買い取りの価格が下がらないだけでなく出費も押さえることができます。
――ありがとうございました。
せっかく相続した車も、有効に活用するのは難しいようですね。
お葬式の前後では意外と忘れられがちな車。終活の一環として、事前にどうしたいのかを考えておくことが重要のようです。
(小林憲行)