ライフエンディング業界のトップインタビュー 自ら変化を起こしていくという気概を持って、進化し続けていかなければならない

株式会社博全社
代表取締役 松丸喜樹

2015年で100周年を迎えた株式会社博全社。100周年を記念した社史を作るため、過去の資料を紐解いたのをきっかけに、リスクをとって新たな事業領域を拡大することの重要性に気付き、積極的なM&Aを展開。同業種や周辺業種と統合しながら、より良い葬儀の在り方を模索し続けている。2018年9月には、「人に寄り添い、人を想い、絆や思い出を創る」という思いに含まれる 「添」「想」「創」の字からSOUホールディングス株式会社を設立。さらなる業容拡大を見据える同社の戦略や今後、そして業界への思いについて、話を聞いた。

2018年10月23日

インタビュー/相木孝仁  文/藤巻史

1925(大正14)年、60名余りの出資者が集まって設立されたそうですね。当時の設立の思いを、今も大切な指針としていらっしゃると伺いました。

はい。そもそもは1915(大正4)年に亥鼻葬儀社としてスタートし、1925(大正14)年に法人化しました。2015(平成27)年に100周年を迎えた折、社史を編纂しようと公文書や過去の新聞といった資料を紐解いたところ、発起人として名を連ねた出資者の方々が何をめざし、何を重んじていたのかということが改めて明らかになったのです。

まず、設立の趣意書には、大きく2つのことが書かれていました。

1つは、「火葬場を新設し、死体及び患者使用の物品等を尤も廉価に焼却し、かつ、官庁の証明ある貧困者には無料で応じ、病毒の伝播を防ぐと同時に一般的衛生思想の普及に資する」。

もう1つは、「家庭の中に不幸があった場合、盛儀に葬儀を行うは愛情の表れであり虚飾ではない。しかし、物価高騰により葬儀費用は莫大なため、尤も廉価に応じ遺族の負担を軽減する」というものです。

まだ土葬が主流だった大正の初めに、葬儀を公衆衛生の観点から考えること、葬儀を行うのは見栄ではなく愛情の表れであること、そして遺族の負担を軽減することなど、葬儀に携わる者が時代を超えて大切にしなければならないことといったスピリットを示してくれていたわけです。

その当時、これだけ普遍的な意思を持って設立されたというのは、すごいことですね。

私も見たときは感動を覚えました。

趣意書の最後には、「社会貢献が目的であり、多大な利益を得ることは望まない」とも書かれており、発起人の方々が葬儀を公共的なものととらえて社会貢献をめざしていたことがよくわかります。

これからも私たちが守り続けていかなければならないものだと考えています。

積極的な営業戦略を展開しておられますが、その裏には設立以来の思いが息づいているわけですね。

私がよく言っているのは、最も強いものや賢いものが生き残るのではなくて、環境に順応した者が生き残るということ。それから、今やっていることを深掘りしていく「深化」、自分の能力を伸ばす「伸化」、新しく変わる「新化」の3つをあわせて本当の「進化」であるということです。

「深化」と「伸化」はどちらかというと今あるものを改善することですが、「新化」はまったく新しい事業領域を切り開いていくということです。

うちの従業員には繰り返し伝えている大事な考え方のひとつです。これが当社の企業体質をよく表していると思います。

会社の体を大きくすることより、健康で強い体を作ることを重視しています。

葬儀社全体のフロントランナーである松丸社長は、業界全体に影響を与えるような取り組みを積極的に行っていらっしゃいます。事業を継承した時は、どんな思いをもっていらしたのでしょうか。

先代であった父が突然亡くなったので、引き継ぎらしい引き継ぎはありませんでした。とはいえ、銀行を辞めて業界に入ってから10年くらいになっていましたし、実務は自分が率いているという自負もあったので、何とかなるという自信はありました。

ところが、父がいなくなってからというもの、何ともいえない不安感が日々大きくなっていって……。やることは変わらないのに、おかしなものですね。

このままではいけないという一心で不安感の原因を考え抜いた結果、自分の中に確固たる経営の柱がないからだということに気付きました。

何のために経営しているのか、どのような会社にしたいのかが明確になっていなかったのです。

それからは、さまざまな人の話を聞き、たくさんの本を読みました。その結果、「従業員の豊かな生活を実現するために力を尽くしたい」と思ったのです。

「業界トップレベルの給与水準をめざし、長期休暇を含めた休日をしっかり取れるようにする」と従業員と約束し、労働環境の改善を進めてきました。就任当時より少しずつですが良くなっていると思います。

新しい事業領域の開拓も、積極的に進めていらっしゃいます。

父は、石橋を叩いても渡らないというような慎重な人でしたが、一方で「お金を使うべきときは惜しみなく使え」「生きた金を使え」ということもよく言っていました。

冠婚葬祭互助会開始、エンバーミングセンター開設といった新規事業には、当然ながらリスクもあれば資金も必要となります。それでも、必ず世の中の役に立つと信じれば、迷いなく資金を投じる人でした。早くからそうした経営方針を見てきたので、私にも同じような感覚が染みついていると思います。

父は売り上げより利益の人でした。

私も、会社の体を大きくすることより、健康で強い体を作ることをめざしています。強い体にするためには、現状の事業領域のみならず、新しい領域を開拓する必要があるためM&Aの手法を取り入れました。

M&Aについては、2016年2月外食、6月人材派遣、11月介護、2017年3月はイベント関連、そして年商約45億円のアスカグループと、積極的に展開していらっしゃいます。

現在、葬祭事業のほか、介護事業、人材派遣事業、外食事業など、グループで16社になりました。そのうちの2社は海外企業で、今年の2月にハワイ、8月にロサンゼルスの会社とご縁があったものです。これから、日本で築いたビジネスモデルを海外に展開していければと考えています。

M&Aの導入は、新規事業獲得や規模拡大によるメリットなど一義的なこともありますが、異なる企業文化やノウハウを共存させるチカラ、多様性を高めることが企業にとって不可欠だと考えてのことでした。相手を尊重しながらお互いの強みをより生かす考え方で、信頼に基づいて共に成長することができています。

周辺業種とのM&Aにも積極的ですね。

より良い葬儀の在り方を考え、時代に合ったサービスを提供するためには、葬儀という「点」ではなく、葬儀の前段階にある介護、またお墓や仏壇といったビジネスとも「線」でつながっていくことが大切だと思っています。介護、そして葬儀を含めた供養は、これからも世の中に必要なものとしてあり続けます。

人との絆や想い出作りに役立つ存在として、業界のお役に立てるよう邁進していきたいと思っています。

型がなければ型は破れない。マニュアルは、それを超えてもらうために作っています。

人材教育についてのお考えをお聞かせください。

葬儀社として、また葬儀に携わる者として必要な知識や実務マニュアルなどは、会社として基本的なものを定めています。

ただ、それらはサービスを標準化することが目的ではなく、ご遺族ごとに異なる要望や状況を踏まえて柔軟に対応するために作成しています。

マニュアルを超えるためにマニュアルがあるというイメージです。ですから机上研修よりも、現場研修やOJTによる「現場力」の向上を大事にしています。

そして、何より大切にしているのは、その基本をベースとして、一人ひとりが自ら考え、そこから発展させていく力を持ってもらうことです。いわゆる「守破離」(しゅはり)という考え方です。

教えを確実に守って自分のものにしたら、他者からより良いものを取り入れて自分に合った型をつくる。そして、最後に独自の表現を確立させていくということです。

従業員がそうした行動を実行できるよう、会社としてはサポート体制をさらに強化していきたいと考えています。

社員に意識させている、大切にしてほしい考え方のようなものはありますか?

私はいつも、現場の仕事になぞり「一人で棺は持てない」と話をしています。葬儀の最初から最後まで担当者一人だけでお手伝いすることはできません。必ず誰かの助けや協力が必要になってきます。そういう意味で、従業員には協調性や相手ヘの共感性といったものを大切にしてほしいと思っています。

業界の価値が高まらない限り、個々の会社の成長はないでしょう。

現在のライフエンディングにかかわる業界に対する思いをお聞かせください。

今、業界では単価の下落に伴う売上の減少や収益率の低下などを理由に、先行きを不安視する声が多く聞かれます。

だからこそ、業界の垣根を超えて、協力できるところは協力しながら、助け合えるところは助け合いながら、より良くより強い供養業界をつくっていくという意識が必要だと考えています。

自分の会社を良くしたいとはだれもが思うことですが、業界の価値が高まらない限り個々の会社の成長はありません。業界は一つの船です。船に乗っている一員として体力をつけながら、船が安全に航海できるようにしなければなりません。

今はちょうど、そういう考え方に転換する過渡期なのではないでしょうか?

この業界の事業領域はよく「ライフエンディングサポート」という言葉で表現されますが、私は「ライフサポート」と定義しています。

エンディングに限らず、もうちょっと広い範囲をサポートしていく役割だということです。供養業界に根付いた「人を想う」「人に寄り添う」という姿勢は、業界の枠を超えて生かすことができると思います。培ってきたものを生かしつつ、横のつながりを深めて業界全体の価値を底上げしていくことが大切だと思います。

業界に向けたメッセージをいただけますか?

最近、「オープンイノベーション」という言葉をよく耳にします。顧客のニーズの多様化やグローバル化による競争の激化を踏まえて、自社内だけでなく外部と協力してノウハウやアイデアを出し合うことで新たな価値を生みだすというものです。

世の中の目まぐるしい変化のスピードに飲み込まれることなく、自分たちが率先して変化を起こしていく気概をもって進化していきましょう。

ありがとうございました。

松丸喜樹

株式会社博全社 代表取締役
1969(昭和44)年、千葉市出身。1992(平成4)年、京葉銀行入行。1996(平成8)年、株式会社博全社入社。2008(平成20)年より株式会社博全社代表取締役。

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「ライフエンディング業界のトップインタビュー」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている企業のリーダーにインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができないライフエンディングの最先端の場で、どのような取り組みが行われているのか?余すこと無くお届けします。